目覚めないルーナ
あれから二週間経った。
なのにルーナはまだ目覚めない。カルロ団長もヴェントも魔力がルーナに戻ったのは確認している。一応、医者にも診せたが特に異常はないという。
ヴェントはこの二週間、ずっとルーナの枕元につきっきりでいる。
母親のパトリツィアも、時間の許す限り傍らにいる。
カルロ団長とダンテもあの決意の後、鬼気迫る勢いで一週間ほどで調べ上げ、証拠を集め陛下へと報告しいつでも断罪出来るようにした。
ロザナとアニエラ、サンドロも時間があれば様子を見に来ている。
もちろんリナルドと俺も。
皆、眠っているルーナより顔色が悪い。
「私のルーナ。早くお目覚めなさい。皆、待っているわ。今では、皆の方が病人みたいなのよ」と少しおどけてパトリツィアが話しかける。もうずっと、毎日語り掛けているのだ。それでもルーナは目覚めない。
『ルーナ』
『ルーナ、お目覚めなさい』
なんだろう、まだ眠いのに。私を起こすのは誰?
なんとか目を開ける。すると、そこには全身銀色に光り輝く綺麗な女性がいた。
『あなたが目覚めないと皆が嘆いているわ。もう力は戻っているはず。あとはあなたが目覚めたいと思えばいいのよ』
「でも……私のせいで殿下にたくさんケガをさせてしまったの。それに殿下にはもう素敵な方がいるから私はいらないみたい。私ね、殿下の事好きみたいなの。他の女性と親し気にしている殿下を見てから、ずうっと気持ち悪い感情が私の中でぐるぐるしていて、間近で二人の仲睦まじい姿を見て苦しくなって……それで初めて自分の気持ちがわかったの。でももうダメみたい」
何故か自然に銀色の女性に話してしまう。
『あら?それでルーナは諦めてしまうの?本当にその二人は恋人か確認した?確認もしないうちから諦めてしまうなんて、私の愛し子がそんな意気地なしだったなんてがっかりだわ』
「え?もしかして月の精霊王様?十六歳にならないと会えないはずじゃなかったかしら」
『あなたが力を暴走させたせいで、一時的にだけど姿を見せられたの。怪我の功名ってやつかしら』
「ふふ。怪我の功名なんて…なんだか精霊王様ったら言う事が意外と俗物的」
『あらそう?ずうっとこの世界に携わっていたせいかしら?』
「精霊王様はずうっとオルイレアランス国にいたの?でも誰も精霊王様を何百年も見ていないって」
そこで精霊王様が少し真剣な雰囲気になる。
『ルーナ、あなたの力が一時的にでも暴走という覚醒をしてしまったことで、私の存在が分かってしまったかもしれない。多分、分かったとしてもまだ何か仕掛けてくるほどではないとは思うけど気を付けて。既にあなたは予想より早く力をつけている。でもまだなの。まだ見つかるわけにはいかないの。
あと少しでいい、あと少しだけ我慢して。あなたの力がちゃんと覚醒したら、全部説明するから。それから、これから目覚めたらあなたにはたくさんの小さいお友達が増えるわ。危なくなったらその子達が手伝ってくれるわ。あと……あとね、全身が金色の精霊を見たら伝えてほしいの。私は元気だからって。お願いできる?』
「わかった。ちゃんと伝えるわ」
『ふふふ。言ったわね。じゃあちゃんと目覚めないとね。ほら、あっちを見て。ヴェントが待っているのがわかる?あそこがあなたの帰る場所よ。真っ直ぐお行きなさい』
「はい。殿下の事、聞いてくれてありがとう。ちゃんと確認してみるわ。まだ気持ちを伝える勇気はないけれど」
『うん、いい子ね。さすが私の愛し子』
「じゃあ、またね精霊王様」
そう言って私はヴェントの元へと走り出した。




