未熟刺客
一
ノールバック王都の、夏の風の勢いは、強い。特に強くなるのは、夕刻、日没前後の半刻から一刻であった。
家路につく、高科乙は、腰に大小を差した、羽織袴姿ながら、れっきとした女である。
薄桃色の羽織に同色の袴を、風に吹かれるまま、乙は強風の理由を思い出す。
シド・ミレイリアという青年から聞いた話では、理由は二つ、あった。
ノールバック王都は、この世界に珍しく、城壁の無い都市であることがまず一つ。
今一つは、昼から夕刻までの温度差が大きい、というものであった。
前者は、風を遮る物が無いため、というので乙にも解る。後者は、いくら考えても、乙には得心のいかぬ事であったが、その場においては、
「成程」
と、解ったつもりの態度を、取ったものであった。
びょおっ――!
途端、一際強い風が、路地を通り抜けた。その時、乙は歩を止めた。
強風に足を止められたのでは無かった。
背後、それも頭上から、注がれる視線を、乙の敏感な神経が察知したのであった。しかも、かなりの殺気が、籠っていた。
刺客とみて、相違無いことであった。
だが……。
乙はその場に佇立したまま、微動もせずにいた。振り向くことすらせぬ。
殺気に中てられて、動けなくなったのでは無かった。むしろ、すすんで相手をしてやろう、というつもりであった。
だが、刺客の方も、すぐには、動かなかった。
彼女は、既に何人もの、自分を狙う者たちを、斬ってきた。それらの者は、乙の一瞬の隙を見るや、その瞬間には、虚を突いている、といった塩梅の手練れ達であった。
――襲って来るには、丁度良かろう場所と時間であろうに。何の思案の時間か。
乙はただ、つっ立ったまま、背後の刺客を嗤う心持ちであった。
或いは、この刺客は、まだ稼業に就いて日が浅いのかも、知れぬ。もし、そうであれば、この刺客は不憫である。
二
どれ程の時間、刺客はターゲットを見続け、また、ターゲットである高科乙は、刺客に背中を見せ続けていたことであろうか。
刺客は、名をセリムといった。今年、十三を迎えたばかりの、少年であった。
セリムの口は、緊張でカラカラに渇いていた。
――隙が無ぇ! クソッ!
この一年、高科乙とその従者の名前は、嫌でもセリムの耳に届いていた。
ギルドの腕利きが、もう十人近く返り討ちにあっている。それも、そのほとんどが、一撃で、次の刹那には血を噴いているという。
相当な実力なのである。五人、否、三人がやられた時点で、普通は警戒するだろう。
しかし、ギルドの猛者達にあって、高科乙という、まだ二十歳にも満たぬ、しかも女を、恐れるわけにはいかない。撃退された者を嗤い、自分ならば始末できると、挑んでいった。そうして、八人が物言わぬ体となった。
セリムも、ターゲットの実力は認めざるを得なかった。順当なやり方で、高科乙を消すことが自分には難しいのは重々承知であった。彼我の実力の差がはっきりと解っていた。しかし、それでも――
セリムは引くわけにはいかないのであった。
高科乙、とは、二年前、セリムの家族を殺した張本人なのだ。
三
二年前……。
街の端にあたる、サフル河での釣果は上々だった。鮎が二匹、鮭――それも大きな――が一匹。家では、ここのところ仕事の出張で父は空けているが、母と姉が待っている。褒めて貰える、と、上機嫌で家に帰った。
「ただいま」
と言い終える間などなく、彼は異常に気付いた。
錆の、うっすらと付着し始めた鉄の臭いというか、魚のくさりかけ、濃度の高い塩水、とにかく玄関を開けてすぐに、鼻を刺激した。
瞬間的に、血の臭いだとセリムは直感した。釣り具も魚籠も放り投げて、母と姉を探した。
それぞれの自室に、二人は無惨な姿で姿で仆れていた。
「――い! ――おい! しっかりしろセリム!」
