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第三章 つまらない死に方(二)

 翌日、A棟と呼ばれる黒いドームに向かって歩いて行った。

 登校する中学生くらいの子供が三人いた。向こうも見慣れない顔に興味があるのか、天竺を気にしていた。けれども、話し掛けては来なかった。


 A棟の中に入った。職員室へは案内版が出ていたので、案内版を見ながら移動する。

 職員室は広くなかった。部屋の中には、事務机が六つあるだけ。六つある事務机の内、三つは空き机になっていた。


 残りの机の内、三つは使われていたが、二つに人影がなかった。最後に残った一つには大波が座っていた。

「大波さん、黄昏園で先生をやっていたんですか、色々と芸があるんですね」


「多芸でないと行きづらい時代よ。教師ではないわ。ただ、料理を習いたい人がいる時に教えに来ているだけ。常勤の教師は二人いたけど、現在は病気休職中よ。生徒が生徒だから、教師も大変なのよ。誰にでも勤まる職場ではないし」


 自由な学校みたいな場所との説明だったが、違った。教師がいないので、学校以前の段階だった。

 国のお墨付きだと、大波が太鼓判を押していた。だが、来て見れば、「予算が付いたから作りました」の役人臭を感じるのは、気のせいだろか。


 当然の疑問を投げ掛けた。

「先生がいないのなら、授業は、どうするんですか」


「自習して学ぶか、学びたい内容を、本館にある学生課に申請して、授業をできる人を探して来てもらうのよ。とはいっても、黄昏園に来られる人は限られているから、人選は苦労しているらしいわね。黄昏園としても、授業形式にしたいけど、教師がいないから、授業が成立しないのよ」


 もっと、凄い科学的な施設で超能力者を育てるきちんとしたカリキュラムがあって、能力を高めていける場所かと期待していた。

 内情を知ったら、拍子抜けだった。本当にこんな場所で仙人の修行なんて、できるんだろうか。


 天笠の疑念を他所(よそ)に、大波が説明を続けた。

「決められた時間、園内にいればいいから。あと、組織上層部からの呼び出しには応じてくれれば問題ないわ。呼び出しがない時は、好きにしていいわよ。なにか教わりたい内容があるんなら、学生課に連絡して調整してもらうといいわ。もっとも、人が来る予定は、いつになるかわからないけど」


 学校の見取り図を携帯にダウンロードさせられて、後は「ご自由に」となった。

 職員室を出たが、どこで何していいか、全くわからなかった。学校に来て、なにしていいかわからない状態になるとは、予想していなかった。ぶらぶらと施設内を歩いた。


 すれ違う人間は、皆どれも子供ばかり、二十二歳以下が通う施設なので、当たり前といえば、当たり前。

 教室があったので覗いてみた。だが、カード・ゲームや携帯ゲームをする子供がいるだけ。時間割りもなければ、授業が始まる形跡もなかった。


 一クラス二十五人分の机が広く間隔を空けて置いてあった。部屋としては、二クラスがあるが、片方が六人で片方が五人。


 図書室を覗くと、ヘッドホンをして、問題集を黙々とやる生徒が二人いた。DVDコーナーにも二人いた。一人は昔の映画を見て、もう一人はアニメの動画を見ていた。


 園内を見て歩くが、全く授業の気配がなかった。園内にあるグラウンドに行っても、誰もいなかった。

 ただ、芝生に敷物を敷いて寝ている人間が二人いた。施設は学校の体をなしていなかった。天笠が行っていた小学校とも中学校とも高校とも違う空間があった。


「これはこれで、きついな。毎日、ここに通っていたら、頭がおかしくなりそうな施設な気がする。これは、気のせいだろうか」


 呼び出しに備えるが、全く呼ばれずに、午後三時の下校時間になる。

 早めに出口に待機して、何人が出て行くか、数えた。二時間の合計で二十人の人間が出口から出て行った。


 構内に残っている人間は、まだいるだろうが、施設の規模の割に少ない気がした。

 園内に戻った。クラブ活動が行われている形跡はなかった。職員室以外は消灯されており、残っている生徒の気配はしなかった。


 三日間に亘って登校して登校している人間と下校している人間を数えたが、やはり、二十人前後で、顔ぶれは変わらない。荒れた学校ではないが、死んだ学校に見えた。


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