過去1
春の息吹を感じる事が出来るようになった頃。
今日はレオ様と、天気がいいからと城の庭園にある四阿でお茶をしていた。
お茶もお菓子もある程度堪能して、レオ様の肩にもたれかかり、仔犬姿のヴェントを膝に抱えウトウトしていた。
そうして私は夢を見る。
そこは、森と湖と平原が広がった綺麗な場所だった。人間以外の生き物がたくさん住んでいて平和そのものだった。色とりどりの精霊たちが飛び回り楽しく遊んでいた。
ある時、その場所へ人間がやって来る。新しい土地を求めやって来た人間は、動物や精霊たちと折り合いをつけながら住むようになった。始めは数組の家族だったのが、時を重ねるごとに村になり、小さな街になった。
それでも人間とそれ以外の関係はずっと良好だった。
だが、人間には悪い心があった。妬み嫉み恨みなどの悪意。すると、そんな悪意を好む精霊が生まれ出した。それらは悪意を多く取り込むために、人間に近づいて悪意を生むように仕向けた。人間に姿が見えないのをいいことに、わざと焚き付け争いを作り出す。
そんな精霊に否を唱える他の精霊たち。だが、人間が多くなった今、悪意は簡単に作り出されてしまう。黒い精霊たちはどんどん大きくなっていった。やがて一つの大きな精霊になり、その精霊自身が悪そのものになってしまう。全てを壊したいという欲求のみで生き、どんどん悪意を飲み込んでいく。
やがて、他の精霊たちを、生き物を、無差別に殺していく。挙句の果てには悪意の糧であった人間までも殺していくようになる。
そんな時、月の精霊王と太陽の精霊王がこの地に訪れた。元々天界の近くに存在していたのだが、ここの現状を知り黒い精霊を倒すために降りてきたのだ。他の精霊たちと力を合わせて闘う。
そこに、二人の人間が現れる。後にオルイレアランス国を立ち上げるジェロディ・オルイレアランス、アルコンツェ家の始祖であるヴィットリオ・アルコンツェである。二人は多大な魔力を持っており、精霊たちの姿を見ることが出来た。悪の根源となった精霊をなんとかしようと立ち上がったのである。
二人も加わり、皆で力を合わせて闘う。幾日も闘いは続いた。そんな中、黒の精霊に変化が表れた。月の精霊王に異常な執着を見せるようになる。ならばと、月の精霊王は意思疎通を試みた。知能が低いのか会話は成り立たない。だが、たどたどしく言葉を紡ぐ
『光、喰らう……もっと強い。銀の……欲しい。銀、俺のだ』
『私を食べたいという事かしら?』
月の精霊王が聞く。
『銀……欲しい、銀……俺の、銀……銀……俺の……俺の』
ずっと同じ事をブツブツ言いながら、月の精霊王を捕まえようとする。
「なんとなくだが、この黒いのは月の精霊王の事を好きだから欲しいと言っていんじゃないのか?」
ヴィットリオが月の精霊王を庇いながら言う。
「確かに。恋愛感情なのか、母親を欲しているような幼心なのかはわからないけれど、そういうニュアンスで欲しがっている気がする」
ジェロディも同意する。
『モーネはやらん』
太陽の精霊王が言う。
『モーネは我の妻ぞ』
そう言うと月の精霊王を抱き寄せた。
夫婦という概念が精霊にもあるのかと、ジェロディがどうでもいいことを考えながら言う。
「それ、黒いのにどうやってわからせるつもり?」
『あれに見せつけるか?』
太陽の精霊王が何でもない事のように言うと
『ギャラリーはあれだけではないのですけれど?』
クスクス笑いながら月の精霊王が言う。
そんな二人の姿を見た黒い精霊が
『お……れの銀……俺の……ほし…い……銀……は……俺のだ!』
そう発した途端、膨大な黒いエネルギーが放出された。




