合同練習
あれから特にエジディオ様から何か接触があるわけでもなく、平和に月日は流れていった。
もうすぐ夏休みである。そして、今日の剣術の授業は二年生との合同授業になる。
「休み前最後の授業があの方たちと一緒だなんて面倒くさい」
着替えながら思わず呟いていた。今日は黒いシャツに白のパンツ、黒いブーツで髪は高い位置で一つに結っている。
修練場へ向かうと、途中でサンドロに会ったので一緒に向かう。到着するとなにやら騒がしい。またもや令嬢たちは見学会のようだ。お姉様とアニエラが、数人の友人たちと以前と同じように、一番前をしっかりキープしている。私の視線に気づいたアニエラが、こちらに向かって大きく手を振っている。
私もサンドロと一緒に、アニエラに向けて手を振り返した。すると、悲鳴にも似た歓声がアニエラ周辺のご令嬢たちから上がる。相変わらずすごい…そして怖い。
今度は入り口付近から黄色い声援が上がる。
殿下とリナルド様だ。
「本当に目立つコンビね」
とサンドロと囁きあっていたら早速こちらに近づいてきた。
「ルーナ嬢、知ってる?今日はね、二年対一年で模擬戦をするんだって。ちゃんと約束したこと覚えてる?私と手合わせしようね」
リナルド様が嬉しそうに言ってきた。
「二年の間でも銀の君の事は話題になっているからね。戦うのが楽しみだよ。」
「銀の君と呼ばれるのは不本意ですけれど、私も同じスピードを得意とする方と戦った経験はお兄様以外ありませんので楽しみです」
「ルーナは強いですよ」
サンドロがちょっと自慢気に言う。
「間違ってもルーナ嬢に怪我なんてさせるなよ」
殿下がリナルド様に言う。
「あら?それではまるで、はじめから私が負けるみたいな言い方ですね?」
ちょっとカチンときた。
「そういうわけではない。ただ万が一ということがあるだろう。リナルドは私の側近候補になっている程の実力者だからな」
「だからそれが、私を弱いと言っているんですけれど」
「そうじゃない、心配しただけだ」
「弱いと思っているからでしょう」
はあ、と殿下がため息をついた所で先生が来た。
「また後でな」
ちょっと疲れたような殿下と、肩を震わせながら手を振るリナルド様が離れていく。
スッキリしない。サンドロに促されて歩き出そうとした私は、殿下の後ろ姿に向かって思いっきりアッカンベーをしてやった……ら、振り向かれた。
あっけにとられた顔の殿下と、大爆笑のリナルド様。
「ほら、俺達も行くよ」と笑いをこらえているサンドロに連れられて集合場所へと移動する。
「笑いたかったら笑えば」と言うと大爆笑ですよ、この方。
爆笑の仕方、兄弟そっくりじゃない。
「ククク。殿下に向かってアッカンベーとか……そもそも小さい子供ならまだしも、レディがアッカンベーって……」
声をひくつかせながら喋るサンドロ。笑って苦しいなら喋らなければいいのに。
もう、こうなったら皆をギャフンって言わせてやるわ。
「いやあ、ルーナ嬢は可愛らしいね。初めて会った頃はクールビューティかと思ったんだけど。俺達に気を許してくれている証拠かな。どんどん素が出てくるみたいだ。ククッ、君にアッカンベーする子なんて初めて見たよ。あれは、ダンテが宝って言うのがわかるかも。」
ひとしきり笑ったリナルドが言う。
「あれは、どうやらとんだじゃじゃ馬らしい」
レオナルドは苦々しい顔をするも嬉しそうな声で言った。
「サンドロにも勝ったというし、あれだけ自信満々に言うんだ。実力の程、見せてもらおうじゃないか」




