運命の相手
討伐二日目。
今日は昨日よりも少し北寄りに向かう。小物の魔物は昨日あらかた討伐できたようで、今日はそれ以上の魔物がいるのかを確認するためらしい。大きく二つのグループで左右分かれて進み、最終地点で合流する事になっている。
今日は皆一緒だ。しかもゴブリンもいない。それだけで幸せだ。
小さな魔物以外全く何もなく順調に進み、もうすぐ最終地点という所でふいに大きな影が出来た。どういうことかと見上げるとトロールが三体、こちらを見下ろしていた。
どういうこと?体長七、八メートルはあるかという巨体がいきなり現れたのだ。しかも三体も。そんな馬鹿な事があるだろうか。
なんてちょっと現実逃避しかけたが、ひと際ガタイのいい騎士の方の
「戦闘態勢!」という声で我に返った。
さすが、騎士の方々は素早い反応を見せ、既に体制を整えている。殿下とリナルド様とサンドロも剣を構えていた。先ほどのガタイのいい騎士様が
「確実にいけると思うやつだけ参加しろ。女性は避難だ。あいつらは女性を土産に持ち帰ろうとするからな」
そう言われ、周りの令嬢たちが「ひっ」と引きつった。私も流石にちょっと引く。
お土産に持って帰った後、どうするつもりなのかは考えたくない。
ここは素直に周りの令嬢を伴って避難する事にする。
最後の令嬢を伴って避難場所へと向かっている途中、向こうでお姉様が腰を抜かして動けなくなったらしい令嬢に肩を貸して歩いているのを見つけた。
明らかに体格差がある。あれでは二人ともお土産にされてしまう!私は駆け出そうとした。
だが、そんな私よりも早く動いた影を見た。リナルド様だ。いち早くお姉様の元へ向かい、近くにいた男子生徒に腰を抜かした令嬢を預ける。リナルド様はお姉様へ何かを言っていたが、怒った風なお姉様を容易く抱き上げて走り去った。
安心した私はヴェントを呼んで、戦いに参加させる。
『我がやったらすぐ全滅だが?』とあっさり言うので、
「じゃあ一体だけ倒してくれる?」と聞いたら
『任せろ』と颯爽と走っていった。
令嬢たちを全て、トロールたちの死角へ避難させてから、私はトロールたちが見えるギリギリの所まで近づき戦闘を見る。
騎士団の方々は流石、連携して上手く立ち回っている。あまりの巨体になかなか決定的な攻撃は出せなそうだけれど、確実に追い詰めている。
もう一体にも騎士団数名と、リナルド様とサンドロ、他にも生徒の方が数名で対峙している。こちらは拮抗状態だ。トロールは、一撃は非常に重い。当たればあの世逝きになる。でも、動きが鈍いから避けるのは難しくない。
皆、頑張ってと祈りながらもう一体のトロールを見る。
えっ!?殿下とヴェントだけ?
疑問に思ったけれど、それは一瞬で霧散した。
殿下の戦いぶりを見た瞬間、鳥肌が立った。目が離せない。強いとは感じていたけれど、想像以上だ。お兄様にも負けない程に強い。
サンドロとの手合わせでは手を抜いていたのだろう。
動きに全く無駄がない。流れるように剣を振るっているのに、一太刀一太刀が重そうだ。
初めて見た本気の殿下の戦いぶり、見事な剣さばきに胸が高鳴る。金の髪がなびいて正に獅子だ。ヴェントが殿下の戦いぶりを気に入ったようで、一緒に楽しそうに戦っている。殿下とヴェントは、トロールの身体を使って跳躍を繰り返し、殿下は肩から斜めに、ヴェントは背後から、剣と爪で切り裂いた。
剣舞でも見ているかのような華麗な闘いであっという間に一体を倒した。すぐにリナルド様達が対峙しているトロールへと移動する。
その時だ。
私の周りがキラキラ輝きだした。その輝きが一筋の光になって殿下へ届いて降り注ぐ。光を纏って殿下がキラキラしている。
すると周りにいた精霊さんたちが『ルーナみつけたのー』と騒ぎだす。
なんてことだろう。私は気付いてしまった。この輝きは運命の相手を見つけた時のものなのだと。
殿下が運命の人なのだと……




