姉の覚悟
太陽の精霊王様と月の精霊王様が皆に私が夢で見た、あの過去の出来事を話して聞かせた。
「国の建立前にそんな事があったなんて……」
レオ様が呟くように言う。
「もしかして文献が何もなかったのは、国が安定する前にジェロディ様が亡くなった?」
『そうだ。人間としては長く生きたのだが、国が安定して落ち着いた時はもういい年だったからな。後世に残す余裕がなかったのだろう。それから今まで、何人か愛し子として大きな力を持った者がいたが、覚醒するほどの者はいなかった』
「ヴィットリオ様が侯爵に留まったのは何故なのでしょう?」
お姉様が聞く。
『あいつはな、元来が、めんどくさがりだったんだよ。身体を動かすのは好きだが、机に座っていられん奴だったのだ。誰よりも賢い奴だったのだが。本人もそれを承知していて、外の仕事を好んでやっていた。外交なんかもしていたな。闘いがあれば、誰よりも先んじて前線に立つ。だからあんまり高い地位は邪魔だと言っていてな。なんとか侯爵で手を打ったんだ』
「今のアルコンツェ家の面々とそう変わらないね。さすが先祖ってとこ?」
リナルド様が言う。
「ふふ、そうですわね」
お姉様が賛同して笑った。
「その笑顔、可愛い!」
リナルド様がデレデレになった。
「もしかして親バカだったりしたのかな」
そんな兄を無視してサンドロ様がボソッと言うと、太陽の精霊王様が笑いながら
『アッハハハ。アイツの親バカぶりは、それはもうすさまじかったぞ。奥方と息子の事しか語っていなかったくらいだ。会えば家族の自慢ばかりしていたよ。我がモーネに会えないのにだ。何度アイツを頭の中でボコボコにしてやったことか』
「血か……」
レオ様とリナルド様が同時に呟いて溜息をついた。
「真面目な話、黒の精霊はもう復活している。今日の魔物の件もそいつの仕業だろう。そして多分もう月の精霊王の存在にも気付いている。いつ来てもおかしくないな」
レオ様が言うと
『あの鶏のなりそこないが、ルーナを迎えに来たと言っていたからな』
ヴェントが口をはさむ。
「そうなのか?そんな事おまえ言ってなかったよな」
『迎えに来たとて、瞬殺したのだから問題ない』
「そういう問題じゃないだろうが」
溜息をつくレオ様。負けましたね。
「お父様たちには伝令を出したので、もう届いていると思います。私たちは闘う覚悟も準備もありますわ。私たちの可愛いルーナが黒の精霊に打ち勝つ力を持っているのなら、私たちはルーナが全力を出せるように命を懸けてサポートしますわ」
「お姉様……」
「ふふ、あなたが物心がついた頃には、私の傍でいつもニコニコしていてね。私の行く所どこにでも付いてきて可愛くて可愛くて……お兄様にルーナを取られた時には本気でお兄様に殺意を覚えるほど悔しくて………小さい時から私の宝だったの。だからね、その宝を守る為なら私は何でもする覚悟なんてとっくの昔からあるのよ」
私の傍に来て優しく頬を撫でてくれる。
「お姉様、私にとってもお姉様は大切な宝ですわ。いつもいつも優しくお話をしてくれて……綺麗で優しくて、私の自慢のお姉様。だから私も命を懸けて黒の精霊に挑みます」
「ふふふ、頑張りましょうね」
「はい」
「ちょっとちょっと、なに姉妹だけで盛り上がってるの。ルーナは私の宝なんだからね」
突然、生徒会室の隣にある控室の扉が開いた。
「お兄様!?」




