過去4
『それが……』
月の精霊王が口を濁す。
『倒すまでは出来ていない』
太陽の精霊王が淡々と言う。
「あんな凄いの受けて死なないの?何?あれって死神かなにか?」
ジェロディがあり得ないという表情で言う。
『違うのよ。多分……ヴィットが女の子じゃないからなの』
「………は?俺に女装でもしろと?」
『違うの、そうじゃないの。あのね、月の力はね、本来は女性が使うための力なの。太陽の力は男性が使う力。そして月の力は女性が使う力。本当はヴィットも愛し子じゃなくて加護を与えようとしたんだけど、力の入れ方間違えちゃって愛し子にしちゃった』
てへ、みたいな顔で言う月の精霊王。そのてへは流行ってんのか。
「それじゃあ打つ手なしって事?」
ジェロディが言うと
『現時点では、な』
またも淡々と太陽の精霊王が答えた。
『とりあえず黒い精霊は太陽と二人で封印したわ。それでも持って千年ってとこ。それに……私、黒い精霊から呪い受けちゃったみたいなの』
「えええ!」
どうやら太陽の精霊王も知らなかったらしい。
『私が近くにいたら絶対に見つけ出すってね。私が見つかった事がきっかけで、封印が解けちゃうなんて事にはなって欲しくない。だから私はしばらく姿を隠さなくちゃ』
決意したように言う月の精霊王。
『とりあえずは女の子の愛し子を見つけないと。女の子で私の力を受け取る程の力を持って生まれてくる子はなかなかいないのよねえ』
『ならば、我も一緒に』
太陽の精霊王が言うが、月の精霊王の指がそっとその唇に触れる。
『駄目よ。二人でいたらきっと見つかってしまう。それに、黒の精霊が復活しないか見守っていく人が必要よ。ソール、あなた以外には頼めないわ』
『モーネ』
太陽の精霊王は月の精霊王を強く抱きしめる。
『大丈夫。力は使わないし、そんなに遠くにもいかない。ちょっと数百年離れちゃうだけ。数百年なんてきっとすぐだわ』
そう言って今度はヴィットリオへ言葉を向ける。
『ヴィット、私あなたの事大好きよ。子供がいたらこんな気分なのかしら。あなたの事はちゃんと寿命で逝くまでは死なせたくないの。だからね、月の力は封印するわね。でもね、光の魔法は使えるからきっと他の精霊たちがあなたを慕ってくれるわ。ジェロディと仲良くね』
『ジェロディも、ヴィットと仲良くね。それと、あなたにソールの事お願いしちゃっていいかしら?』
「うん、まかせて。ヴィットリオと太陽の精霊王が喧嘩したらちゃんと仲裁するよ」
『ふふ、お願いね。じゃあ、またね』
そう言うと、一粒の涙を残し月の精霊王は消えた。涙は美しいダイヤモンドになった。