二人の姿に、セリムは茫然とし、しばらくは立ったまま、気を失っていたらしい。気が付かされると、すぐ隣に、父の上司と前に聞かされたことのある男が立っていた。
「おじさん……?」
何故、この人が自分の家にいるのか。父は? どうして家族が殺されて――そう、殺されているのか。誰がこんな事を。
それらが一度に頭に浮かんで、しかし、セリムは言葉に詰まった。ただ解っているのは母と姉が死んでいる事だけ。
直後、再びセリムは気を失い、次に覚醒したのは、父の上司であるコルドバの家であった。
コルドバに、聞かされるまで、セリムが、父親の本当の姿を知らなかったのは間違いのない事であった。母も姉も知らなかったであろう。
セリムの父のは、暗殺者であった。
セリムがそれを聞かされたのは、コルドバに引き取られてからおよそ一年後の事であった。
……高科乙、若菜留伊という女たちの噂が、このころ、王都では、ちらほらと、拡がり始めていた。
セリムは、さらに一年を、コルドバに言われるがままに、過ごした。暗殺者となる為の一年であった。
先ごろ、高科乙が、襲った父を撃退し、且つ、怒り収まらずにセリムの母姉を殺した、或は殺させたと、コルドバからセリムは報された。調査に調査を重ねて、やっと判明したのだとコルドバは言った。
疑念は、確かに、あった。しかしセリムにとって、コルドバは信用するに値する大人と言えた。暗殺者ギルドの経営者といえど、たった一人になった自分を拾ってくれた。更には、家族を殺した相手に復讐できるスキルを、身につけさせてもらえている。違和感を、押し殺すに充分であった。
一年あれば、人は、特に若者は、劇的な変化を遂げるものだ。しかしそれは、正しい導き手が傍にいなければならぬ。
暗殺者ギルドを経営するコルドバという男は、セリムにとって、果たして最良たる教士であったろうか? 生きることを説く父たり得たろうか? 戦う事を誉れとする騎士のような存在であったのは間違い無い。しかし、逃げる、退く、ということを教えるのを排除した時点で、コルドバという男は、教士でも父でも、友でも、なんでもなかった。
四
経験の有無などお構いなしに、暗殺者として名簿に載ったからには、一年も経てば、中堅どころである。たとい、一度も指名されることなく、ぼんやりと月日を過ごすだけの一年であったとしても。
セリムには、実際の殺人の経験はないものの、鍛錬は積んできたんだ、という自負があった。
今、目に映る高科乙の存在は、母と姉の仇であった。父の、では無かった。二の次であった。
暗殺者としての父は、敗け、結果、死んだというだけであった。
暗殺者稼業で、それは、極々小さな問題でしかなかった。
仕事である。相手を殺そうというのに、失敗した時に、自分は殺されたくないと言うのは、ただただ、駄々をこねて、無理を通そうというのと同じであった。
そんな分別を付けれるほどには、セリムが成長し、また、この稼業に染まっている、と言えた。
だからこそ、母と姉までを、手にかけた高科乙が憎かった。
五
おおよそ十分を、立ったままである。いい加減、待つのも面倒になってきた高科乙であったが――。
一向に動きを見せぬ相手に、乙はいささかの興味を同時に抱いた。
それがために、襲って来ぬならば、さっさと帰ってしまおうかとする思いは弱くなった。
日はすでに没し、月明かりも今夜は心許ない。
乙は体ごと振り返り、刺客がいるだろう辺りに目をやった。その視線の先に、確かに、セリムがいるのであった。
「なんのつもりで、襲って来ぬのか分かりませんが、その気が無いのであれば、わたしは、帰らせて頂きます。わたしのねどこを、どうぞ、探られなさい」
強い語調で皮肉を言った。しばしの間をおいて、
「に――逃げるつもりか!」
姿を見せぬ刺客の声。
「笑止です。そのつもりがあれば、かように待ち続けてはおらぬ。……人をののしるのであれば、姿を見せなさい! 臆病者!」
