噂
「お兄様もお姉様も、とっても素敵」
学院祭が異様な盛り上がりで終わり、定期テストも無事に終わって冬休みへ。
いよいよ社交シーズン到来だ。
お兄様は黒の燕尾服に黒のタイ、襟の部分にはお姉様とお揃いで、金の刺繍が施されている。サラサラのハニーブロンドを後ろに撫でつけ、いつも以上に大人っぽい色気が漂っている。
お姉様も緩く編み込んだ髪をアップにし、髪飾りが映えている。後れ毛を所々垂らすようにしていると、お母様に負けず劣らずの艶やかさだ。
「二人で並ぶと壮観ね。これでお父様とお母様が加わったらもう、神々にも負けず劣らずの美しさになるに違いないわ。会場では誰もがうっとりするはずよ」
「ふふ、ありがとう。あぁ、ルーナも連れて行きたいですわ。思いっきり着飾ったルーナはそれこそ女神ですわよ、きっと。ルーナのデビュタントのドレスは一緒に選びましょうね」
「ルーナの時も私がちゃんとエスコートするからね。父上じゃなくて私とだよ」
と言うお兄様に
「ふふ、よろしくお願いします、お兄様」
と、笑顔で言えば
「あぁ、今日も天使」
お兄様は両手で顔を覆い、悶絶しているようだった。
後日、お母様から舞踏会の様子を聞くと、ダンスのパートナー争いで壮絶な取っ組み合いがあったらしい。しかも、男性だけでなく女性も。前代未聞の大騒ぎだったわと、それはそれは楽しそうにお母様は笑っていた。
休みが終わり、再び学院生活が始まると、先日の舞踏会の話で持ち切りだった。生徒たちはもちろん、先生たちまで面白がって話題にしている。そんな中、当事者であるお兄様とお姉様は、どこ吹く風という感じで全く気にしていなかった。
「流石、お二人とも大物よね」
放課後、サンドロとアニエラと三人で、カフェでお茶をしながらその話に花を咲かせていた。
放課後なので、生徒の数は比較的少なくて、ゆっくりとくつろぐことが出来る。
殿下が入ってきたのが見えた。
リナルド様と二人で奥の席へと進んで行く。私たちの席とは逆の方へ向かったので気付いていないらしい。
何の気なしに見ていると、一人の令嬢が小走りで殿下たちの席へ近づいて行くのが見えた。どこかで見た覚えのある令嬢だと思っていると、殿下の隣に当然のように座った。そして殿下にもたれかかっている。
私の心臓がドクンと大きく波打った。
殿下は私たちの席からは背中しか見えない。向かいに座っているリナルド様の表情を見ると、大きな溜息をついているのが見えた。
「あの令嬢って、ルーナに突然話しかけてきた令嬢じゃない?」
「あ、だから見たことがあると思ったのね」
話していながらも、殿下と令嬢の二人から目が離せない。心臓のドクンドクンという音がやけに大きく鳴っている。
「一体、どういうつもりであの状態を許してるんだ?」
サンドロが不快感を露わに言う。
「リナルド様も何も言う気配がないわね。呆れたお顔はしているみたいだけれど」
「俺、ちょっと言って来る」
席を立とうとしたサンドロを慌てて止める。
「ダメ!行かないで。私たちがしゃしゃり出る事ではないわ」
そう言いながらも、私の心臓の音は脳に直接響いているのではないかというくらい大きい。
「……心臓が痛い」
そして、数日と経たないうちに、殿下に婚約者候補が出来たらしいという噂が出回りだした。
お兄様に聞いてみようと思ったのだけど、卒業間近でとてもお忙しいらしく、最近は全く会えていない。何故か殿下とリナルド様もお城と学院を行ったり来たりしているようで全然会わない。
お姉様達に聞くと
「あくまで候補の候補みたいだけれど」
とそれ以上の情報が入ってこないと言う。
あれから私はなんだか気持ちが晴れないでいる。
殿下にお相手がいるとしても、別に私が気にする必要なんてないのだし、もう気にするのはやめようと思うもモヤモヤしてしまう。
それがどうしてなのか、それもわからない。お姉様やアニエラ達も、敢えてその話題には触れない。それがまた私の中でくすぶっていってどんどん心が軋んでいく。
自分の中でなんだか嫌な気持ちがループする。
そんな時だった。




