Side:アニエラ
王立魔法学院へ入学する前に、どうしても今流行りのペンが欲しくて、街へ出掛けた。その甲斐あって目当ての綺麗なクリスタルのペンを購入し、ウキウキとした気持ちで待たせている馬車へ向かう。
ところが運悪く、ならず者達の目に留まってしまい摑まってしまった。
なんとか抵抗を試みたものの、大柄な男達には全く通じることもなくどんどん奥へと引き込まれてしまう。誰も周りにはいない。
このままどこかに売り飛ばされるのか、男達の慰み者になるのか、いずれにしてもいざとなったら舌を噛んでやる!と死を覚悟したその時、突然大きな狼が現れた。
驚き過ぎて私も、おそらく侍女も腰を抜かしてしまったのだと思う。
男達が手を離したので、その場でへたり込んでしまう。
とても大きいその狼は、男達にむかって唸っている。凄まじいほどの圧が後ろの私にまで感じられた。なのに、その姿は神々しい程美しく不思議と恐ろしくはない。
それどころか、どうしてかこれでもう大丈夫なのだと、安心感すら湧いてくる。
男達は狼にナイフを振りかざし、無謀にも狼に対抗しようとする。
が、次の瞬間、眩いばかりの銀色の女神様が舞い降りた。
光り輝く銀の髪をなびかせた女神様は、流れるような動作で剣を振るう。
あっという間だった。男達が持っていた刃物が弾き飛ばされ、次の瞬間には倒れていた。正直、何が起こったのかよくわからなかった。
カチンと剣を鞘に納めた音がすると、女神様が微笑みながらこちらを振り返った。
正に女神。全てが美しい。銀の髪は言わずもがな、瞳は深いアメジスト。光に反射して瞳がキラキラ輝いている。陶磁器のような肌に、開きかけた瑞々しいバラのような唇。
同性の私から見ても惚れ惚れしてしまう。
女神様は強く美しい上に、とてもお優しい方だった。
私の手を取って、治癒魔法を施してくれたのだ。近くで見たお顔はやはり美しいが、もしかすると同じ年くらいかもしれない。
アメジストの中に銀色の光の筋が見えた。なんて綺麗な瞳なのかしら?
不躾なほど見つめてしまった。
ふっと目が合った女神様が不思議そうに小首を傾げた。
その瞬間、私の心臓がぎゅうっと掴まれたかのような衝撃を受けた。女神様は天使でもあったのか。
そして女神様によく似た紳士が近衛騎士の方々と共に現れ、あれよあれよという間に全てが終わった。
ベッドに入ってから随分時間が経ったと思う。
なのに私は全く眠れずにいた。怖かったという気持が消えたわけではないけれど、それよりも素敵な出会いに心が躍っていて寝付けない。
お友達になる事に了承した時のあの笑顔。二度目に心がぎゅうっとなった瞬間だった。
来月の入学が今から待ち遠しい。これからは毎日、あの笑顔を見ることができるのだ。待ちきれない。
あぁ、早く来月になって。