挑発しながら乙は ――おや? と心中で首を傾げたものであった。
刺客の声は男のようであったが、変声期を過ぎていないか、妙に甲高く感じたものであった。
「……」
乙は待った。と――暗い夜空に更に黒い影が跳んだのを捉えた。影は真っ直ぐに乙に向かってくる。
わずかながらの月明を反射する刃は小振りであるのを認めると、しかし、乙は、腰の堀川国広を鞘走らせる事はしなかった。
軽い動きで右手に半間程跳んで、刺客の剣を外す。
刺客は一瞬前まで乙が立っていた所へ着地するやいなや、新たな場所へ移した彼女の許へと短剣を伸ばした。
慌てるでもなく、乙は刺客の腕を掴み、刹那ののちには、組伏していた。
「……こども――?」
薄明りの中に見る体躯は、小柄な乙に比べても、小さい。
「はなせッ!」
刺客であるセリムは何とか逃れようともがいてみるが、この高科乙という女は、幼少の頃より武術に親しんでいる。「男であれば――」「女に生まれたのが、惜しい」と周囲に言わしめるほどの天稟と才覚の持ち主である。逃れようが、無いのであった。
「放せば、お主は、どうする?」
「殺してやる!」
「わたしはこの一年で生命を狙われるのには慣れています。だから、言わせて貰う。お主では、わたしには勝てぬ。大人しく退きなさい」
忠告したしたものだが、セリムは乙の下で抵抗をするのみだ。
「逃げるだと――? 誰が……! ふざけるなよ!」
「勝てぬ相手を前にした場合、退くことも、充分に考慮なさい、と言っているのです。それに、見た所、お主はまだ子供。あたら若い命をわたしに捨てさせる様な真似はおやめなさい」
「うるせえ! 俺の家族を殺しておいて!」
――家族? どういうのだ? わたしを襲った者達の中に、この少年の親が居たというのであろうか?
乙は、だとすれば、釈明の一つでもしておかねばならなかった。
「この一年、わたしは狙われてきたが、その中にお主の父親がいた、という事ですね? 仇と言われればその通り。その齢にして、そなたの忠孝、あっぱれ見事――。相手になりましょう……と言いたい所ですが、今までは、こちらが斬らねば、こちらが死んでいました」
「――だからか! 復讐が怖くて、だから俺の母さんや姉さんまで殺した! そうだろ!」
これにははっきりと、乙は首を捻らねばならなかった。
「何を言っているのか、わからぬ」
「とぼけんな! 二年前! この王都のはじっこの家だ!」
「わたしは確かに少なからず人命をうばってはいるが、わたしからすすんでうばった事はたった一度きり……わたしの良人――だけです……。それに、二年前というのであれば、わたしはまだ、ここ王都に来ておらぬ。当時わたしが居たのはカディスという所です」
「……う、嘘だ……」
セリムの語気が弱くなった。
「嘘ではありません。……カディスでも確かに狙われはしましたが……」
二年前の、カディスでの騒動を思い出していた。乙は、切羽拓郎――いや、本来は許嫁であった、本名、原口勘兵衛との果し合いの事。死神心剣と名乗る男の存在の行方が、ついぞ、掴めなかったと言う若菜梅雪軒景勝の報告も。が、それも一瞬の事として――、
「そなた、コルドバの手の者ですね?」
ずばりと、乙は言ってのけた。
「だったらどうした! いまさら!」
セリムの、気にも留めないようなこの反応を見て、
――こちらが、こちらを狙う者を探っているのを、向こうも知っている。この少年が、教えてくれた。
相手は幼き少年である。しかし、乙はそう、確信した。
乙は、少年を組伏すのを、やめた。セリムの身体の上から退いた。
「――!」
即座にセリムが立ち上がり、短剣を構え直した。が、すぐには動かず、乙の出方を見るつもりの様であった。
