帰宅
「ただいま帰りました」
屋敷に到着し、玄関に入るといきなり誰かにギュっと抱きしめられる。
「お帰りルーナ。随分遅かったじゃない」
「お姉様!」
「また背が伸びたのではなくて?私よりだいぶ大きくなっているわ」
「お姉様は更に綺麗になってるわ」
「ふふ、何を言ってるの。その言葉、そのまま返すわ。私の天使は美しさに磨きがかかったわね」
お姉様と再会の喜びを分かち合っていると、横から誰かに腰を抱かれそのままふわりと抱きしめられる。
「どれどれ…本当だ。ルーナの可愛さは留まる事を知らないようだね」
「お兄様!ただいま」
「おかえり。今日は朝からずうっと、ルーナが帰ってくるのを今か今かと首を長くして待っていたんだよ」
そう言いながら、優しく私の頭を撫でてくれる。
「ちょっとお兄様、まだ私との時間が終わっておりませんのに。横からかっさらわないでいただけますかしら?」
「仕方ないよ。ルーナが可愛らし過ぎるのだから」
「それ、全然答えになっていませんわ、全く。でも、こんな可愛らしい子、学院に入学させてしまっていいのかしら?よだれを垂らした狼どもの目になんて触れさせたくありませんわね」
「そうなんだよねえ。ルーナ、学院は危険だからずっと家に居るのはどう?」
兄妹揃ってシスコンだ。
下手に反論すると長引きそうだと思い黙っていると
「そろそろ私にも抱きしめる権利を譲っていただけるかしら?」
くすくすと、笑いながらお母様がやってきた。
「ルーナ、おかえり。さあ、私に可愛らしいお顔を見せてちょうだい」
言いながら優しく抱きしめてくれる。
「お母様!ただいま帰りました」
「無事に着いてなによりね、ルーナ。それにしても少しばかり遅かったのではなくて?」
お母様が問うと、ちょうど玄関に入ってきたお父様が
「ちょっと捕物をね」
と、何でもないことのように言った。
「まあ、物騒ですこと。それで無事に捕まえましたの?」
「ああ、それはもう華麗にルーナがね」
「えっ?」
「だからルーナが華麗に……」
「ルーナがなんですって?」
「だからルーナがね……」
「……」
あれっ?空気が冷えていくような……
「あなたが、ではなくルーナが?」
「そうなんだ。もう、それは素晴らしくて美しい立ち回りだったよ」
うっとりと語っているけどお父様、冷気が増しましたよ。気付いてないの?なんだか怖いですけど……
「あなたはそれを黙って見ていたと?」
そこでやっとお父様は冷気を感じたようで
「いやいや、私は近衛騎士を呼んでくるという役目をね……」
わあああ、更に寒さが……寒い、寒いです、お母様。
「ふふ、旦那様ったら、面白い事をおっしゃいますわね。ルーナが悪漢と対峙してあなたが近衛騎士を呼んできたと……ふふふ、おかしいですわね。普通なら逆のような気がするのですけれど」
とっても綺麗な笑顔で詰め寄るお母様。目が一切笑っておりません。
「うん、そうだね!そうなんだけど、ルーナが素晴らしい速さでね……うん、私が悪かったよ、ごめん、ごめんね、ごめんなさい」
謝りまくるお父様。
王国内最強ともいわれている魔術師団団長を黒い微笑みで追い詰めるお母様って実は本当の最強?なんて思いながら成り行きを見守っていると、オホンっと咳払いが聞こえた。声の方を見ると家令のフィデリオが涼しい顔で立っている。
「ルーナお嬢様がお疲れのようですよ。お茶の支度が整っておりますのでサロンの方へ行かれるのがよろしいかと」
「ふふ、フィデリオったら……まあいいですわ。さあルーナ、お茶しながらその捕物のお話を聞かせていただけるかしら?」
あぁ良かった。グッジョブよ、フィデリオ。寒さがおさまったことに安堵しつつ、サロンへと足を向ける。
すると耳元で『我も菓子を食いたい』と聞こえたかと思えば、仔犬姿のヴェントが姿を現す。通常は2メートルほどの大きさであり、ルーナに負けないくらいの美しい銀の毛並みにルビーのような赤い瞳の風属性の狼だ。
今は家の中なので身体を小さくしている。これがふわふわモフモフで可愛い。
「ヴェントったら」私は笑いながらヴェントを抱き上げるとサロンへ向かった。