枯渇
「ルーナ!」
ルーナを抱きしめる。ルーナの身体がこの吹雪よりも冷たい。一体なにがあったんだ?頼む、目を開けてくれ。
やっと見つけたんだ。ずうっと待っていたんだ。また置いていくなんてそんな酷い事しないでくれ、お願いだ。自分の感情なのかわからない感情が湧き上がる。
「ルーナ!」「ルーナ!」何度も呼ぶ。
「ルーナ!頼む。目を開けてくれ。俺はまだ君に何も伝えていないのに、君は俺を置いていくのか?ルーナ、頼むから、目を開けてくれ。ルーナ、俺を置いていかないでくれ。頼む、俺を見てくれ」
「ウォン!」
ヴェントが何かを感じたのか短く吠えた。
すると光が消え、同時に吹雪が収まり出した。
ルーナを見ると、長く美しい銀色の睫毛が小さく震えた。
「ルーナ!」呼び掛けると、うっすらと目を開けた。
「……で……んか?」
「ルーナ、ルーナ。あぁ、良かった。大丈夫か?ルーナ?」
ルーナが俺を見て涙ぐむ。
「で……んか、ごめ……なさ……い。わたし……せい」
震えながら手をあげて俺の傷だらけであろう頬に触れる。途端、ぽうっと優しい白い光が広がってさっきまであった痛みが消えた。
治癒魔法を使ったらしい。
「ルーナ!俺の傷なんていいから力を使うな!頼むから、無茶をしないでくれ……」
最後は言葉にならなかった。
「なか……な……いで……だ……いじょ……ぶだ……ら」
どうやら俺は泣いていたようだ。
「ふふ……でんか……のこ……と……なかせちゃ……た」
小さく笑うとルーナは意識を失った。
「え?ルーナ?」
青くなる俺にヴェントが突然語りかけてきた。
『案ずるな。意識を手放しただけだ』
「ヴェントなのか?」
『そうだ。念話で話している』
そういえば、ダンテがヴェントと初めて会った時、念話してきたと言っていた。
「ルーナは大丈夫なのか?」
『あぁ、力が暴走した上に、貴様に治癒魔法を使って魔力が枯渇した。しばらく眠れば良くなるだろう』
「力の暴走?それは一体……何故暴走したんだ?なにがあったんだ?」
『何があったか、それは我の口からは言えん。言えるのは、ルーナは初めての感情に力が引きずられてしまったという事だ』
「初めての感情?」
『それは言えんと言っている。それよりも早くルーナを横にさせてやれ。少なくとも十日以上は眠り続けるだろうから、出来ればこのまま屋敷に帰らせたい』
「わかった。手続きは俺が全部やる。ヴェント、本当にルーナはもう大丈夫なんだな」
「ウォン」面倒になったのかヴェントは念話を止め一度だけ軽く吠えた。
保健室へと連れて行く途中、運良くリナルドに会ったので簡単に説明して、ロザナ嬢たちに知らせるのと、アルコンツェ家に先触れを出す手配をさせた。
驚きながらもリナルドは迅速に動いてくれた。
保健室のベッドに寝かせる。まだ青白い顔色をしているが、規則正しい息遣いが聞こえる。
あぁ、ちゃんと生きているな。しみじみと実感する。そっと頬に触れる。まだ少し冷たいが柔らかい。
本当に失わなくて良かった。
そう言えばと、先程の一連の出来事を振り返る。
ルーナを失うかもしれないと思った時、間違いなく自分とは違う感情があった。
また置いていかれる?確かそんな風に思った。
どういう事だろう?まるで、置いていかれたことがあるようなセリフだ。間違いなくあの時は自分の感情として口から出た。
だが、そんな事実は勿論ないはずだ。
ルーナを初めて見た時にも湧いた不思議な感情。
一体どういうことなのかと、もっと深く考えようとした矢先、ロザナ嬢たちの慌てる声に考えが霧散した。




