オルランディ家の実態
ほどなくして無事に出口に着くと、アニエラとサンドロが心配そうな顔で待っていた。そして何故かお兄様も仁王立ちで待っていた。
「おや?ここのゴーストは実は盗人だったのかな?私の宝を返してもらおうか」
相変わらずの黒い笑み。
「違うの、お兄様。私があまりにも驚いて腰が抜けてしまったのを殿下が助けてくださったの」
「ああ、そうだったんだね。それはありがとう、レオ。ではここからは私が引き受けようね」
全く心のこもっていないお礼を言って、強引に私を殿下から引きはがして抱き上げる。
それとほぼ同時に、お姉様が飛び出してきて
「ルーナがいつまで経っても祭壇にこないのだけれど」
と言って、私と兄上を見つける。
「ちょっとお兄様、自分の妹を誘拐するのはさすがに笑えませんわよ。」
お姉様も黒い笑み。
「嫌だなあ。誘拐未遂はレオだよ。私はレオからルーナを守ったナイトなんだから」
「お兄様こそ嫌ですわ。殿下が誘拐するなんて、この方そんな度胸、持ち合わせていませんわよ」
なんて私を抱えたままでとっても殿下に失礼な口論が始まる。もう、本当に仲良しさんなんだから。でも私を降ろしてからやってほしい。それと、殿下は私を助けてくださったんですってば。
「お兄様もお姉様も、落ち着いて。殿下は私を助けてくれたんです」
と言うと、お兄様の背後から
「そうなのかい?」と覚えのある声が聞こえた。
「お父様、お母様」
二人がニコニコしながら近づいてくる。が、私を見つけた途端
「ルーナ!」
お父様が嬉しそうにお兄様から私を奪うと、抱えたまま頬ずりされる。
「ルーナ、会いたかった。父様、ルーナに会いたくて城の仕事を急いで片づけて来たんだよ。陛下が何か言っていたけど、そんなのは無視して来てしまったよ。学院内でルーナに会える機会を潰す訳にはいかないからね」
「あなたったら、素が出すぎですわよ、ふふ。それでルーナ、殿下に助けてもらったというのは?」
お父様に抱えられている私の頬を撫でながら言う。
「ゴーストに驚いてしまって…」
周囲をちらっと見て納得したように
「あぁ、あなたは怖がりさんだものね」
そう言うと、お母様は殿下の方へ。
お礼を言いに行ったのだろう。
突然の事に、あっけに取られていたお兄様とお姉様が覚醒した。
「ちょっと父上、私が抱いていたのにかっさらわないで頂けますか」
「そうですわよ。ルーナをお返しになって。お父様菌がついてしまいますわ」
「……えええ。お父様菌って何?私は菌なのかい?うう、ロザナが酷い。ルーナはそんなこと言わないよね。それとも私じゃ嫌?私の事バイキンだと思う?」
情けない顔になってしまっているお父様を見て
「ふふ、あはは。そんな、菌だなんて少しも思ってないわ。お父様は誰よりも素敵です。大好きよ」
すかさずお兄様が
「あ、また。私は?私の事は?ルーナはまさか私より父上の方が好きなの?そんなわけないよね。もしそうなら泣くよ」
周りがあっけにとられている。
「敵に回してはいけない、王族ですら一目置いているというアルコンツェ家の面々の、末娘に対しての溺愛っぷりが凄い」
リナルド様がぽそりとこぼした。
特に、普段クールと言われているお父様とお兄様の甘々さに、周りのご婦人方から令嬢までありとあらゆる女性たちが、何やら赤面して眩暈を覚えたように立っていられなくなっている。
「あれってきっと、ルーナのポジションをご自分に置き換えて想像してしまったんでしょうね」
アニエラがニコニコしながら、周りを見て言う。
「殿下も固まってるんだけど」
サンドロの声にリナルド様が
「あぁ、さっきのルーナ嬢の笑顔にやられたんでしょ。普段は微笑むくらいのルーナ嬢が、声を出して笑ったのを見るのは初めてだったんじゃない?まあ確かに、あの笑顔は破壊力抜群だったもんね。俺的にはカルロ団長の情けない顔も、かなりの衝撃だったけど」
「俺も。父上が、あんな腑抜け野郎って言ってた意味が分かった気がする」
少なくとも国一番の魔法使いと言う事で、尊敬していたオルランディ兄弟にはなかなかの衝撃だったようだ。




