一人の時間
長いようで短かった夏休みも終わり、再び学院生活へ。
あれからエジディオ様に遭遇することもなく、平和な学院生活が送れ……てはいなかった。
クラスに行けば令嬢たちに囲まれ、食堂に行けば令嬢たちに囲まれ……何処へ行っても令嬢たちに囲まれてしまう。
お姉様やアニエラがいれば少しはマシなのだが、サンドロだと令嬢の数が余計に増える。
サンドロ、アニエラと食堂で昼食をしている今も、周辺の席は令嬢たちによって占拠されている。
「これ、ダンテ様や殿下たちが揃ったりしたら、学院の令嬢ほぼ全員集められるのでは?」
アニエラが言ったそれを、サンドロが想像したようで
「それ、マジで怖いぞ」
三人で目を合わせると三人揃って身震いしてしまう。
「想像してしまったわ。本当に怖いわね」
「とにかく、一時でいいから一人になれる時が欲しい」
サンドロが溜息交じりにこぼす。それを聞いて、私はニヤリとする。
「コホン。そんなサンドロ君に朗報です」
「え?なに?」
疑問符いっぱいのサンドロに笑いながら
「あのね、大きい声では言えないのだけれど、実は私ファラーチ先生から人の来ない中庭を教えていただいたの。それも2ヶ所」
「あら、それは素敵」
アニエラも興味津々のようだ。
「まず一つ目は修練場へ行く途中にある中庭。あそこは普段、剣術や武術の授業でしか使われないのであまり人が通らない、特に令嬢方は見学の時しか通らないのでまず来ない。二つ目は図書室の南側にある中庭。あそこは窓の目の前に図書室の中に陽が差さないようにと立っている大きな木があって室内からはほとんど見えない上に、中庭に通じている入り口付近の本棚には政や経済関連の本ばかりなので令嬢方が足を踏み入れない」
なるほど~と二人揃ってフムフムしてる。
「だから、早速この後検証してみようかと思ってるのだけど」
「いいね!じゃあ俺は修練場の方へ行ってみる。何度も通っているけど気にしたことなかったし、確かにあの中庭に行く人を見たことがないかもしれない」
「じゃあ私は図書室の方ね」
「それなら私は、この事をロザナ様に報告しに行く事にするわ」
アニエラが言うので
「お姉様だけにしておいてね。あの二人にはくれぐれも内緒よ」
と念を押す。サンドロも
「そうだな。殿下も兄上も絶対についてきそうだ」
「では、四人だけの秘密ですわね」
アニエラが嬉しそうに言い、いたずらを思いついた子供のように、忍び笑いをするのだった。
「ここ、最高かも」
早速来てみたが本当に誰も居ない。周辺の気配を探ってみたけれど、図書室の中から数人の気配がするものの窓からは見えない。南側にあるので日当たりもよく風が吹き抜けて気持ちがいい。
「次に来るときはサンドイッチでも持って来ようかしら。ね、ヴェント」
『菓子もだな』
その数日後、早速ルーナはカフェでサンドイッチとマドレーヌを用意してもらってあの中庭へ行った。
ベンチで食事をして、先にマドレーヌを平らげていたヴェントが芝生で丸くなっているので、その身体を枕のようにして寝転がる。うつ伏せの状態で身体を預けるとヴェントの毛で顔が埋もれる。
「ふふ。モフモフ気持ちいい」
はしたないとは思いながらも、膝を曲げて足先を上に向けプラプラしてしまう。
しばらくモフモフを堪能していると、ヴェントの食べこぼしを目当てに小鳥達が飛んできた。まるで、いい?と聞いているように首をかしげてこちらを見るしぐさがなんとも可愛らしい。
「ふふふ。いらっしゃいませ、小さなお客様。良かったら召し上がっていって」
と言いながら、残っていたサンドイッチのパンも小さくちぎって撒く。
小鳥達はチチチと鳴きながら啄み始めた。慣れてきたのか、私の手に直接乗ってきて催促するようにチチっと鳴く。ヴェントの頭の上にまでいる。
「ふふ、すっごく可愛い」
結局、パンが全部なくなるまで小さなお客様達に癒されたのだった。




