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零話 序幕

 煌々と輝く光が瞼の裏を刺す。

 燃え盛る火炎は、辺りにある物を片っ端から焼き、燻ぶった臭いを放っている。

 頬から流れ落ちる血が口の端に溜まり、口の中へと鉄の味を伝えようとしている。

 しかし、そんな事は気にならない。目を瞑っても燃えているのが分かる火や、発せられる煙による臭い、そして自身が負った傷による血の味など、眼前に転がるものに比べればなんとたわい無い事だろうか。


 手を……取る。自分の、ではない。目の前に転がるソレ、親友の亡骸の手を。

 これだけの火に晒されておきながら、その体は血など最初から通ってなかったかのような冷たさに支配されていた。当然、掌を強く握ったとて、帰って来るものは何も無い。より一層、目の前の人物の命が喪われているのを自覚させるだけだ。


 メリ、と音がする。


 口の中に、新しく鉄の味が、血が充満していた。

 どうやら、知らず知らずのうちに口の端を噛んでいたようだ。鈍い痛みが血と共に溢れ出るが、歪んだ顔の原因はそれでは無いだろう。


 親友の骸を越えた向こう側、そこに立つ人物へと視線を向ける。揺らめく炎を背に、七つの影が無機質な目でこちらを見下ろしている。


 何故こんな事を!! そう、叫んだかもしれない。


 守る為だ。そう返されたかもしれない。


 ただ、胸の内を占めるのは強い悔恨のみであり、そしてそれは同時に、喪ったものを取り戻せないという現実の表れでもあった。

 屈辱を味わった、プライドを傷つけられた、なんて事は無い。むしろ、それらよりも更に非情な現実を突き付けられた。

 どう足掻いたところで出来る事など何もない。嘲笑も無く、侮蔑も無く、ただの一度も振り返らずに、歩き去る七人の背を茫然と眺めながらそう悟った。


 結局、大切な人一人守れず、ただ無力に打ちひしがれていた。地に悔しさをぶつけるも、拳の皮から血が滲むだけで死んだ人間が生き返るわけでは無い。泣き叫んだところで、人一人が流す涙程度の量では、燃え盛る火を鎮める事など到底できはしない。


 絶望とは、こういう事だったのか。そう理解し、震える足を強引に立たせ、親友の亡骸を腕に抱き、七人が消えて行った方向とは逆へと歩を進める。足は重く、まるで鉛のようだった。傍から見れば、到底人間とは思えないような歩みをしていただろう。


 しかし、この時の俺は思いもしていなかった。

 これはまだ始まりでしかなく、もはや救いなど、どこにも無い事を……。

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