婚約の真実
月の精霊王様が言っていたことを思い出す。そういえば小さなお友達が増えるって言っていたわ。
私は小さな精霊さんたちに挨拶をした。
「ルーナです。皆さん、これからよろしくお願いしますね」
すると、『よろしくー』と精霊さんたちが答えてくれた。
「うふ。皆、可愛らしいです」
そう言うと精霊さんたちが『かわいいのー』と嬉しそうに羽をパタパタした。
パタパタするたびに精霊さんたちが増えている気がする。
あっという間に私の部屋が精霊さんだらけになった。
「ええええー!増えすぎじゃない?」
思わず声をあげてしまう。
お父様たちがすかさず「どうした?」と心配してわらわら集まる。
「あ、あの……あれ?これって言っていいのかしら?」
ヴェントを見ると
『まあ、この面子なら言っても構わないだろう』
と言うので
「夢の中で精霊王様にお会いした時に言われたの。小さなお友達が増えるって。そしたら小さな精霊さん達が部屋中いっぱいに……」
「精霊たちが見えるの?」お兄様が聞く。
「ルーナ、寝ている間にパワーアップ?」お姉様がキョトンとしている。
「パワーアップになるのかしら?」
言いながら、扉の傍に殿下がいることに気付く。
「殿下?」
お兄様たちが少し下がって殿下を私の傍に促す。
「気分はどうだ?」
とても弱弱しいけれど、優しい声で聞いてきた。
「身体が思うように動きませんけれど大丈夫です……殿下はもう大丈夫ですか?」
「大丈夫とは?」
手を伸ばすと、そっと握ってくれた。私はキュッと握り返して、小さな声で囁く。
「私、また殿下を泣かせてしまったでしょ」
ペロッと舌を出す。
一瞬、目を見開いてから今度は泣き笑いのような顔になる。
「ルーナ嬢……良かった……本当に良かった……おかえり」
「ふふ、ただいま。それと、助けて頂きましてありがとうございました」
殿下がちゃんと笑ってくれるように、私は満面の笑みで答えた。
それに応えてくれるように殿下も微笑んでくれる。
その顔を見て安心した私は、疲れたのか少し眩暈がした。
「ルーナ嬢、疲れたんじゃやないか?目覚めたばかりなんだから、無理はしないでくれ」
殿下が言うと
「確かにそうだね。これからリハビリして少しずつ体力を戻していかないといけない。ルーナがこうなってしまったのも、元はと言えば私のせいだし、私がずっと付き添うからね」
お兄様が言えばすぐにお姉様が
「あら?まだルーナに触れる資格は戻っておりませんわよ。心配せずとも私とお母様で付き添います」
「父様もいるんだけど?」
お父様が言うと、今度はお母様が
「あら?今回の件はあなたも携わっておりましたわよね。それならば同罪ですわ」
とびっきりの笑顔で言った。
「ウォンウォン」
ヴェントが吠える。
「そうですわよね。ヴェントもいるんですものね、十分ですわ」
ヴェントを撫でながら言うお母様。
こういう時、ヴェントってお母様に着くのねと思いながら殿下を見ると目が合う。
「そういえば殿下、私はもう大丈夫なのでお帰りになった方がいいのでは?婚約者の方が待っているかもしれませんし」
心配して居てくれるのは嬉しいけど、いつまでもここに縛り付けてはいけない。
「!!」
殿下が固まってしまった。どうしたのかしら?
「はあぁ、ルーナ。殿下には婚約者もその候補もいらっしゃらないのですわ」
溜息と共にお姉様が言う。
「え?でもたしか……エルダ様だったかしら?親密なご様子で、仲良く腕を組んで歩いているのを見ましたけれど」
言っていて泣きそうな気持ちになる。
すごい勢いで殿下を睨むお姉様。
「それはね、彼女の家の不正を暴くために敢えて近寄って来るのを放置していたんですって」
「ちゃんと説明するから聞いてくれるか?」
殿下が真剣な顔で言うので素直に頷く。
「それでは候補そのものが嘘?」
全てを聞き終えて私が言うと
「そうだ。父上直々に、悟らせないように優しくしておけと言われたんだ。それで本当に嫌々、仕方なくやっていたんだ」
「そうだったのですか」
誰にも見られないようにそっと息を吐く。良かった。お芝居だったんだ。
「さ、これで今回の件は万事解決という事で今日はこれで解散。ルーナも無理せずゆっくりお休み」
お父様の言葉でお開きとなった。
部屋を出る前に殿下が
「また来てもいいか?」
と聞くので、私は極上の笑顔で頷いた。




