母の勘
討伐合宿から戻った途端、どうしてなのかお母様にばれてしまった。
「あなた達、母様に何か報告すべきことはないかしら?」
ピッキーン。明らかに動揺して固まってしまった私に対してお姉様は、僅かに片方の眉を動かしただけに留めていた。
それでも見逃さないお母様は
「さあ、まずはゆっくりお茶でもしましょうか?」
と楽しそうに笑った。
お茶を一口飲んでから、お姉様が口火を切った。
「お母様、私たち運命の相手を見つけましたわ」
お姉様が言うと、お母様の目がキラキラに輝いた。
「おめでとう、二人とも。待ってね、母様二人の相手を当てるから……ルーナは殿下でしょ。そしてロザナは……オルランディ家の跡取り息子ってところかしら?」
いやだ、お母様がエスパー。
「その通りですわ、さすがお母様」
動じないお姉様、お姉様もさすがです。
「うふふ。娘たちの事だもの。分かるわよお」
二人で笑いながら紅茶を飲んでいる。こういう時この二人には付いていけない。怖いから付いていけなくていいのだけど。
「それで、殿方からは何か言われているのかしら?」
「いいえ、まだ。自覚してからすぐに休みに入ってしまいましたし、こちらから何かを言うのも……ねえ」
お姉様がそう言うと、ニコニコのお母様が
「そうね。絶対に殿方から言わせなければね、こういう事は。あなた達はそう仕向けるようにすればいいのよ」
二人の言っている事が全く理解できない。
「仕向けるってどういう事?」
私が聞くと、笑いながらお姉様が
「ふふ、ルーナはそのままで大丈夫。既に殿下は堕ちているから」
と言う。
お母様も私の頬を撫でながら
「ルーナの魅力は十分、殿下に伝わっているわ。だからルーナは何もしなくても大丈夫」
と、娘の私でもクラっとするほどの妖艶な笑みで言われた。
「とりあえず、お父様とダンテには内緒にしておきましょうね。二人が知ったら国中が嵐になってしまうから。下手をすると二人の大事な相手が抹殺されちゃうかもしれないし」
笑いながら恐ろしいことを言うお母様。でも、あながち冗談ではないので黙って頷くお姉様と私だった。
十二月の社交界デビューの為にドレスを作ることに。
私は背が高めなので、あまりフワフワしたデザインにはしたくないと、それだけはなんとか言った。お母様とお姉様とデザイナーの方の白熱したドレス討論に付いていけなかったのだ。
ああだこうだと熱い論争が繰り広げられ、数時間後、ようやく決まった。白のシルクのボールガウン。必要以上の広がりを持たせないように、前部分はレースなし。首元まで生地がありノースリーブで、二の腕まであるロンググローブを付けるらしい。背中は下品にならない程度に開いており、ドレスの後ろ部分にだけ、金糸と銀糸の刺繍を施したレースを長めに広げる。
さすがお母様とお姉様。素晴らしいドレスになりそう。
私のドレスの次はお母様とお姉様。お母様は深い紺の生地に、銀糸一色で刺繍を施す。お姉様は薄いピンクのドレスに黒い糸で刺繍を施すとの事。
きっとこの二人は注目を集めるに違いない。
そう思いながら、初めての舞踏会にワクワクするのであった。
夏休みも終盤に差し掛かった頃、アニエラが我が家にやって来た。少し離れていただけなのに、なんだかとっても綺麗になっている。
「アニエラ、なんだかとっても綺麗になってない?」と聞くと
照れたように
「幸せだからかしら」と言った。
先日、サンドロとお互いの家に行き、婚約のお許しをいただいたそうだ。結婚式は二人が学院を卒業したらなるべく早く挙げようという話になっているらしい。
アニエラが一人娘なので、サルマンティー家にサンドロが入り、後を継ぐらしい。
アニエラから幸せオーラが大量放出されて、なんだか私まで幸せな気持ちになる。
お姉様もやって来て、三人でのお茶会に。
「そういえば、オルランディ家に伺った時、リナルド様もいらっしゃったんですけど、何度も同じ質問をされて……リナルド様ってば実はとっても可愛らしい方なんだと知ってしまいました」
そうお姉様に向けて言う。
「どんな質問?」
私が聞くと
「ロザナ嬢は元気にしている?怒らせちゃったんだよね。もう怒ってないといいけど。何か私の事言ってなかった?って」
「あまりにも同じ質問を繰り返すので、最後には公爵様とサンドロから「女々しい」って怒られておりました」
あの令嬢たちに愛想をふりまきながら、飄々としているリナルド様が……
「お姉様、リナルド様は想像以上にお姉様にメロメロなのでは?」
「ふふふ。そうであってもらわないと。ね」
ウィンクしながら答えるお姉様。流石お姉様。
私もいつかその余裕が欲しいです。




