幸せ
結局立ち上がれず、抱き上げられてお店を出た。周りから口々に「お幸せに」と言われてしまった。死ぬほど恥ずかしかったけれど、死ぬほど嬉しかった。
「あの、殿下。これはあまりにも恥ずかしいので、どこか座れる場所で降ろして頂けませんか」
お店を出ても、一向に私を降ろそうとしない殿下にそう言うと
「そうか?俺はこのまま街中に、知らしめたい気分だが。なんなら大声で言って回るか?」
殿下は楽しそうに言ってのける。
「無理です。無理。お願いです、殿下」
殿下の顔を見て懇願すると「うっ」という声と共に近くの広場にあるベンチに降ろしてくれた。
「ルーナ嬢、その顔は反則だぞ」
そう言われたが、どの顔が反則なのかはわからない。それよりも、降ろされたことに安堵する。
「それでだ、ルーナ嬢。これからはルーナと呼んでも?」
「はい、どうぞ」
「俺のことも、勿論、呼び捨てで呼んでくれるな」
「それはいくらなんでもちょっと……」
「呼んでみろ」
「……レオ……さま」
「はは、まあ仕方ない。呼び捨てはおいおい、だな」
「善処します」
心臓が持たない。
「あとは、俺が運命の相手になれるかどうかだな。どうしたらそれはわかるんだ?俺は何をすればいい?」
「あ、あのぉ、それなのですが……」
「ん?どれだ?」
「だから、運命の相手なのですが……」
「あぁ、なれるなら何でもするぞ」
「もう決まっているというか、目の前にいるというか……」
「え?」
意を決して言う。
「殿下なのです!運命のお相手は……」
「………」
「………」
「………え?」
「だから、運命の相手は殿下なのです」
「………いつから?」
「ええと……先日のトロールとの闘いの時から……」
「……なんで言わない?」
「そ、そ、そんなの、恥ずかしくて言えません!」
思わず、声を張り上げて言ってしまった。顔が熱い。
「ルーナ」と思いっきり抱きしめられてしまった。
「早く言ってくれれば良かったのに。何日も損してしまったじゃないか」
「損って、何をですか?」
「ルーナとの甘い蜜月」
「み、み、みつげつ」
「そうだ、蜜月だ」
「け、結婚もしてないのに……そんなの……無理です……」
駄目、頭の中が溶けそう。
「はっははは。ルーナは可愛いな。冗談だ。さすがに結婚前に手は出さないぞ」
あぁ、冗談ね、と、ほっとすると
「でもキスくらいは許せ」と言われこめかみにされた。
家族とは違う、殿下の愛情表現にタジタジになってしまう。
「許せ。やっと手に入れた天使に、俺は今舞い上がってるんだ」
そう言って優しく笑う殿下に、私も照れつつ笑い返すのだった。
陽が傾き始めた頃、殿下が送ると言って手を差し出してきたので、そのまま手を繋いで屋敷まで送ってもらった。
すると、屋敷の門の外に人影がある。殿下が私を背に隠しながら、注意深く近づいてみるとお兄様だった。お兄様が仁王立ちして待っていた。
「お兄様?」
そう言うと、お兄様は私に極上の笑みを見せてから私たちの繋がれた手を見る。慌てて離そうとするも、殿下が離してくれない。
「レオ。私が城で死ぬほど忙しく働いていたっていうのに、何で、人の宝に手を出しているのかな」
お兄様の黒い笑み発動だ。
「いくら城の仕事が忙しいからって、それは俺のせいではないと思うが」
「あれえ、そんなこと言う?これから起こるかもしれない何かを調べるために、城にあるバカみたいな量の文献を調べてるの私なんだけど?」
「うっ、それは……」
「レオは居ない。リナルドは途中で消えちゃうで、そのうち私は心労で死ぬよ。やっと帰って来て、私の宝に癒してもらおうと思ったらルーナまでいないし。もう私泣いていいかな」
「お兄様、大丈夫ですか?私でよければ肩をおもみしますわ」
「本当?やっぱり私の宝は素晴らしいなあ。じゃあそういう事だから、レオはとっととお帰り」
そう言って私の腰に手を添えて半強制的に家へと向かわされる。これではお別れの挨拶も出来ない。私はせめてと殿下に向けて手を振るのだった。




