王立魔法学院入学
いよいよ王立魔法学院入学当日。
学院は屋敷とはそう離れていない。なので馬車での通いになる。
なのに、朝から泣いている人がいる。
「とうとうルーナまで…王国はなぜ私から可愛い子供たちを取り上げるのだ!」
泣きながら屋敷中に聞こえるような大声でお父様が叫んでいる。
「大丈夫ですよ、父上。私が全身全霊でルーナを守り抜きますから。ルーナを害するような輩が現れたら潰すのみです」
笑顔で言うお兄様。
「そうですわよ、お父様。私なんてすぐ下の階がルーナの学年の教室なのですから、床をぶち抜いたらすぐに駆けつけられますわよ」
お姉様もとってもいい笑顔。
「ダンテ、ロザナ。お前たちに任せた。私もすぐに駆け付けられるようにするから何かあれば直ぐに知らせるんだよ」
そう言うお父様の横ではお母様が笑顔で
「まあ、楽しそうね。そのときは、私にも知らせてね」
するとヴェントまでもが
『我も』と言う。
「ふふ、我もってヴェント、あなたは私の守護獣なのだから一緒に行くでしょ。というか、毎日帰ってくるのだから寂しくないでしょ、お父様」
「父様は、朝から晩までルーナを見ていたい!」
「ささ、もう行きませんと。入学式に間に合わなくなってしまいますよ」
お父様を華麗に無視したフィデリオに促され、お兄様のエスコートで馬車に乗り込む。お姉様もお兄様のエスコートで私の隣に乗る。最後にお兄様が向かいの席に乗り込んで、馬車は学院へ向かった。
王立魔法学院の門扉の手前で馬車を停め、お兄様のエスコートで馬車から降りるとアニエラ様が待っていた。
「ルーナ様!」嬉しそうに小走りでやってくる。
橙色に近い金の髪に深い海のような藍色の瞳、身長はお姉様と同じか少し高いくらい。とても愛らしい庇護欲をそそるような姿だ。
だが、男達にさらわれそうになった時は、自ら命を絶つ覚悟をするという程、なかなかな気丈の持ち主である。
「アニエラ様、もしかして待っていてくださったの?」
「ふふ、当たり前です。お友達なのですから」
二人で笑いあっていると、後ろから声を掛けられる。
「もしかして、昨日話していたルーナのお友達かな?」
お兄様とお姉様がニコニコしながら私たちを見ている。
「アニエラ・サルマンティーと申します。ルーナ様にはならず者から守っていただいて大変感謝しております」
綺麗なカーテンシ―で挨拶をしたアニエラ様は、ゆっくりと下げていた頭を上げ、まじまじと私たち三人の兄妹を見て、放心したようにぽうっとなっていた。
「……え?…ここ、天国?」
「ぷっ、あっははははは。アニエラ嬢は可愛らしいね。私はルーナの兄のダンテだよ。これからルーナ共々よろしくね」
「ふふふ、私はルーナの姉のロザナですわ。よろしくお願いしますわね」
アニエラは真っ赤になりながら「こちらこそよろしくお願いいたします」と再度頭を下げる。
一通り挨拶が終わったところでお兄様が
「ルーナ。私は式で挨拶をしなくてはいけないから先に行くけれど、その辺の男子生徒に声をかけられても無視するんだよ。ロザナに任せておけばいいからね。ロザナ、頼んだよ。」
そう言って会場の方へ足早に去って行った。
「わかっておりますわ」
お姉様はニッコリと微笑んで答えた。
お兄様は最高学年で、生徒会会長をしているので代表の挨拶をすることになっている。
「それじゃあ私達も向かいましょうか」
お姉様に言われ三人で会場に向かう。どうも先ほどから周りの視線が自分たちに集中しているような気がする。流石お姉様、男女関係なく魅了しているみたい。
三人で楽しく会話をしながら歩いていると、もう会場が目と鼻の先というところまで来ていた。
すると「ロザナ嬢」と呼ぶ声がする。聞こえてきた声にお姉様は「はああ」と溜息を吐きながら面倒くさそうに振り返る。
私たちも声のする方へ目を向ける。
すると、二人の男性が近づいてきた。