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第八章 激闘、お笑いバトル(三)

 予想に反してアポカリプスBが先に動いた。アポカリプスBが打って変わって、とてもフレンドリーな口調で話しかけてきた。


「なあなあ、天笠くん。人類はもうすぐ終わりそうなんだけど、歴史の始まりって、知っている? 文明ができた辺りの話よ。ほら、有名でしょう。黄河文明とかメソポタミア文明とか。大きな河川の付近にできた文明よ」


 アポカリプスBの意図が読めなかった。とはいえ、雰囲気を壊すと危険だったので、態度を合わせた。

 天笠も気さくな態度で付き合った。

「おお、知っているよ。メソポタミア文明と言えば、ナポリタン川の付近にできた文明やろう」


 正解はティグリス・ユーフラテス川だが、正解を言えばボケにならずにアウトだ。

「そう、ナポリタン川にチーズを添えてって――」

 アポカリプスBの目が鈍く光った。アポカリプスBが両手を組み合わせ振りかぶった。アポカリプスBが軽く飛び上がると、組み合わせた両手を天笠の頭に振り下ろした。


 強烈な衝撃が襲ってきて転倒した。天笠の意識は意識が飛びそうになった。

 倒れた天笠の横でアポカリプスが何事もなかったかのように話を続けた。

「おい、そんな美味そうな川があるかい。天笠くんは本当に物を知らんな。メソポタミア文明と言うたら、文明を終焉(しゅうえん)に導いたカンジタ川が有名やろ」


 天笠はどうにか立ち上がり、ハリセンに抗議した。

「ちょっと待て、今、攻撃したろ。停めないのかよ」


 ハリセンが涼しい声で、取り合わなかった。

「試合中の暴力行為はもちろん反則として止める。だが、今のアポカリプスBの行為は突っ込みと判断する。故にセーフだ。問題ない。ほら、天笠の番だ。早く、ボケなさい。ボケが成立せずに負けと看做(みな)すぞ」


 効かないとは思うが、やられっぱなしは(しゃく)(さわ)る。天笠は《灼熱のソース》を舐めると、アポカリプスBを目がけて、口から火を噴いた。

 炎は大きく燃え上がり、アポカリプスBを包んだ。アポカリプスBが炎に包まれると「あちち」と口にして転げ回った。

「なぜ、効いた?」と疑問に感じると、ハリセンが当然というようにコメントした。


「そうそう、言い忘れていた。笑福対決なので突っ込みに対して、よりよいリアクションを取れるよう、各自の防衛能力は、制限させてもらった」


 どうやら、一方的にやられる展開はない。だが、防衛能力の制限を謳っているので仙人の復活能力は使えない可能性があった。


 単なる暴力と判定されないように、ボケを加えた。

「君、カンジタ言うたら、性病やぞ。君の言いたい川はカンジタ川やなくて、ガンジス川やろう。ガンジス川と言うたら有名やね。エジプト文明。ほら、言うやろう。エジプトはナイルの賜物って」


 アポカリプスBが転げ回って、炎を消した。アポカリプスBが、相撲の立会いの姿勢を採った。

 強烈な体当たりが来ると予想できる。だが、突っ込みを避ければ笑いが成立しなくなり、負けになる。アポカリプスBが横綱も真っ青のぶちかましを放ってきた。


 衝突の衝撃で、天笠は高速で地面を転がされた。胃が破裂するように強烈な痛みと、脳が揺さぶられたような気持ち悪さを感じた。

 ハリセンの能力のせいか、痛みを消せなかった。


 地面に転がる天笠から離れた場所でアポカリプスBがボケを放った。

「天笠くん、自分でガンジス川って言っておいて、ナイルの賜物って、なんや。明らかに違うやろう。ナイル川、言うたら世界最大の河川やで、通販サイトで同じ名前があるやろう」


 立たなければ負けになる。どうにか《激動のソース》を舐めた。辛い体を無理やり念動力で起こした。そのまま仰向けで浮く姿勢を採る。

 念動力を駆使して体にスピンを掛け、ドロップキックの体勢で格闘ゲームの必殺蹴りのような技を放った。


「それは、ナイルやなくて、アマゾンじゃ」

 高速回転を掛けた蹴りを頭部に受けたアポカリプスBが、縦方向に地面を転がった。アポカリプスが転がっていく姿を見ながら言葉を追加する。

「アマゾンといえば、ミノア文明。ほら、君だって、聞いたことぐらいあるやろう」


 指折り数えながら、ボケをかました。

「ミノタウロスとか、ハツタウロスとか、レバータウロスとか」

 ボケが成立した。アポカリプスBに立つなよと念を送った。


 アポカリプスBが足元をふらつかせながら立ち上がった。

「ミノア文明は、焼き肉屋か」


 突っ込みのセリフと同時にアポカリプスBの目が緑に光った。殺人的な熱線が来ると思ったが、来なかった。光線は空中で直角曲がって空の彼方に消えた。


 アポカリプスBが舌打ちしてから、負けと判定されないようにボケのセリフに追加する。

「ほんと天笠くんは物を知らんな。そもそも、ミノア文明は、エーゲ海近辺で栄えた文明や。アマゾンとは関係ないんよ。アマゾンと言うたら、インカ文明や、有名やろう、マヤ歴」


