スピードvsスピード
「それじゃあ今日は、せっかくの二学年合同授業だから、一年と二年のペアを作って手合わせといこうか」
剣術の先生が言う。
「はあい、ルーナ嬢ご指名でお願いしまーす」
早速、リナルド様が手を挙げる。
「おっ、これは見ものだな。ルーナ君はどうだい?」
「はい、よろしくお願いしますわ」
「よし。他も手合わせしたい先輩、後輩がいたらどんどん組め。わからない奴は俺が見繕ってやるから」
その掛け声と共に、何組かペアが決まっていく。サンドロは殿下と組んだみたい。
「じゃあ、五組ずつやっていくぞ。笛の音が合図だ」
殿下とサンドロは一組目だ。すっごい歓声。これ笛の音なんて聞こえるの?と心配したけど全く問題なかった。先生の肺活量は魔物級らしい。
やっぱりサンドロの剣は、一振りが重い。その上、スピードもそれなりにあるので、いちいち受けていたら体力を削られてしまいそうだ。
だが、殿下は何でもないことのように受け止める。今度は反対に、サンドロが殿下の剣を受け止める。サンドロ程ではないがこちらも重い剣だ。どちらも強いのがよくわかる。が、体力的に殿下が勝っていたようで、サンドロの一瞬のスキを見逃すことなく剣をはじいた。
「参りました」サンドロが言うと、割れんばかりの大歓声に包まれた。
「素晴らしかったですわ」
「そうだね。流石は殿下ってところかな。うちのサンドロも良いところまでいったけど」
リナルド様がなんだか嬉しそうに言いながら、私の肩に手を置く。
「さ、今度は私達の番だよ」
「いい試合だった。よし、じゃあ次の五組」
先生に言われて前に出る。
「ルーナ!そんな軟派男なんて蹴散らしてしまいなさい」
お姉様が容赦のないことを言ってくる。
「ルーナ!サンドロの仇を取って」
アニエラったら、訳がわからない。ここで勝つと仇を討つことになるのかしら?
「はは、サンドロの仇って私じゃないよね。ロザナ嬢も酷い誤解だよ。私は軟派なんかではないよ。いつだって真摯にロザナ嬢を口説いているのに」
あれで真摯になの?思わず口に出そうな所を慌てて手で押さえる。
「あ、今あれで真摯?って考えたでしょ」
リナルド様に突っ込まれる。な、なぜバレた?
「よーし。じゃあ始めるぞ」
先生の掛け声の後、笛の音が鳴り響く。試合開始だ。
まずはお互いに出方を見る。やっぱりリナルド様ってスキがあるようでない。ならば敢えてこちらから動く。足に力を入れて前に飛び込む。リナルド様もこれは読んでいたであろう、軽やかな動きで簡単に避ける。
何度か仕掛けてみるも軽くいなされる。
「それがトップスピードではないよね。いいの?そんな小出しにしてるならこちらからもいくよ」
言うのとほぼ同時、正面にいたリナルド様が消え、右斜め後方から切り込んでくる。流石。剣のリーチでは返しにくい距離まで詰めてこようとする。肘を曲げながら相手の力を利用して受け流す。
「へえ、うまいね。」
「リナルド様こそ。」
お互いに讃えあう。しばらく攻防を繰り返す。
このままでは、体力的にこちらが不利になってしまう。これは限界突破するしかない。後でどっと疲労感が襲うかもしれないけど、スピードを限界以上にあげる。
敢えて受け止められるであろう攻撃を繰り出す。数回攻撃した後、不意に気配を消す。ほんの一瞬、リナルド様が私を見失った。
今だ!リナルド様の後ろに回り込み、気づいたリナルド様が振り向く瞬間、喉元に剣を向けた。
「はあ、参りました」
会場からシン、と音がなくなった次の瞬間、学院中に響き渡るような大歓声が起こった。感極まって泣き出してしまうご令嬢たちもいて、大騒ぎになっている。
お姉様とアニエラは抱き合って喜んでいるし、飛び出してきたサンドロが私の頭をワシャワシャ撫でまわすのでぐちゃぐちゃだ。
仕方がないからリボンを取り、手櫛で直そうとしたら私の前に影が出来た。
「本当に君は、とんだじゃじゃ馬だな」
殿下が私の髪を手櫛で撫でつけながら言う。
「それで?殿下、私に何か言うべきことがあるのでは?」
敢えて大人しく髪を触らせながら、わざと意地悪く言ってみたら、殿下が笑いながら更に一歩私に近づく。
そしておもむろに耳元まで顔を近付け
「私が間違っていた。ルーナ嬢の強さに見惚れてしまったよ」
と囁いて離れ際、髪を撫でつけていた手を耳から顎のラインにかけて、指先でたどるように撫でて離れて行った。
殿下の触れた部分から熱を発するかのように熱くなる……なに?今何が起こったの?殿下はなんて?あれ?私殿下に謝罪させてしまった?これって不敬罪?あれ?でもその後何か言われたわ。なんだったかしら?
熱に浮かされて軽くパニック状態だ。
殿下の行動を全く理解できないまま、身体は固まり続けている。そんな私にサンドロが気付いて
「ルーナ、どうした?放心したまま戻って来られないか?」
返事も出来ずにいると、次の試合が始まるからと手を引かれ、端に連れて行かれたのだった。




