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第三章 つまらない死に方(三)

 四日目に教室でクロワッサンを食べていると、見慣れない顔の男子生徒が近づいて来た。

 男子生徒の年齢は十七歳。坊主頭で険しい目付きをしていた。眉と髪は茶褐色に染められていた。


 身長は百六十㎝。丈の短い綿のパンツに髑髏(どくろ)がプリントされたシャツを着ていた。シャツのボタンは上から二つほど外れて、だらしなく着崩されていた。


 気が付けば、他の生徒は、教室の外に退避していた。明らかに、一波乱が起きる雰囲気だった。

 教室の外で「激動の亜門だよ」の声が聞こえたので、見慣れない男子生徒に「激動の」の通り名がなんでついたか知らないが、おそらく超能力が関係しているのだろう。


 亜門が睨みつける視線を向け、険しい口調で話し掛けてきた。

「お前、スパイだろう」


 なんのことか、さっぱりわからなかった。昼食を続けながら答えた。

「別に不可能なミッションをやろうとしている人間ではない。それに、二枚目にも見えないだろう。勘違いだろう。俺はスパイではない。単なる一生徒だよ」


 手にしていたクロワッサンが吹き飛んで窓の外に落ちた。亜門はポケットに手を入れたままなにもしていない。念動力だ。超能力の王道を行く能力。

 クロワッサンを飛ばす程度なら問題はないが、得意気に披露してくるのだから、人間の一人や二人は、軽く動かせるのだろう。


 亜門が教室の中を見渡すと、椅子と机が独りでに動いた。机や椅子が壁際に移動して、空間ができた。

 天笠は立ち上がると、亜門の顔に一撃を入れようとした。

 思ったとおり、拳が空中で透明な腕に掴まれたように静止した。いくら力を入れようとも、動かなかった。


 亜門が余裕の篭った憎たらしい顔で「届かねえよ」と口にした。

 体が後ろに引っ張られて、机が固まっている場所まで飛ばされた。痛みが体を襲ってきたので、すぐに痛みを消した。


 机の中から這い出た。亜門が薄ら笑いを浮かべて上から目線で発言した。

「残念だが、お前は俺に指一本たりとも触れられない」


 亜門までの距離は、五m。タックルに行く姿勢を採った。普通にタックルをしても、途中で念動力によって止められる。なので、天笠は仙人の歩き方をした。


 踏み出すだけで、亜門の前に移動した。そのままタックルを決めて馬乗りになると、両手を使い、全力で亜門の首を絞めに行った。


 亜門の首に、指が食い込む。だが、二秒で、亜門の首から両手が念動力によって引き離された。

 亜門の念動力に抗って、どうにか首を絞めようと努力する。だが、両手は後ろに引っ張られていた。


 亜門の視線に力が入ると、体ごと、また、机の中に飛ばされた。

 再び立ち上がると、腕が左右に引っ張られた。腕に強い力が纏わりつくのを感じた。


 亜門が立ち上がると、求めてもいない説明をした。

「お前の能力は、高速移動か。残念だが、高速移動くらいでは、俺の敵ではない」


 全くの大はずれの解説だった。五mの距離を〇・一秒で移動したと仮定する。秒速にすれば五十m、時速換算だと、百八十㎞になる。

 天笠の体重は約六十㎏。質量六十㎏の物体が時速百八十㎞飛んで来て衝突すれば、後ろに倒れるくらいで済むわけがない。


 仙人歩きの本質は高速移動ではなく、空間を歪めて移動するワープ移動に近い。ただ、SFのワープと違い、移動時に姿が見えるので、瞬間移動と思えないだけだ。


 とはいえ、両手が封じられている現状は、あまりよくない。無理に動かそうとすると、どうにか動きそうな気がした。腕を強引に前に出そうと頑張ると、亜門が「肩が抜けるぜ」と忠告してきた。

 おそらく本当だろうが、何もしないよりはいい。腕も前に出そうとすると、左右に引っ張る力が、急に強くなった。


 両肩から嫌な音がした。亜門が力を掛けて、肩を外した。両肩を外されたので、本来なら、のたうつほどに痛い。でも、痛みを消しているので、問題なかった。


 腕に掛かっていた力が消えた。上半身を捻ると、腕が宙を、ぷらぷらと泳いだ。ちょっと、楽しい光景だったので、少しの間、上半身を捻って遊んだ。

「これで、お前の勝ち目は消えたぜ」


 勝利宣言だが、声には僅かに、動揺の色があった。

 状況は理解している。痛みの声すら上げずに、両腕を遊ぶように動かしている天笠を見て、気味が悪く思っているのだろう。


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