《死を呼ぶソース》を舐めてから、仙人の歩き方でアポカリプスに接近した。

「おいおい、君、自分でインカ文明と言うといて、マヤ歴って何や。マヤ歴と言うたら、どう考えてもマヤ文明やろう」


 両手で《殺す力》をアポカリプスBの胸に打ち込んだ。《殺す力》は発動しなかった。

 どうやら、相手を殺すほどの突っ込みは、ハリセンに消される。先ほどのアポカリプスBの熱線があらぬ方向に曲がっていったのも、同じ理由だろう。


 ここに来て笑福対決の難しさがわかってきた。殺さない程度の攻撃を繰り返して、アポカリプスBに突っ込み、ないしは、ボケができない状態まで持っていけば勝ち。

 または、ボケと突っ込みを繰り返して、アポカリプスBの集中力を削ぎボケを成立させなければ勝ち。


 このままボケと突っ込みを繰り返していては勝利にするのが難しいと感じた。

 アポカリプスBに痛みやダメージが入っているとしても、アポカリプスBは仙人が作り出した兵器。


 とてもではないが、打たれ強さや意志の強さで天笠が勝てるとは想像できなかった。となれば、短期決戦で勝負をつけるしかない。

(自滅を誘ってみるか)


「ところで、君はよく見ると随分と恰幅がいいな。ぶっちゃけ、少し太り過ぎや。カロリー計算とか、してるか? 調味料とかも結構カロリーあるんやで。中でもソースはカロリー高いよ。君は、どんなソースが好きなん?」


 急に話題を変えたが、アポカリプスBは調子よく乗って来た。

「ソースと言うたら、やっぱり麻雀やね」


 作戦変更を悟らせないために、念動力を駆使して十mほど飛び上がり、アポカリプスBの顔を踏みつけるよう落下して突っ込んだ。

「それは、索子(そーず)。僕のいっている言葉はソース。ソースと言うたら、小学校でやる授業、九九とか、分数のことよ」


 攻撃に紛れて、話題を自然に理数系にシフトさせる。

 顔を踏まれてもアポカリプスBは体勢を崩さず、踏み留まった。

 アポカリプスBは天笠の足を掴み振り回した。勢いよく天笠の体を投げ飛ばす。アポカリプスBが自慢げにボケた。

「天笠くんの言っている言葉は算数、ソースと言うたらソフトウェアのコードやろう」


 見事にアポカリプスBが引っかかった。ハリセンが無情に宣告した。

「それは、ソースで合っている。ボケきれてない。アウト」


 危ない戦いだった。アポカリプスBがもっと知略に富んでいたら、勝てなかった。

 ハリセンが消えると、アポカリプスBの背後に現れて、アポカリプスBの後頭部を叩いた。  

 パンと、いい音がした。アポカリプスBの目から光が消え、起動を停止した。


 上空の光る物体も消えて、辺りは夜に戻った。

 動かなくなったアポカリプスBの顔を覗き込むが、完全に機能を停止していた。

 機能を停止したのなら、急いで帰らないといけない。ハリセンに一礼して、柄を掴んで、鞘に戻した。


 仙人走法で走って自宅に帰った。自宅に帰ると、大黒真人がまだゲームを続けていたので、こっそりと水を置いた盆と、ハリセンを交換した。


 大黒真人の背後からゲームの進行状況を確認すると、あと、二時間くらい掛かりそうだった。

 ゲームが終わったあとに勝手にハリセンを拝借した行為がばれたときのために、賄賂の準備をしておく。


 近所で美味いと評判のサンドイッチ屋から、一番高いサンドイッチを購入。さらに、コーヒー・ショップからカプチーノを購入してきて、大黒真人の手の届く位置に置いた。


 食べ物と飲み物を置くと、大黒真人が自然と手を伸ばしてゲームをしながら口にした。二時間後、大黒真人の勝利でゲームが終了した。


「なるほど、これは面白いね。さっそく、やろう」

「では、始めましょう」とゲームを開始した。


 ゲームの結果は何百時間とゲームを遣り込んだ天笠より、たった二回しかやらなかった大黒真人の圧勝で幕を閉じた。


 大黒真人がゲームに勝ったあと、自慢する口調で宣言した。

「どうやら、PCシミュレーション・ゲームでもワシの勝ちのようだね。まだ、やる気かい?」


 天笠は畏まった態度で申し出た。

「俺の完敗です。何度やっても勝てそうにないので、これにて終了でいいです」

 大黒真人が少しばかり意外そうな顔をしてハリセンを手に取った。


 ハリセンを手に取ると、大黒真人の眉が少しだけ上がった。大黒真人は楽しそうな顔で「やりおったな」と口にした。 


 天笠は黙って頭を下げた。大黒真人は怒るかと思ったが、さばさばした態度で述べた。

「まあ、よいわ。久々に面白い思いができたし、食事も提供してもらったから、よしとしよう。さて、仙徒済に移動して、秋風道人の泣き面でも見てくるか」


 大黒真人の姿が薄くなり消えた。


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