表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/38

第五章 開眼ソース仙術(五)

 仙徒済のダンボール・ハウスの呼び鈴を鳴らすが、秋風道人は留守だった。喫茶コーナーと厨房を探すがいなかった。

 冥府でもソース仙術が使えるか不明だった。試そうとすると小瓶が破損していて中の《第六感》ソースがなくなっていた。


 作ったソースがなくても食堂には調味料がある。調味料があれば仙術ソースを作り出せるかもしれない。

 食堂に行って調味料コーナーに移動すると、調味料が百以上も並んでいた。味を見ながら似た味の組み合わせを探した。なかなか、意図する味に辿り着けない。


 調味料コーナーで二時間近く時間を潰していると、背後から「なにをやっているの?」と声が掛かった。

 振り返ると秋風道人がいた。秋風道人が叱る口調で注意してきた。

「天笠くん。厨房スタッフから調味料だけひたすら舐める変な仙人がいるって、ワシの所に苦情が来たのよ。いくら貧乏でも調味料だけで腹を満たすそうとするって、どんだけ貧乏なのよ」


「違うんですよ。秋風道人を探すソースと作ろうとしていたんですよ。そしたら、中々思いの味が出なくて、困っていたんですよ」

「そうか、天笠くんは汁で仙術を発動できる汁仙人だったね」


「その呼び方は嫌なので、せめて、ソース仙人と呼んでもらえないでしょう」

「いいけど、ソース仙人だと仙人と言うよりソースを知り尽くした専門職みたいだね。まあ、仙術が発動するソースだから、間違いではないけど」


「それより、秋風道人を探していたんですよ。下界まで往診をお願いしたいんです。不可知の能力を使う子がいるんですがぐったりしてしまって、呼びかけに反応しないんです。しかも、不可知の能力が発動したままなので、他の人間に見せられないんですよ」


「なるほどね」と口にすると、袖口から一包の薬を取り出した。

「これは、獅子王金丹と呼ばれる体を健康な状態に戻す薬だよ。これも、天笠くんが飲むといいよ」


「病気なのは明峰なのに俺が飲むんですか?」

「獅子王金丹は仙人が飲むには薬だけど、人間には猛毒なのよ。強すぎる薬は毒だからね。だから天笠くんが飲んで、味を覚えて人間界の調味料で再現するのよ。再現したソースに、天笠くんの気を込める。そうすれば、効力がぐんと弱くなって人間が飲んでも大丈な状態になるから」


 そういうものかと思って、口にすると、凄まじい酸味と甘みで、戻しそうになった。

 戻しそうになると、秋風道人が「それ、一個しかないからね」と釘を刺した。すぐに、味による不快感だけを遮断して味わった。


 味は覚えたが、酢や砂糖が水に感じるほど強烈な酸味と甘みを再現できるかどうかが不安だった。

「秋風道人、これ人間界にない味ですよ」


 心外だとばかりに、秋風道人が言葉を口にした。

「ちゃんとあるよ。ワシは獅子王金丹と似た味をトルコの高級料理屋で味わったよ。探せば存在するって。探してみなさいよ。時間ないんでしょう。さあ、探した、探した」


 明峰を回収するための小麦の袋を渡され、追い立てられるように現世に戻された。

 戻ってきたはいいが、トルコ語なんてわからない。それに、秋風道人が行ったトルコの料理屋が現在もあるとも思えなかった。

「一人で探したら、絶対に見つからないな」


 料理についての知識なら、大波に聞くに限る。大波に電話をした。

「舌が焼けるような甘さ。痛いほどの酸味がある調味料を使った、昔のトルコの高級料理屋で出ていた料理ってわかりますか」

「天笠くんが言いたい物はギムタットディエとアジエキシェで作ったロクムかしら」


 魔法の言葉が並んでいるが、大波は存在を知っていた。

「ギムタットディエとアジエキシェがすぐ欲しいんですが、手に入りますか」

「手持ちがあるから譲ってもいいけど、高いわよ。名門高級食材通販で売っているけど、どちらも、二百㎎で五十万円はするわよ」


 アホみたいな味がする調味料は馬鹿みたいな値段がした。高いが、人の命が懸かっているとなると、背に腹は代えられない。

「わかりました。後でお金を送るので、買って送ってください」


 大波が興味深げに訊ねてきた。

「ギムタットディエとアジエキシェなんて、なんに使うの?」

「ソースを作るのに使います」


「お金は要らないわ。でも、作ったソースは半分は貰うわよ」

 仙人のお宝的ソースを大波に渡してもいいか、一瞬ちらっと躊躇った。でも、渡そうと決心した。


 ソース仙術を極めるには一般的な材料だけでは再現できないかもしれない。となると、変わった食材や調味料を入手する手段が必要だ。大波との関係は維持しておくに限る。それに、危険なソースは、渡さなければいい。


「わかりました。手を打ちます。黄昏園の家に送ってください」

 電話を切るとJRを乗り継いで、黄昏園に向かった。黄昏園に着いた時には、もう夜明けだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