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第四章 まずは生徒を集めるところから(一)

 生徒用の身分証と教師用を交換した。

 教師の仕事については「お任せします。ただ、組織の上層部からの呼び出しには必ず応じてください」とだけ釘を刺され、説明が終了した。


 教師の身分証があるので、地下施設に移動できた。地下にも地上と同じような店があった。

 中を覗くと人間が対応しており、清掃も人間がやっていた。人間が多いせいか、地上と比べれば活気もあり、地下街のほうが人間の生活感があった。


 A棟に出勤して、職員室に顔を出して、一日を過ごした。黙っていても、何もやる仕事がない。

 生徒も来ない。大波もいない。教師になったが、あたかも座敷牢に閉じ込められている感覚だった。


「出世したけど、待遇は逆に、悪くなっていないか。これで、一日中、ネトゲとかやっていたら、完全にダメ人間だな」

 仕事を探そうと決めた。教師用ネットワークに接続し、色々と仕事のネタになりそうな情報を探してみる。


 黄昏園に在籍している生徒は四十二名。その内、二十名は不登校だった。

 ただでさえ少ない生徒が半分以上も登校していないのだから、実に寂しい。亜門と蓮村も、ほとんど出席がなかった。


「とりあえずは、学校に生徒を集めるところからのスタートなのか」

 まだ、日が浅いので、黄昏園の状況はよくわからない。ならば、わかっている人間を捕まえて聞くに限る。


 教員の権限で亜門と蓮村の住所を特定した。二人とも、施設内の共同住宅に住んでいた。

 蓮村の家に訪問するが、蓮村は留守だったので、亜門の家に移動した。

 亜門の家には誰かがいる気配がした。呼び鈴を押すが、誰も出てこない。そこで、悪徳貸金業者のように、しつこく呼び鈴を押し続けた。


 五十回以上も押したところで、ようやく玄関に人が出てくる気配がした。

 間隔を開けて、呼び鈴を押すと、ドア・チェーンを掛けたまま、不機嫌な顔の亜門が顔を出して「なんの用だ」と悪態を吐いた。亜門の肩は入っていたので、どこかで治療を受けたらしい。


「つれない言葉を言うなよ、亜門くん。昨日の喧嘩の件なら、俺は根に持っていないよ。蓮村を探しているんだが、どこにいるか、知らないか。ちょっと、相談したい問題があるんだ」


 胡散臭(うさんくさ)い者でも見るかの顔で亜門が答えた。

「相談って、なんだよ。俺にわかる内容なら俺が教えてやるよ。話せよ」


「俺は昨日の喧嘩が理由で、黄昏園の教師になったんだ。そこで出席率を調べると、驚くほど悪い。そこで、まず、学校に生徒を集めようと思っている」


 (さげす)んだ表情で、亜門が吐き捨てるように口にした。

「体制側の人間になったのかよ。だったら、なおさら蓮村の居場所は、教えられないな」


「俺が教師になった原因は、亜門が喧嘩を売ってきたからなんだよ。なら、喧嘩を売ってきた亜門にも、責任の一端はあるだろう。だったら、協力してくれてもいいはずだ。昨日のクロワッサンは、今日には高く付くんだよ」


 亜門は頑なだった。

「ダメだ。蓮村は売れない」

「どうして、売るとか、売れないとか、頑固店主のような発想になるかな。俺は相談に乗って欲しいだけなんだよ。あと、亜門も学校に来いよ。俺の中では、学校に来させたいリストの中に入っているからな」


 非常に不機嫌な顔で、亜門が異を唱えた。

「なんで、俺が行かなきゃならないんだよ」

「俺が教師になったからだよ。どうせ、黄昏園なら、家にいても、学校にいても変わらないだろう。なら、卒業資格が貰えるだけ得だと考えないのか。損な話なら、持って来ないよ」


 亜門は何も言わずに、ムッとした表情のまま視線を合わさずに扉を閉めた。

 亜門には嫌われ、蓮村の居場所は、わからずじまいだ。黄昏園の中を捜して歩くが、蓮村どころか、誰にも会わなかった。


 弁当を買って、職員室で長い昼休みの時間を潰しいていた。

「失礼します」と蓮村が澄ました顔してやって来た。亜門から「探している」と連絡が行ったらしい。近くの席を勧めて、話を切り出した。


「さっそくだが、相談だ。生徒の出席率が悪いんだ。出席率を上げる知恵を、貸して欲しい。出席率向上の問題は黄昏園の問題だ――は、なしだ。もっとも、昨日の首の分の借りを返す気がないなら話は別だが」

「脅しですか」と少しだけ眉を上げて訊いてきたので「お願いだよ」と返した。

 しょうがない人だと言わんばかりの顔で、蓮村が提案した。

「もし、出席率を上げたいと(おっしゃ)るのなら、竜宝杏と明峰香の二人を、登校させることです。この二人さえ登校させることができれば、後の人間は、どうにかなるでしょう」


「たった、二人を登校させるだけでいいのか? 本当に二人が来るだけで、他の人間の出席率も連動して上がるとは、思えないな」


「信じる、信じない――は、先生の自由ですよ。もし、二人を登校させる環境にできたら、私と亜門も学校に来るようになるでしょう。ただ、竜宝と明峰は亜門を上回る問題児ですから、難しいとは思いますが」


 蓮村の話は、どうも信用できない。だが、竜宝と明峰が来ると、亜門と蓮村が()いて来ると言ってくれるなら、誘わない手はない。

「わかった。協力、感謝するよ。さっそく、二人が登校できるように説得に行ってくる」


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