「そなたでは、わたしには勝てぬ。まずは退きなさい。退くならば、追うことはせぬ。わたしはそなたの御父上の仇。なれば、実力をつけて再び来なさい。ここで退かねば、こちらとて、相手をしましょうか。年少のそなたを斬ったとなれば、わたしの恥ですが――」
乙なりの忠告の仕方であった。当然、セリムには効くはずがなかった。
「うるせぇッ! 死ねえ!」
言いざま、身をかかめて接近してくるセリム。
――致し方無いか。
抜く手も見せぬ業で、腰の堀川国広を鞘から解放せしめた乙は、向かってくるセリムの胴へと、剣筋を走らせた。
次の瞬間には――。
「う――うぅ……」
呻きつつ地に伏すセリムと、その倒れる音を背中に聞く音の立ち姿があった。
血振りもせず愛刀を納めて乙は振り返り、
「あれほど、逃げよと、退けよと、申しましたよ……」
自分より、ずっと若かった刺客に向け、投げかけていた。
セリムはもう、物言えぬ物体であった。
六
一日経ってもセリムが戻らないとの報せ受けたコルドバは、
「そうか。ガキを使えばもしかしたらと、思ったんだがな。死んだな、セリムは」
己が引き取ったにも関わらず、コルドバの声は冷たいものであった。報告者を退らせておいてコルドバは一人ごちた。
「それにしても忌々しい……。高科乙……!」
高科乙を始末して欲しいと、依頼があったのは、およそ一年前である。
名のある、貴族からであった。その貴族の息子が、言動をいさめられ、恥をかかされたと思ったらしい。それが為、息子は決闘に持ち込んだが、その場においても簡単にいなされた、という事であった。
恥を雪ぐ為、決闘を申し入れるのは、貴族社会の常識であった。もし、相手が、拒否すれば、相手は、とんだ卑怯者であると嗤われても仕方が無かった。
だが、勇んで申し入れておいて、自身が負けたとなった場合、更なる恥となるのは、これは、必定であった。
――そろそろ、手を引くか……? それとも他に手があるか?
コルドバは仕事を受けるにあたって、常に引き際を頭に留める男と言えた。
為せると踏めば、かなり強引な手段も辞さぬ。しかし、どうにも無理と悟れれば、退く。
だからこそ、ギルドの維持が出来たとこの男は自分を疑わぬ。
だが、今回、高科乙に関しては、引き際を誤ったのではないか、の思いも生まれていた。ことごとく失敗し、十人近くの腕利きがやられた。
――いや、汐時だ。セリムも通用しなかった。よくも二年間の仕込みを……。
今までの事らしくもなく、高科乙に拘って、しかし、唯一の成果は、セリムの始末をつけられた、これだけであったと言えた。
コルドバが部屋を出ようと立ち上がった。不意に、部屋の外が騒がしくなった。――なんだ? どうした? と眉宇をひそめていると、ドアが開いた。入ってきた女の姿に、ぎょっと立ちすくんだ。
「無礼を承知で侵入をさせて貰った。お構いはして頂かなくとも結構――」
薄桃色の羽織袴という、いつもの出で立ちの高科乙であった。
「貴様――!」
よもや、引き際を定めた瞬間、目の前にあらわれようとは。
「お主が、コルドバか。お初にお目にかかる。もっとも、わたしが名乗る必要は無いであろうが」
相手が微笑を刷いて見せた。次に、急に真剣な顔をつくった。
「今日、ここへあらわれたのは他でも無い。わたしも狙われるのにはそろそろ倦いた。だが、お主に確かめておきたき仕儀が一つある」
乙の瞳からは真っ直ぐに、見つめられていた。コルドバは、じりっ、じりっ、間合いを確かめ、外すよう後退しているが、部屋の出入り口はひとつきり。逃げるチャンスは無いと見て、ほぼ間違いなかった。
「少なくとも、いままでの敵は、相当の手練れを、わたしにぶつけて来たと言ってよい。しかし、あの刺客。あれはまだ子供であった。それもまだ経験の少ない未熟な。……なにゆえ、そのような子供をわたしに斬らせようと思い至ったのか、それを聞かせて頂こう」
