7話目
「はぁ~食った食った。もう食えないね」
「ガ~ゥ~」
ウォードとクロは冒険者ギルドの酒場にてギルマスのツケで食い散らかした後、採取してきた薬草を納品していた。
「はいこれがウォードくんの採取してきた薬草の報酬ね。150本持ってきてくれたから合計で銅貨50枚になります。鑑定の職員が褒めてたわよ? キレイに根っこまで採取してきてくれたから報酬を上乗せしてあげてくれって。それと今朝の魔物の納品だけど、合計で銀貨○枚と銅貨○枚になったわ。そこからギルドカードの代金を引かせてもらったわね。全部ギルドカードに入れておくけどいいかな?」
「おぉやった! 採取にはちょっと自信があるんだ! ばーちゃん仕込みの採取術だからね。だけど西の平原に生えてる薬草ってなんか魔力量が少なくない?」
「え? 薬草の魔力量? どういう事?」
「ん~言葉で説明するのは難しいな。西の平原で採った物と俺が持ってる物で回復ポーションを作ると回復量の違いが出る? 西の平原の薬草だと回復量が少ないかな?」
「......それって本当なの?」
「う~ん。回復ポーションに調合して確認した訳じゃないから確実じゃないけど多分あってると思うよ?」
「それが本当なら大変な事よ!? ここ自由都市ローレルではあそこで採取される薬草に頼っているのよ?! 確認の為にウォードくんの持っている薬草を1つ譲ってくれないかしら? ちゃんと報酬は出すから!」
「別にいいよ? 1本くらいどーってことないから。それで作った回復ポーションもあるけどいる?」
「回復ポーションも持ってるのね!是非お願い!」
魔法鞄から魔の森で採取した薬草とそれで調合した回復ポーションをミミルに渡すとまじまじと観察しだした。
「う~ん......見た目じゃ普通の薬草ね......」
「あはは。そりゃそうだよ! だけど魔力がわかる人が見たらすぐに違いがわかると思うよ?」
「わかったわ! すぐに鑑定してギルドマスターに報告しなくちゃ!」
ミミルは焦るようにぱたぱたと奥の部屋に行ってしまった。
さてと。俺はこれからどうしよっかな~。観光でもしようかな? 味めぐり? いやいや、さっき食い過ぎた位だからそれはまた今度にしてやっぱり観光だな!!
「よし!クロ行くぞ!」
「ガゥ!」
クロと共に街の観光をするべく冒険者ギルドを後にした。
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「話は大体ミミルから聞いたわ。結果はどうなの?」
ギルドマスターが鑑定人であるフェスじいさんに詰め寄るように質問していた。
「おぉギルマスか、ちょうど結果が出たぞ。そのウォード君の言った通りじゃな。西の平原に生えている薬草よりもウォード君の持っていた薬草の方がかなり純度が高い。回復ポーションもより上質な物だ。この薬草はどこで採取された物なんじゃろうな?」
ギルドマスターと一緒に鑑定施設に入ってきたミミルへ視線をずらしながら聞く。
「あっ......すいません。そこまで聞くの忘れてました」
「まぁウォード君に聞けばわかる事じゃ。だがなこれはまだ公にはできんぞ? いきなり公になんてしたら民衆がパニックになってしまうからの」
「ええ、わかっているわ。ミミル、あの子は今どこにいるの?」
「えっと確か街を見て回るって言っていたので観光でもしてるんじゃないでしょうか?」
「はぁ、あの子はほんとにマイペースねぇ。すぐに連れ戻してきなさい!」
「は、はい!!」
そんな大事になってるとは知らずのウォードはというと。
「この串焼きうんめぇ!!」
「ガゥ!」
結局食い倒れ観光をしていた。
先ほど嫌という程食べたが美味しそうな匂いには勝てなかったようだ。
「さてっと次はどこに行こうかな~?」
キョロキョロと田舎物丸出しで辺りを見回すとウォードよりも小さな女の子がやっている露店を見つけた。屋台などは無く、地面にカゴを直接置きそのカゴの中にはいろんな種類の花が色とりどり置かれそれを花束にして売っているようだった。
「へぇいっぱい種類があるんだね」
「いらっしゃい!お兄ちゃん!すぐに花束にするから何か買っていってよ!」
店番の女の子はメリルという名前らしい。
拙いながらもウォードにおすすめの花を色々と教えてくれた。
「メリルは小さいのに店番をして偉いね。俺じゃ絶対無理だよ。1人じゃ眠くなっちゃうかも」
「あはは!寝てたら店番ができないよ」
元気に笑顔を見せてくれると自然とウォードも笑顔になる。
「じゃぁひとつ花束を作ってくれるかい?」
お世話になってるエリアルに買っていってあげよう!
