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第三章 つまらない死に方(四)

「それまでだな」入口から声がした。

 入口を見ると、亜門と同じくらいの年齢の、色白の男子生徒が立っていた。男子生徒の髪は白く、眉は細い、眼にはどこか物憂(ものう)げだった。服装は黒の綿パンに白いシャツと簡素だった。どこかで「蓮村だよ」の声が聞こえた。


 蓮村は、亜門がやり過ぎないように見に来た人間だ。止めてくれる人間の出現に安堵した。これで、俺がやり過ぎても止めてくれる。


 天笠は腕をブラブラさせる行為を止めて、蓮村に声を掛けた。

「俺のことなら、ご心配なく。まだ決着が付いてないんで」


 亜門の眉が、怒りで吊り上がった。天笠は微笑を心掛けて「こうですよね」と言葉を口にした。

 大気中に流れる力を意思して、外れた腕に集中させた。腕が、見えない力に支えられるように上がって行った。


 極限まで上がりきったところで、更に引っ張って、腕を伸ばして、念動力で外れた肩を入れた。

 外れた肩を無理やり上げて入れる行為も、激痛が走る。だが、痛みを消しているので、何も感じなかった。


 念動力を使えるような気がしたら、使えた。なんとなく理解した。

 仙人の力と源と超能力は、同義だ。自然に発生した超能力を体系化し、修得していったのが仙術の始まりだろう。


 きっと、最初に不老不死になった仙人も、他の超能力者から超能力を浴びて学習して行ったに違いない。黄昏園には師匠はいないが、自習で仙術を学べる。他の超能力者の超能力を浴び続ければいい。


 念動力で肩を入れた天笠を見て、亜門に僅かだが、焦りの表情が見えた。

 優雅な態度を装って、天笠は言葉を掛けた。

「念動力は、使えないわけではなかったんだよ。ただ、久しく使ってなかったら、使う要領を忘れていた。思い出せば、ほら、この通り。外れた肩だって、入れられる」


「嘘だ。使える能力は一人に一つのはずだ。二つも、三つも、能力が使えるわけがない。人間の限界を超えて、発狂する」


 超能力者にも限界があるとは、知らなかった。

 もっとも、冥府の裁判官である秦広王をして、仙人は妖怪扱いと公言していたので、仙人は限界の幅が人間より、ずっと広いのかもしれない。


 学びすぎて覚え切れなくなったときは、秋風道人に対処法を訊こう。

 余裕のある態度を心がけ、ブラフを張った。

「限界は、確かにある。ただし、亜門が口にした限界は、亜門の限界であって、俺の限界ではない」


 仙人歩きで再びタックルに行くと見せかけて、(えり)(そで)を掴んだ。今度は投げ飛ばして、転倒を奪った。

 拳を振り上げて、打ち下ろした。念動力で拳を止められた。

 使えるようになった念動力で、亜門の念動力を相殺(そうさい)する。拳がゆっくりと、亜門の顔に届いた。


 再び拳を振り上げて、打ち下ろす、のろのろとした拳が当たった。

 殴り続けると、徐々に威力がついてきた。亜門の力より天笠の力が勝ってきた証拠だった。これで、勝てると確信した。


 急に亜門の力が消えた。拳の一撃に念動力の加速が乗った。念動力を解除して異常に加速した拳を止めようと思った。でも、止められなかった。

 鈍い音が二回した。最初の音は、天笠の拳によって亜門の頬骨(ほおぼね)が砕けた音。二回目にした音は、天笠の頚椎(けいつい)が外れた音だった。


 天笠の顔が後ろ向きになり、体は前のめりに倒れた。

 亜門は、天笠の拳に念動力を掛けて停止させる選択を、中止した。代わりに、天笠の頚椎にのみ力を集中させ、局所的に念動力を発動させた。


 亜門は念動力で強化された一撃を顔に受ける代わりに、天笠が念動力を消すタイミングで、天笠の頭を捻った。天笠が手加減を加えると見越しての駆け引きだった。


 亜門が立ち上がって、首の曲がった天笠を見下ろして言い放った。

「お前とは、覚悟が違うんだよ」


 天笠は半透明な魂だけの状態になり、亜門の横で天笠の体を見下ろしていた。おかしな物を喰って死んだ次に、高校生と喧嘩して死ぬとは予想しなかった。なんともつまらない、死に方だ。


 ただ、仙人になったので、体の蘇生(そせい)方法はわかった。魂状態から、肉体に戻った。念動力で上半身を起こした。

 次に首に意識を集中して、元の位置にゆっくりと回して、腕の脱臼を戻した要領で、頚椎の脱臼を戻した。


 負傷箇所に意識を集中させると、体が瞬時に細胞レベルで修復されていく状況を、悟った。仙人体質って便利だなと感心した。


 傷の治癒(ちゆ)が終わると、そのまま立ち上がった。

「首を曲げたくらいで、何を勝った気でいるんですか。まだ勝負は付いていませんよ」


 亜門が(ひる)んだ。

 天笠としては、ここら辺で引いてもいい。だが、このまま無条件に引くと、亜門がまた絡んでくるかもしれない。


 そこで、少々痛い目を見てもらおうと決めた。それに、いざとなれば蓮村が止めてくれるだろう。

 局所念動力を、亜門の肩に掛けた。亜門の肩が外れる音がした。やりすぎかもと思ったが、亜門が肩を押さえたところで、もう片方の腕も外した。


「あとは首を外せば、ポイント的には五分ですね。覚悟が、おありなんでしょう。さあ、とことん、やりましょう」


 予想した通りに、蓮村が「そこまでにしてくれないか」と割って入ってきた。

「勝負はあった。亜門の負けだ。亜門を許してやってくれないか」


 ここら辺が頃合いだろう。だが、勝利を認めさせるために、渋ってみせた、

「こっちは首を外された分が、まだ残っているんですがね」

「格付けなら、済んだ。亜門は、もう、あんたに(かな)わない」


 蓮村の言い方は丁寧だったが、「これ以上やるなら、俺も相手になる」との雰囲気が蓮村にはあった。

 蓮村の能力は不明。亜門と蓮村を相手にしても勝てるだろうが、やりすぎると、引っ込みがつかなくなる。別に、黄昏園に喧嘩を売りに来たわけではない。


「いいでしょう。クロワッサンと首の分は貸しにしておきますよ。あと、机は元に戻しておいてくださいよ。やった人物は、亜門くんですから」

 勝ち誇った態度で、堂々と教室を出て行った


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