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第五章 開眼ソース仙術(四)

 明峰を探しに町に出た。明峰のいる方角に向かって歩いて行くと、明峰がいるはずの場所に辿り着いた。

 場所は公園内だったが、明峰はいなかった。明峰の気配を感じ取ろうと試みるも無駄だった。


 もう、一口《第六感》ソースを口に含んで理解した。位置は合っているが、距離がずれていた。見上げても、夕暮れの空しかない。地面を見た。


 黄昏園の施設は地下にもある。明峰は地下にいる。本館から地下に入った。

 地下街の天井は地上と同じ夕暮れの空を思わせる色合いに変化していた。地下街は帰路に就く職員で人通りがあった。


 地下街を歩いて明峰を探した。ビルとビルとの間にできた三畳ほどの空きスペースに、明峰はいた。

 明峰は壁に凭れ掛かって座っていた。表情は乏しく、半開きの目はぼんやりと天井を見つめていた。今の明峰からは写真で見た快活さはなかった。


 名前を呼んでみたが反応はなかった。明峰が目を閉じて、ゆっくりと倒れた

「おい、明峰、ちょっと」と声を掛けたが反応がなかった。

 通りかかった人に「救急車」と声を掛けた。ところが、声を掛けられた人間はスペースを覗き込んだだけで、首を傾げて通り過ぎて行った。


 不可知の能力が切れていなかった。そうなると、明峰が見える人間は天笠だけ。

 明峰を担いだ。仙人化が進んできたのか、明峰を軽々と持ち上げられた。明峰を担いで地上に戻った。


 地上に戻っても、明峰を認識してもらえるようにしないと病院にも連れて行けない。明峰の顔を覗うと、ぐったりして反応がなかった。どれほど危険な状態かわからなかった。


 こういうときに頼りにできる人物は秋風道人くらいだ。でも、冥府と現世の往復には、多大な時間が掛かる。冥府に行ったはいいが、帰ってきたら明峰が冥府に旅立っていたとなれば本末転倒だ。

「竜宝の力を借りよう。《時知らず》の中なら、病気でも進行を遅らせられる」


 急いで竜宝の家に行くが、竜宝は留守だった。

 小瓶のソースを一口含んで、竜宝を思い浮かべる。竜宝のいる方角は学校だった。学校まで仙人走りで移動した。


 竜宝と遭遇すると、驚いた顔で話し掛けてきた。

「天笠先生、どうして、私が探しているのがわかったの? ひょっとして心が通じあっている?」


 竜宝には明峰は見えていなかった。竜宝も天笠を探していたとなると、竜宝の身にもなにか起きたのだろうか。

「なにか、あったのか」


 竜宝が恥ずかしそうな顔で、控え目な態度で発言した。

「来週、登校する時になにを着ていけばいいか、わからなくて」


 わりとどうでもいい問題だった。しかも、下校時間が終わってから学校に会いに来るのだから、どこかずれている。明峰の件があるので急いではいるが、竜宝の協力がなければうまくいかない。

 竜宝には明峰が見えないので、物事を順調に運ぶためにも竜宝の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。


「学校は服装自由だけど推奨の制服があるから、困ったらとりあえず制服にすればいいんじゃないのか。校内でも三割くらいは制服で来ている人間を見るよ。すまないな、あまり参考になりそうになくて」


 竜宝が晴れやかな顔で、嬉々として報告した。

「そんなことないよ。天笠先生の意見なら参考になるよ。それと、近々お父さんが帰ってくるかもしれないんだ。連絡があったんだよ」


「そうか、それはよかったな。ところで、竜宝は力の使い方が理解しているか。理解しているなら俺をもう一度、消してくれないか」


 竜宝は渋って拒絶した。

「嫌だよ。天笠先生には消えて欲しくないよ」

「必ず戻ってくる。今の俺には竜宝の助けが必要なんだ」


 竜宝の顔が険しくなった。

「嘘ですよね。誰かが私を必要とする状況なんてありえないよ」

 竜宝の足元の空間が歪んだ。感情を揺さぶれば《時知らず》が出現すると感じた。


 竜宝の手を取って頼んだ。

「そんなことはない。俺には竜宝が必要だ」

 なぜか、竜宝が目を閉じてキスをせがむように、唇を差し出した。急な展開なのでキスするかどうか迷った。


 迷うと竜宝が目を開けて「嘘吐き」と罵った。竜宝は天笠に背を向けて歩き出したので、肩に手を掛けた。《時知らず》が空中から現れて、天笠と一緒に明峰を飲み込んだ。


 来るとわかっていたので、《時知らず》に呑み込まれるときに舌に意識を集中した。擂り下ろした林檎に芥子マヨネーズ・ソースを加える。次いで、深煎りコーヒーに七味を淹れて溶いた味がした。


 わけがわからないが、とりあえずは目的を達した。

《時知らず》の体内に明峰を置いて、空間の歪みを探した。見つけた空間の歪みから冥府まで走って移動した。


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