「うるせえ! だまりやがれ」
コルドバが叫ぶも、
「いいや、だまれぬ。あの子供が口にしたところでは、二年前に、わたしがあの子の家族を殺害せしめた、とか。はて、わたしにそんな記憶はない。ふしぎな事と言わねばなるまいな」
乙の口調、その態度も、淡々としたものであった。不意に、出し抜けの一喝を浴びせた。
「たわけ者! シラを切りとおせるとでも思っているか! あの子の家族を殺したのはお主! そうであろう!」
乙の圧力に、コルドバは腹を括った様である。ぱっ――と跳躍するや、空中で身を翻しながら壁際に着地すると、その手には、壁に飾られていたエストックが握られていた。
「蒸し返すようにごちゃごちゃと――。ああ、そうだ! あのガキの身内を殺ったのは俺だ! それが、どうした!」
この言葉を聞いて、ニヤリ、表情をつくってしまった乙であった。
「聞いたか? セリム。これで私への誤解は解けた、と思わせて貰います」
しっかりとコルドバへ向けたままの顔で、乙は背後の扉の向こうへ投げた。ややあったのち、入ってきたのは、セリム本人であった。
「セリム――!」
コルドバの目が大きくなる。
セリムの顔面は蒼白であった。怒りをともなっているのか、その体はふるえていた。
「おじさん……あんたが本当の……!」
セリムに睨まれて、コルドバが言い放った。
「ほざけ! 裏切り者にゃ、その家族もろとも消えて貰うってのぁ、この稼業の定法だ! セリム! テメエも俺に二年も生かされたんだ。ありがたく思え!」
「おまえ――!」
「だいたい、テメェら、ここをどこだと思ってやがる。生きて帰れるとでも思ってんのか?」
コルドバに言われたが、乙は鼻で笑うのみであった。簡単に帰れるように、この屋敷の手下どもをいちいち、気絶さしてきたのである。だから、コルドバの言葉に、乙は取り合わぬ。
「セリム。退く、逃げる、という行動は、必ずしも恥ずべき事ではありません。斯様に、生き永らえてこそ、見える真実もある。今日、知ってくれたでしょう?」
ここで、腰の利刀のうちの大刀――麒麟国広――をゆっくりと抜きつつ、乙はセリムに、いっそ、微笑んで見せたことであった。
「セリム。そなたはまだ、人を殺めた事が無いと言ったな。……ならば、どれほどあの男が憎かろうと、わたしに任して欲しい。わたしは自分から人を斬った事は、一人と言ったが、――今日、再び、その気になった」
乙はぴたりと、晴眼に構えるや、すっ、と右八双に変化させ、刀身を水平になるまで降ろした。その時は右手首を返して、刀の峰を相手に向ける、必殺剣の構えとなっていた。
「俺に殺らせてくれ!」
セリムが願った。
「ならぬ。それをすればお主の本懐は、叶おう。しかし、どうであれ、人を殺めた、という宿業を、そなたは背負わなければならぬ」
ぴしゃりと乙は返した。
「何の為の、峰打ちであったか、考えさっしゃい」
乙はセリムを峰打ちにより、気絶させ、自宅へ運んだのであった。そして、目を覚ましたセリムへ、必死の説得をしたのである。
乙と、コルドバの対峙は、すぐに、終わった。先手を取ろうと動いたコルドバの胸が、乙の堀川国広の切っ先を深々と迎え入れた。生命の灯が消えたのを確信して、乙は国広を引き抜きつつ、コルドバに背中を向けた。
「狙われるには倦いたと、申したであろう」
一旦は片手で上段へ持って行った血振りののち、乙はしかし、背後の屍を、全く、憐れんでいなかった。
乙にとっても、こんな気持ちは、初めてのことであった。
女武士道道吟味控――おんなもののふしどうぎんみのひかえ
の続編ですかね……。高科乙の、どこかのいつか、を切り取った、だけです。ようはただの思い付きです。ちゃんとしたのは、今後、考えることにします。
シリーズ管理の仕様を正直、理解していません。完結済みの作品にくっつけられるっぽいですが。