剣術の授業
学院生活が始まって半月が過ぎた。いよいよ剣術の授業だ。
この時ばかりは制服でやるわけにはいかない。白いシャツに黒いズボン、黒いブーツという出で立ちだ。髪は後ろで一つに結っている。
準備を整えると、すっかり仲良くなったサンドロと修練場へ。
この学年では女子は私だけらしい。剣術を取っていない令嬢たちは淑女マナーの授業だそうだが、どういう訳か今日の淑女マナーの授業は、剣術の授業の見学会だそうだ。
学院にいくつかある修練場の中でも、この修練場はとても大きくて様々な催しにも使われるらしく、外側に会場を囲うように客席が段々になって設けてある。
会場と客席の境界には結界が張ってある為、物が飛んでいくという心配はないらしい。
アニエラが数人の令嬢たちと一番前で目をキラキラさせて見ている。
身体を慣らすために軽く柔軟していると先生がやってきた。
「今日は初めての授業だから、私が適当に組ませる。その者と手合わせしてくれ。そこで、大体の力量を見極めるから真面目にやるように」
なんだ、サンドロとは出来ないみたいね。少し残念な気持ちになりながら、先生に言われた相手と組んだ。相手は私より少し小柄でちょっと挙動不審だ。私をチラチラ見ながらあわあわしてる。
「よし、皆ペアになったな。じゃあ、適当に場所を動いて。笛で合図をするから、そうしたら始めてくれ。周りとぶつからないようにしろよ」
そう言われて一斉に皆が動いた。なので、私達は動かずともいいスペースができた。
「よろしくお願いしますわ」と挨拶すると、相手が「本当にいいのですか?」と聞いてきたので「本気で来ていただいて構いませんわ」と答えた。
どうせ木剣だし打ち込んだとしてもちょっと腫れるくらいだ。すぐに治癒魔法で治せてしまう。
すると「ピー」という音が鳴り響いた。
相手が構えの姿勢を取る……が遅い!たちどころに相手の懐に入り、剣を弾き飛ばす。
「キャー!ルーナ」アニエラが声援を送ってくれた。相手はポカンとしている。先生が来て、「もう終わったのか?」と驚いた様子で問う。
「さすがに見てなかった」と先生が困った顔をして「よし、もう一戦頼む」と順番を待っていた生徒から一人連れてきた。背は私と同じ位、ニヤニヤした顔が気持ち悪い。うん、とっとと終わらせよう。
いつの間にか、手合わせが終了した生徒達もこちらに注目しているようで視線が痛いし。
先生の「始め!」の合図と共に懐へ。なのにこの人、まだ構えてすらいない。「遅い!」という呟きと同時に剣を払って相手の喉元に剣を向ける。手応えがないと思った矢先、黄色い声援が辺りに響いた。
「ルーナ!凄いな」
どうやらサンドロも早々に手合わせが終わっていたらしく、見ていたようだ。
「ありがとう、サンドロ。私もサンドロの剣技、見たかったわ。手合わせは次回に持ち越しね」
それを聞いた先生が
「なら、二人で手合わせしてみるか?」
「いいんですか?」
「ああ、君たちならいい試合が出来そうだからな」
お互いに向かい合う。笛の音の合図と共にまたもや私は懐へ飛び込む。しかし、サンドロはこれを読んでいたようで剣で防ぐ。防ぐだけでなくそのまま私を吹っ飛ばした。剣ごと飛ばされた私は身を翻し、態勢を整えて再びスピードに乗せて移動する。
右へ攻撃すると見せかけてもう一段階スピードを上げ、サンドロの背後を取りそのまま剣を振りぬく。しかし、ギリギリの所で躱されてしまった。
サンドロは躱した態勢のまま下から斬り上げる。咄嗟に後ろに跳んで避けた。凄い風圧。あの剣を受けたら打撲では済まないかもと考えながら、避けた勢いそのまま膝を曲げて屈伸の力で再びサンドロの目の前へ。
サンドロが自分の胸より下に防御を取ると予想して、目の前へ飛び込むと見せかけて飛び上がる。サンドロの背後に背中同士を合わせるように着地し、飛んでいる間に持ち手を逆にしていた剣をサンドロの背に突き立てた。
「そこまで!」
先生の掛け声と共に、会場中が大歓声に包まれた。
「やっぱりそのスピードは凄いよ、ルーナ」
「サンドロこそ。その剛剣は掠っただけで大ケガするレベルよ」
と言ってサンドロの足元を見る。
さっきの斬り上げの風圧で、髪の毛が数本まとめて掠めたらしい。
「ごめん!髪が……」
「ふふ、それくらいなんともないから。それに本気で闘ってくれたってわかって嬉しかったわ」
「本当に?じゃあこれからも俺と手合わせしてくれる?」
「勿論」
そう言って、二人で笑い合う。
すると、先程の大歓声の更に上をいくほどの黄色い声が会場中に響き渡ったのだった。