「まいどあり~!」
2人であれやこれやと相談しつつ花束にする花を選んでいると3人の衛兵が近づいてきた。
「おい! ここでの販売許可書は持っているのか!」
メリルに対しいきなり高圧的に問いただしてきた。
販売許可書ってなんだ? 露店で物を売るのは自由じゃないのかな?
「っえ......いやあの......」
メリルはしどろもどろになり下を向いてしまった。どうやら販売許可書を持っていないようだ。
「はっきりしないガキだな!どうせこんな雑草を並べたって買うやつなんかいねぇだろうが!」
ゲシッ
衛兵の1人が花の入ったカゴを蹴飛ばして花がばらばらに散ってしまった。
「おい!なにするんだ!蹴ることはないだろ!!」
ウォードはメリルを後ろに下がらせながら衛兵と対峙する。メリルは震えながら泣いているようだった。
こんなにキレイな花なのに雑草扱いして蹴るなんて!しかもさっきまであんなに笑顔だったメリルを泣かしやがって!ふざけんな!
「なんだ貴様は! 衛兵に逆らうのか!!」
「衛兵がどれほど偉いかなんて知るか! 衛兵って奴はふざけた態度の大馬鹿野郎って意味なのはよーくわかったけどね!」
「なんだとっ!!」
すぐに周りに人だかりができ野次馬達が騒ぎ出した。
「ボウズ!よく言った!」
「あの女の子かわいそぉ」
「やれやれー!」
「衛兵なんてクソ喰らえだ!」
「......可憐だ」
1人変なロリコンが混ざっているが観衆はウォードの味方のようだ。
「もう許さん!牢屋にぶち込んでやる!!」
「やれるもんならやってみろ!大馬鹿野郎!」
「一度ならず二度までも! おい! 囲んで抑えろ!」
衛兵は持っていた槍を構えると3人でウォードとメリルを囲いだすように動いた。
俺は余裕だけどメリルが狙われちゃうな。魔法を使うと周りに被害が出ちゃうし。うーん。どうするか?
「なにをやってる!!」
「へっ??」
観衆に中から鎧を身につけた男の人が出てきた。
「たっ......隊長!」
隊長?衛兵の隊長なのかな?
「なんだこの騒ぎは!説明しろ!」
「はっ!」
衛兵は直立不動で敬礼し今回の件を説明しだした。
「この子供が許可なく花を販売していたので、撤去を命じると撤去勧告を無視し反抗的態度の為捕縛するところであります!」
隊長は説明を聞きこちらに確認を求めてきた。
「今の話は本当かね?」
「いや違うね! 許可書は持ってなかったのは本当だけど、こんな小さな女の子に対して高圧的な態度で接し、さらに売り物の花を蹴っ飛ばしてダメにしたんだ!怒るのは当然でしょ!」
「ふむ、こちらにも非があるようだな。非礼を詫びよう。しかし、許可書が無くては販売を許可するわけにはいかんぞ?」
「それはそうなんだけど......メリルにも事情があるのかもしれないじゃん。事情を聞いてからでも遅くないよ」
「うむ。ではメリルといったな。事情を説明してくれるか?」
後ろで震えながら泣いているメリルを落ち着かせながらなぜ1人で露店を開いていたのか、許可書はどうしたのかを聞いてみる。
「ヒック......ヒック......」
「大丈夫だよメリル。この隊長さんはちゃんと話を聞いてくれるよ。ゆっくりでいいから説明してみて?」
「ヒック......うん......ここで露店をやっていたのは・・・シスターのためなの」
「シスター?」
メリルはゆっくりとだが説明してくれるが幼い子供の説明だと分かりづらい。
要約するとこうだ。
街外れに教会があり、そこのシスターは親が居ない子供達を集めて面倒を見ているらしい。だが子供も多くいつもお金に困っている。メリルは自分で育てた花を売り少しでもシスターの助けになればと思って露店を開いていたそうだ。
「事情は分かった。だがそれでも許可なく販売を許すわけにはいかない」
「許可ってどうすればいいの?」
「販売許可は商業ギルドに申請し、月に銀貨1枚払えば降りるだろう」
「月に銀貨1枚?!高いよ!それじゃ花をいくら売っても元が取れないじゃん!」
「だがこれは街のルールだ。ルールを曲げる事はできん」
「ルールはわかってるよ。でも売り上げの少ないお店はどうするのさ。銀貨1枚でも利益を出すのは大変な事だよ?」
