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第五章 開眼ソース仙術(三)

 現世に出ると実家の仏壇の前だった。血で汚れた服を着替えた。実家は空ける時に水道を止めたので、銭湯に行く準備をしていると玄関で呼び鈴が鳴った。

 宗教の勧誘か訪問販売だろうと出て行かないと、ドアが開く音がした。不審に思い出て行くと警備会社の人間が立っていた。


 警備会社の人間に「貴方は天笠さんと、どのような関係ですか?」と聞かれた。

 警報装置が入ったままだった。

「天笠庵です。実家に物を取りに来ました」と答えると、警備の人間が怒鳴った。

「騙されませんよ。天笠庵さんは亡くなっています」


 死体の処分に困った二人組が黄昏園の外に死体を捨てたのだと悟った。

 再び、警察の世話になる日が来た。

 取調室に入ると、以前と同じ刑事がやってきた。刑事は天笠の顔を見ると、露骨に顔を顰めた。顰めた上で「お名前は」と聞いてきた。


「刑事さん、前にもお会いしましたよね。天笠ですよ。天笠庵ですよ。なんでまた、俺が死んだ経緯になっているんですか。俺は生きているんですよ」


 刑事が胡散臭(うさんくさ)い人物でも見るかのような顔で質問してきた。

「天笠庵が仏さんで見つかった。俺も検視に立ち会って、今回は死亡をはっきりと確認した。署内では第二次試食人殺人事件の捜査本部もできている」


「捜査本部に第一次とか第二次とかあるんですね」

 刑事は(とげ)のある口調で教えくれた。

「ねえよ。そもそも人間は一回しか死なないからな。二次とか名前が付くのが異例なのに、殺人事件の被害者が再び名乗り出てくるなんて、どうなってんだ」


「そんなの、俺に聞かないでくださいよ。俺は生きているんですってば、なんでも聞いてくださいよ。なんでも答えますから」

「天笠さんは、今なにをしているんですか?」


「超能力者養成施設で教師をやっています」とは答えられない。ただ、教師と答えてもいいが「教員免許はお持ちではないでしょう」と突っ込まれたら困る。


 答えられないと、刑事の眉間に深い皺が寄った。若い警官が入ってくると、刑事が報告を聞く前に口を開いた。

「どうした、仏さんの指紋と容疑者の指紋でも一致したか?」


 若い警官は戸惑ったが、頷いて出て行った。

「そうだ、刑事さん、DNA鑑定しましょう。DNA鑑定。そうすれば、俺が天笠庵だったとわかるでしょう」


 刑事がすぐに「うん」とは口にしなかった。ただ、ものすごく(しか)めっ面だった。

 再び若い警察官が入って来ると、刑事は警察官のほうを見ずに口を開いた。

「お前の言葉を当ててやろうか。被害者の遺体が死体安置所から消えた、だろう」


 若い警察官は狼狽(うろた)えたが「そうです」と答えた。

 刑事が天井を仰ぎながら言葉を発した。

「きっと、天笠はゾンビになって生き返った。生き返って、再び新たな犠牲者となるべく町を彷徨(さまよ)い歩いているか、ハハハ」


 刑事は笑うと、机を両手で思いっきり叩いて怒鳴った。

「冗談じゃないぞ、畜生。警察を舐めやがって、お前はいった何者なんだよ。これで、第三次試食人殺人事件の捜査本部なんかできたら、タダじゃおかないぞ」


「だから、俺は天笠庵なんですよ。死んだ人間が別人なんでしょう。誰だって殺人事件の犠牲者になんか、なりたくないですよ」


 とりあえず、泊まって行けとなって、頬の内側を擦った綿棒を提出して、拘置所で再び一泊した。

 翌日は、また歯医者かと思ったが、釈放された。今回の迎えはなかった。

 銭湯に行き、サッパリしたところで、近くの漢方薬局屋で(あぶ)甘草(かんぞう)を買って、黄昏園に戻った。

 黄昏園に戻った時には日が暮れていた。


 ゆっくり眠り、翌日に学校に向かった。学校に着くと、登校時間が一時間過ぎたところで、校内放送を掛けた。


「明峰さん、明峰さん、校内にいましたら、至急、職員室まで来てください。天笠殺人事件について聞きたいことがあります。繰り返します。天笠殺害事件について聞きたいことがあります。職員室まで来てください。以上、天笠からの呼び出しでした」


 関係者以外は冗談に聞こえるが、関係者にはわかるメッセージだ。

 一時間くらい待った。誰も来なかった。昼になったので、昼飯を買いに行って戻った。一人で寂しく昼飯を食べていると、蓮村がやって来た。


 蓮村はいたって普通に会話を始めた。

「こんにちは。天笠先生。明峰を探しているようですが、明峰は学校には来ていませんよ」

「そうか。なら、いい。蓮村にも話があったからな。蓮村は放送を聞いた誰からか連絡があって、本当に俺が生きているか、確かめに来たんだろう」


「おかしな言葉を仰る。先生は生きている、つまり殺人事件はなかった、違いますか?」

「被害者の俺としては、なかった経緯にしたいのなら、なかった経緯にしてもいいさ。ただ、事件が事件だけに、このままでは終われない。落とし所が必要だ」


「明峰と私に登校しろ、と?」

「明峰と蓮村の説得は俺の仕事だから静観してもらって構わない。俺を襲った二人を許す気はあっても、野放しにはできない。放置すれば間違った経験を学習しかねないからな。かといって、二人の裁きを二人に任せておかしな結末になっても困る。今回の件、蓮村は傍観者ではないのだから、蓮村の責任分は協力して欲しい。これはお願いだ」


 人を殺しても咎めがないでは教育上よくない。かといって、黄昏園の超能力者に対する態度は不明。

 ならば、犯人側に事情を通じており、黄昏園のやり方にも精通している蓮村に案を出させる辺りが、ちょうど良い。もしも、厳しすぎる、甘すぎるに傾けば蓮村案を蹴って考えればいい。


 蓮村は素直に引き受けてくれた。

「わかりました。明峰の登校については協力しませんが。許す気があると明言するなら、殺人事件の落とし所については、探ってみましょう」


「協力には感謝するよ」と口にすると、蓮村は澄ました顔で「失礼します」と出て行った。

 下校時間になっても、明峰は現れなかった。家に帰る途中に、砂出し浅蜊(あさり)を買って帰宅した。


 甘草と煎茶を、別々に淹れる。味を思い出しながら、気を送りつつブレンドし、最後に浅蜊の出汁を加えた。 

 人探し用の調味料とも言える《第六感ソース》が作成した。


 写真で見た明峰を思い出しながら、一匙そっと(すく)って口に入れた。漠然とだが、明峰のいる距離と方角がわかった。


《第六感ソース》の完成を実感した。同時にソースで仙術を再現するソース仙術の始まりだった。

 効果時間が不明なので、《第六感ソース》を小瓶に入れた。


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