Side:レオナルド2
それは、本当に偶然だった。
少し一人になりたいと思って図書室に隣接している中庭へ向かう。
夏休みが終わった頃から、バルバリーニ家の父親が娘を婚約者にとしつこいらしい。以前から打診は受けていたのだが、いくら公爵家とはいっても、何かと黒い噂のある家と婚姻関係になるわけはないと軽くあしらっていたのだが、最近になってグイグイ売り込んでくる。
売り込みが尋常ではないので、何かあるのではとこれを機に、バルバリーニ家を徹底的に調べようという話になり、父親から調べていることを悟られないように、娘にはいくらか優しく接するようにと言われてしまった。
俺が最も苦手とすることだ。
そもそも、気のない女に優しくするという事が理解できない。せいぜい近づいてきても逃げないようにするだけだ。
先ほども、もう婚約者にでもなったかのような馴れ馴れしいしぐさで、俺の腕に絡みついてきた。しばらくは堪えていたが、胸をグイグイ押し付けて上目遣いで見てくるしぐさに吐き気すら覚え、適当に理由をつけてなんとか引きはがして逃げてきた。
一刻も早く一人になりたいと思い、以前たまたま見つけた中庭へ足早に向かう。
入り口の扉を開けると何やら甘い匂いがした。先客か?と思って踵を返そうとしたが、なんとなく気になってこっそり覗いてみる。
すると、銀色の大きな毛の塊が見えた。まさかと思って見ているとルーナがいた。
休みに街で会った以来だ。
バルバリーニ家の事があるせいで、ルーナには会っていなかったのだ。
今回、エジディオは関係していないとはいえ、ルーナに何か飛び火するかもしれないと警戒して会わないようにしている。
少しだけ久しぶりな彼女から目が離せないでいると、芝生で寝ている銀色の塊に向かってダイブした。しかも、顔を埋めながら足をプラプラしている。
生足が……一瞬思考がトリップしかけたが、頭を振って理性を保つ。
すると、次は鳥達と戯れ始めた。「小さなお客様」なんて言いながら、とろけるような笑顔を振りまいている。
なんだこれは、夢か?保とうとした理性が振り切れそうになる。
こんな素の彼女を見ることができるなんて俺はもうすぐ死ぬんじゃないだろうか、なんて思考が少しおかしくなる。夏休みのあの時も、素直に謝りながら俺を見上げる彼女に理性を失いかけたばかりなのに。
多分、彼女も俺と同じ理由でここに来たのだろう。最近の彼女に対する令嬢たちの熱狂ぶりは凄まじいらしい。
彼女も一人になりたかったのだろう。あの笑顔がなによりの証拠だ。ならば邪魔をしてはいけない。
俺は気付かれないようにそっと扉を閉める。いつの間にか俺の中のとげとげしい気持ちが和らいでいた。
いつか俺にあの笑顔を向けてくれないだろうか、と思いながらその場所を離れた。




