ルーナの目覚め
ルーナの暴走から三週間。
未だ目覚めることのないルーナの手を取る。侍女たちが、ルーナがいつ起きても不快な気分にならないようにと、毎晩身綺麗にしているお陰で、三週間も目覚めてないとは思えない。
ただ、少しやつれたようだ。握っていた手を片方外し、ルーナの頬を優しく撫でる。
あれから父上の指揮の下、バルバリーニ家を断罪した。婦女暴行に薬物の密売及び転売。王家に娘を嫁がせようとしていたのも、薬物の販売ルートを拡げるのが目的だったらしい。
長きに渡り、功績を残した偉大なる公爵家であったのに、権力に胡坐をかき、私腹を肥やすことのみに心血を注いだ無力な現公爵によって葬ることになってしまった。
王族の次に高位であった公爵家の一つが取り潰しになった事で、少なからず貴族の間では騒ぎになったが、オルランディ家やアルコンツェ家の尽力で、今は落ち着いている。
罪人であるバルバリーニ公爵と、それを知っていたにも関わらず贅の限りをつくしていた公爵夫人は死罪。父親を手伝っていたというエジディオは貴族専用の牢獄、エルダ嬢はオルイレアランス国の最北にある修道院へ送られた。
「ルーナ、お願いだ。目を覚ましてくれ。君に会いたい。声を聴かせてくれ。俺の事をたくさん罵ってくれていいから。ルーナ、俺が悪かった。お願いだ、目覚めてくれないか?君に会えなくて……苦しいんだ」
すると、ヴェントが「ウォン!」と力強く吠え、ルーナの頬を舐める。
それに応えたかのように、ルーナの手が、握っていた俺の手を弱い力ながらも握り返した。
長い睫毛が震えて、ゆっくりとまぶたが開いた。見たいと願っていた愛しい紫と銀の瞳だ。
「どこが苦しいんですか?殿下」
「ルーナ?ルーナなのか?」
分かり切った質問をしてしまう。
「はい。私はルーナだと思うんですが……あら、違うのかしら?」
「ルーナ!!」
両手でルーナの手を握り、俺の頬へと持っていく。
「会いたかった、ルーナ」
目頭が熱くなる。
「殿下?私また殿下を泣かせてしまったの?」
廊下の方からたくさんの足音が近づいてきた。扉が勢いよく開けられる。
俺はそっと立ち上がり少し後ろに移動する。
「ルーナ!!」
カルロ団長が一番に近づきルーナの手を取る。
「ルーナ、父様だよ。わかるかい?」
「もちろん。おはようございます、お父様」
「うん。おはよう、ルーナ。目覚めてくれてありがとう……私の天使」
言いながら号泣している。
次にパトリツィアだ。
「ルーナ、お寝坊が過ぎますよ。母様は待ちくたびれてしまいましたわ」
涙を流すも美しい微笑みでルーナを見る。
「お母様がたくさんお話してくれていたの、聞こえていたわ。なかなか目覚められなくてごめんなさい」
「ルーナ。謝る事なんて何もないわ。母様の元に戻って来てくれてありがとう」
「ごめんね、ごめんね、ルーナ。ちゃんと説明していればこんな事にはならなかったのに。私のせいだ。ルーナ、ごめんね」
泣きながらダンテがルーナに謝る。
「ふふ。私ったら殿下に続いてお兄様まで泣かせちゃったわ。お兄様、お兄様のせいなんて少しも思ってないわ。私、泣いているお兄様なんて初めて見たかも。ふふ、可愛い」
「ルーナ」それだけ言うとますます号泣するダンテ。
それを押しのけるようにロザナ嬢がルーナの傍に近づいた。
「気分はどう?ルーナ、さすがに三週間は寝すぎじゃないかしら?あなたの声が三週間も聞けなくて、気が狂いそうだったのよ」
「私、そんなに寝てたの?嫌だ、背中にキノコ生えちゃう」
「ふふふ。もう、ルーナったら。アニエラとサンドロ様もそれはそれは心配していたのよ。早く元気にならなくてはね」
お兄様に助けてもらい、上半身だけ起き上がらせる。
ヴェントがルーナの手に自分の顔を擦り付ける。
「ヴェント、ありがとう。あなたにずっと会いたかったわ」
『我もだ。それと、周りを見ろ。皆、ルーナと話したいとうずうずしているぞ』
「え?」
周りを見る。あら?何やら周りがキラキラしているような……すると、小さな羽の生えた小人さんがたくさんフワフワしていた。




