恋を自覚した姉妹
二人を部屋へと促す。とりあえずイスに座らせてお茶を淹れる。
「お二人とも、一体どうしたというのです?」
お茶を渡しながら落ち着いた声で聞いてみる。
ロザナ様は放心状態だったらしく、私の声に我に返ったように周りを見渡す。
「あら?いつの間に食事を終わらせたのかしら?」
相当、動揺しているようだ。まずはルーナの方に聞いてみる事にした。
「ルーナ、一体どうしたの?」
「私、私……殿下の顔がまともに見られないの」
ヴェントを抱えたままプルプルしている。うっ、可愛い。
「何故殿下の事が見られないの?」
もう一度、ゆっくりとした口調で聞く。
「あの、あの……あぁ、アニエラ、どうしたらいいの?殿下が運命の方だなんて」
「え?」
私とロザナ様が同時に言った。
「ルーナ、まさかあなたも運命の相手の光を見たの?」
「はい……ん?「も」ってお姉様も?」
「つまり、お二人共に運命の相手がわかったという事ですのね」
聞いている私が興奮してしまった。
「そうみたいね……」
ロザナ様が溜息をついて話し出す。
「トロールたちが出た時に、私の隣で腰を抜かしてしまった令嬢がいて……多分私も冷静ではなかったのでしょうね。魔法を使うという考えに及ばずに、肩を貸して歩いて移動していたら、そこへリナルド様が駆けつけてきましたの。令嬢を近くの男子生徒に預けて、ご自分は意地の悪そうな顔で私に冷静さを欠いていると指摘してきましたの。私、なんだかすごく頭にきて……しかも、そんな私をなんの許可も得ず抱きかかえて颯爽と走る事も許せなくて、ずっと文句を言っていたら、守られるべき時は大人しく守られてろって逆に怒られてしまって……そうしたらみるみるリナルド様の身体から光が溢れてきて……」
ロザナ様は今度は大きく溜息をつく。
「それで、これは運命の相手を知らせる光だと自覚した途端、リナルド様の事をまともに見ることが出来なくなってしまって……あんな軽薄な人、絶対お断りって思っていましたのに……どうしましょう」
プルプルして聞いていたルーナがそれは違うとばかりに
「お姉様。リナルド様の八方美人は、お姉様を諦めたいが故だったの。リナルド様は、お兄様からお姉様が運命の相手と認めない限り、絶対に上手くいかないって早々に言われたらしくて。出会ってしばらく経ってもそんな気配がないという事は、もうダメなんだって思ってしまったみたい。本当はね、一目惚れだったんですって」
ポカンとしているロザナ様にルーナが微笑む。
「だからね、運命の相手は出会ってすぐにわかる人の方が稀で、しばらく経ってからわかるのが常だと教えてあげたの。そうしたらリナルド様、それなら頑張るって、それはもう素敵な笑顔で言っていたのよ」
ロザナ様は驚いた顔をしてから花が綻ぶような眩しい笑顔で
「リナルド様ったら」と言った。
その後の「お兄様のせいだったのですねえ」と呟いた時の黒い笑顔は見なかったことにしようっと。
「それで、ルーナは殿下が運命の相手だとどうしてわかったの?」
「あの……えっと、えっとね。殿下の戦いぶりを見て……」
またプルプルし出した、可愛い……いえいえ、そうではなくて。それだけでは何もわからないから。
「もう少し詳しく」
「あのね、トロールたちが現れた時に、殿下の初めて本気で闘う姿を見たの。凄く強かった。舞っているかのような剣さばきなのに重い一太刀にヴェントが喜んで共闘していて……金の髪の揺れる様が獅子のようで……あっという間に一体倒して……目が離せなくて見惚れていたら、私の周りに光が溢れ出して、その光が真っ直ぐに殿下の元へ行ったと思ったら殿下が光ってたの。そうしたら眩しくて、まともに姿を見る事も出来なくなってしまって……」
「もう殿下を見られないわ。殿下が目を合わせようとすると、心臓がギュウってなるの」
仔犬姿のヴェントを抱きしめながらルーナが言う。
何、この生き物。すさまじく可愛いのですけれど。このままガラスケースにしまってしまいたい。なんていうのは置いておいて。
「これはもう、なんとしても殿下に告白していただきませんと。勿論リナルド様にも」
そう言う私にロザナ様が
「そういえばアニエラ、あなたとサンドロ様、今日は凄くいい雰囲気を醸し出していましたわよね。そしてその余裕っぷり。さては何かありましたわね」
と突っ込む。
「ふふ、はい。実は今朝、サンドロから告白されまして。夏休みには両家の家に挨拶に行こうという事になりました」
「ええええ、いつの間にそこまで」
息ぴったりに突っ込む姉妹。
ふふふと微笑みながら、今夜は眠ってなどいられないわと、もう一度お茶を淹れるのだった。