「それはそうなのだがな。決まりは決まりだ」
くっそー。埒があかないな。
「まぁ今回は事情があったので不問にするが次はないぞ?露店を開くならばきちんと許可を取ってからにしなさい」
「ちぇ、メリルもそれでいいかい?」
さっぱり無口になってしまったメリルは涙を拭きながら頷いた。
隊長と衛兵は俺たちが片付けている姿を見届けると帰ろうとするがここでウォードが声をかけた。
「あぁ忘れてた。そこの衛兵さん。メリルの花を蹴っ飛ばした事を謝ってもらってなかったわ。ちゃんとメリルに謝れ」
「なっ!貴様!」
隊長も衛兵に対し睨みを効かせると衛兵は素直にメリルに謝った。
「お前達は1週間の便所掃除だ。守るべき民衆に高圧的な態度で接した罰としてな」
隊長は衛兵にそう伝えるとうなだれながら帰っていった。
「お兄ちゃんありがとう。助けてくれて」
「やっと笑顔に戻ったねメリル。よかった。でも花はどうしようか......そうだ俺が全部買うよ!あげたい人もいっぱいいるからね!」
「えっ!?このお花全部?買ってくれるの!?」
「そうだよ!」
ウォードは花をいくつかの花束にしてもらい魔法鞄へ仕舞うとメリルに銀貨1枚を手渡した。
「こんなにくれるの?」
「うん。メリルが一生懸命に育てた花なんだ。銀貨1枚なら安いもんだよ!」
「ありがとうお兄ちゃん!」
こうしてメリルと別れ自分も帰ろうとすると少し離れた場所からミミルが息を切らせながら走ってやってきた。
「はぁはぁ......ウォ......ウォードくん! はぁはぁやっと見つけた!」
「ミミルさん!? どうしたの? そんなに慌てて」
「ギルドマスターが......はぁはぁ薬草の......事で...」
「とりあえず落ち着いてよ。お水飲む?」
ウォードは魔法鞄から水を出すとミミルに手渡しゆっくり飲むように伝えた。
「ンクッンクッンクッ。はぁ~ありがとう!生き返ったわ!」
「それで? ギルマスがなんだって?」
「そう!例の薬草の件ですぐにウォードくんを連れて来いって言ってるの!一緒にギルドまで来て!」
あからさまに嫌そうな顔をするウォードに拝むように頼むと渋々着いて行く事になった。
冒険者ギルドに入ると夕方ということもあり酒場は大賑わいだったが、カウンターの奥の階段から3階に上がると1番奥の部屋の前でミミルがドアをノックした。
「ミミルです。ウォードくんを連れてきました」
「入りなさい」
ドアを開けて中に入ると正面にギルドマスターが座っていた。
「やっときたわね」
その一言を聞くとやる気のない顔のウォードはさらにやる気のない面倒くさい顔になった。
「なんかご用ですか?」
「まぁいいわ。あの薬草はどこで手に入れた物なの?」
「タダで教えろと?」
「望みはなに?」
「えぇーどうしよっかなー」
「冗談なんか聞いてられないわ。これは大変な事なのよ?」
「ウォードくん。私からもお願い! 街にとっては大変なことなの。冒険者ギルドでも西の平原で採取される薬草で回復ポーションを使っているのよ。いつから回復量が落ちたのかわからないけど今後も落ち続ければ怪我が治らないなんて事もありえるわ。だからウォードくんの持っていた薬草と西の平原で取れた薬草が何故こんなにも違うのか確認する必要があるの。お願い! みんなの為にも!」
ミミルが悲痛な面持ちでウォードに懇願する。
ギルマスも最初からちゃんと説明してくれればいいのに、なんで最初から高圧的なのかなぶつぶつ
「まぁそういう事ならしょうがないか。俺が持っていた薬草は魔の森で採取したものだよ」
「「魔の森!!」」
ギルドマスターとミミルは示し合わせたようにハモッて聞き返してきた。
「魔の森って大型魔獣が闊歩する危険な場所でしょ?!なんでそんな所で取れた薬草をウォードくんが持っているのよ!」
「う~ん。半分正解?」
「どういう事?!」
「俺、っていうか俺ら家族は魔の森の奥深くに住んでいたんだ」
「家族って?!」
「俺のフルネームはウォード・エンフィールド ウィリアム・エンフィールドとオリーブ・エンフィールドの孫なんだ」
「「!!!!!!!」」