王都へ
「見えてきたわ!」
懐かしい王都の景色……とは言っても4歳には領地へ引きこもってしまっているので10年も経った今、懐かしいというよりは新鮮な気持ち。
綺麗に舗装された石畳、たくさんの建物、南にある領地とは空気も違う。
これからはここで家族揃って過ごす事が出来る。
そう考えるだけでワクワクしてしまう。
「ルーナ、そんなに乗り出しては危ないよ。馬車から落ちてしまうよ」
「もう、お父様ったら。私はそこまで子供ではないわ」
「何を言っているんだい。ルーナはいつまで経っても私の可愛い天使なんだよ」
若干、過保護気味なお父様の言葉に従い、窓から離れて向かいに座り直す。
すると、満足げな表情で私を見てニコニコし出す。
「お父様。お顔が残念なほど緩んでるわ」
「それはしょうがないさ。やっと我が家の天使が領地から王都に移って、家族が皆揃って生活することが出来るんだから」
「ふふ、それは私も楽しみ」
領地に移り住んだときも、一応は家族皆で生活していたのだけど、この国で魔術師団団長という立場であるお父様は、中々に忙しい身であったので、馬車で二日はかかってしまう領地に毎日帰る訳にいかず、不在の時も多かった。
その後もお兄様、お姉様が順に王都にある魔法学院に入学するために、領地から離れて行ってしまったので寂しかったのだけれど、やっと私も魔法学院に入学するにあたって、王都に戻る事になったのである。
この国、オルイレアランス王国は魔法が普通に存在しており、魔力が一定の基準以上あれば身分に関係なく、王立魔法学院の入学試験を受けることが出来る。
そして、無事に合格できれば14歳から18歳まで晴れて魔法学校の生徒として、最高水準の教育を受ける事が出来る。
勿論、私も無事試験に合格して、来月から魔法学院の生徒になる。ある程度の教育は、領地にいた頃から家庭教師に見てもらっていたので不安はない。
けれども同年代の人たちとの交流が、全くと言っていいほどなかったので、友人を作る事が最初の目標になりそうだ。
「私ね、お父様。お友達を作りたいの。学校の帰りにお茶したり、買い物に一緒に行ったり、お泊り会したり…そんな事をしてみたい」
「そうだね。ルーナは天使だから学校に入ったらすぐにたくさん友達を作る事が出来ると思うよ。友達だけじゃなく変な虫までついたりして…フフフ、そうなったら勿論、全力で潰すけど」
なんだか後半はもごもごして聞こえなかったけれど。それでもお父様の励ましの言葉に嬉しくなった。
再び外の景色を見ようと、何気なく窓へと目を向ける。
「お父様!馬車を止めて!!」
鋭い表情になっている私に、お父様も不穏な空気を読み取り御者へと指示を出す。
馬車が止まるや否や私は勢いよく外へ飛び出した。