一緒のクラス
「あぁ、ドキドキしました」
「ごめんなさいね。アニエラ様にまで迷惑をかけてしまって」
「迷惑だなんて。ふふ、ちょっと楽しかったですわ。殿下とリナルド様は、小さい頃からおモテになっているので、そんなお二方をあしらってしまう方達がいるなんて……さすが私の女神様ですわ」
「もう、アニエラ様ったら」
そんな会話をしていると式が始まった。学園長先生のお話から始まって、先生たちの紹介、学校の規則などを一通り聞く。
そしていよいよ生徒会長の挨拶だ。堂々と壇上に上がってくるお兄様。やっぱり素敵。じっと見ていると、舞台の真ん中まで来たお兄様とふと目が合った。
満面の笑みを向けられてしまった。小さく手まで振っている。
途端に私の周辺の何人かのご令嬢方が倒れてしまった。
他の席でも同じことが起こったらしく、早々にお兄様は退散することに。お兄様の笑顔の破壊力、恐ろしいです。
入学式の後、クラスの教室へ向かう。偶然にもアニエラ様と同じクラスだった。席は特には決まってないようなので、仲良く隣同士に座る。
周りを見渡してみると、こちらをチラチラ、ここでも視線が集まっている気がする。
「ねえ、ずっと思っていたのですけど、どこに行っても見られている気がするのですが。もしかして私に何かついておりますか?」
「えっ?ルーナ様ったら何を仰っておりますの。皆、ルーナ様の美しさに魅入られているのですわ」
「えっ?美しい?」
「えっ?自覚なかったのですか?ご家族の皆様にも言われていたのではありません?」
「確かに、家族には言われておりましたけれども……でもそれは私が末の娘だし、身内びいきというものだからだと思っておりました」
「いやだ、ルーナ様ったら。ご自覚なしですか?ルーナ様はとってもお綺麗ですわ」
「あら、それはアニエラ様です。とってもお綺麗でお可愛らしいですわよ。私が男であったなら絶対好きになってしまいますもの」
「いやですわ、ルーナ様ったら……」頬を赤らめて照れるアニエラ。本当に可愛い。
なにやら周りがざわついてるようだけど、どうしたのかしら。
ガラッと扉が開き、担任の先生がやってきた。
「皆揃ってるね。私はこのクラスの担任のジェラルド・ファラーチ。魔法学の担当だから、君たちに教えるのは少し先になるけどよろしくね」
この学院はイケメンホイホイなんだろうか……青味がかった長い黒髪を後ろに一つに束ね、細い銀縁の眼鏡の向こうの瞳の色は緑だ。穏やかな雰囲気で優男という感じ。もうすでに何人かのご令嬢たちの目がキラキラしている。
「今日は明日からの持ち物の確認と、せっかくだから自己紹介だけやってもらおうかな」
ニコニコと先生が言う。そして前の席から順番に自己紹介していく。
「サンドロ・オルランディです。剣術が得意です」
そう言う彼をじっと見る。なんだろう、どこかで見たことがある。
黒髪に深い藍色の瞳、高めの身長にこれまたイケメン。またもやご令嬢たちがキラキラしている……ん?キラキラというがギラついてる?って、いけないいけない、脱線しているわ。えーっと……そうか、黒豹だ。黒豹よりも髪は短くて瞳の色の濃さも違うけれど、面差しが黒豹に似ている。
「アニエラ様、あの方もしかして先ほどの黒豹様のご兄弟?」
アニエラに聞くと、クスクスと笑いながら肯定する。
「黒豹様って……ふふ、リナルド様ですわ。あちらのサンドロ様はオルランディ公爵家のご次男で、リナルド様の弟君ですわ」
黒豹で通じている辺り、アニエラ様もそう思っていたのね、なんて考えているうちに自分の番がくる。
「ルーナ・アルコンツェです。魔法学と剣術の授業を楽しみにしております」
そう言うと、なにやらちょっとざわついた。
「私も君の魔法を見るのを楽しみにしているよ」
ファラーチ先生が嬉しそうに言った。
その笑顔になんとなく不穏な空気を感じるが、先生のあまりにも嬉しそうな笑顔につられてニッコリと微笑む。
その瞬間、周辺の生徒たちが男女関係なく呻き声をあげた。溜息をついている生徒もいる。
一体なんなの?流石に少しイラッとしてしまう。
そんな私にアニエラ様が「皆さま堕ちましたわ」と楽しそうに言った。
何処に落ちたの?と思うも、あまりのアニエラ様の楽しそうな笑顔にほだされてしまい、ま、いっかと、どうでもよくなってしまったのだった。