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6話目

翌朝。


「あら?ウォード様?どちらに行かれるんですか?」


「おはようエリアル、朝ごはんも食べたから街に行こうと思ってね。エリアルも一緒に行く?」


「あぅ・・・申し訳ありません。行きたいのはやまやまなのですが、今日から学校が始まるのでそちらに行かなければいけないのです。」


 エリアルは貴族学校の休みを利用して母の病気を治そうと行動してたようだ。


「そっか。それならしょうがないね。じゃぁクロと一緒に行って来るよ」


「次のお休みには絶対にご一緒しますので!」


「そんなに気にしないでいいよ。じゃあ行って来まーす。」


「はい。行ってらっしゃいませ」




 貴族街を出てからメインストリートを目指して歩いていると、朝早くでも店の開店準備に働く人や露店のお店がいい匂いをさせていたりと人通りがだんだんと多くなって来た。


「まずは冒険者ギルドに行って登録をしなくちゃな~。」


ギルドカードを作れば身分証になるって聞いたからね。そういえば冒険者ギルドの場所ってどこなんだろ?しまったな、聞いてくれば良かった。


「ガゥガゥ!」


「ん?どうした?」


 メインストリートに出る前にクロが何かを見つけたようだ。


「ガゥ~。」


 クロが1つの露天の前で尻尾を千切れんばかりに振りまくってる。


「おいおい、さっきちゃんと朝飯は食って来ただろう......はぁ。こりゃ一歩も動かないな......しょうがないなぁ...おじさん!2個ちょうだい」


「あいよ!あつあつを出すからちょっとまってくれよ~!」


作っている所を見ると、薄い生地に野菜と鶏肉に似たような肉にタレを絡ませて挟んでいる。


「はいよ!おまち!!」


「おぉうまそう!!ほら熱いから気をつけて食べろよ。」


「ガゥガゥ」


クロに食べさせながら俺も一口食べてみるとジューシーな肉汁がタレと絡まって野菜の甘みと混ざり合いすごく美味しかった。


「これすごく美味しいね!なっクロ!」


「ガゥ~!」


「おっ!嬉しいこと言ってくれるね!このタレの味にはちょっと自信があってな!」


 おじさんは嬉しそうにニコニコ笑いながら教えてくれた。


「そうだ。ちょっと道を教えてくれない?冒険者ギルドに行きたいんだけどどうやっていけばいいの?」


「冒険者ギルド?それならこの道をまっすぐ行くとメインストリートに出るからそこを左に曲がって少し行った所に大きい建物が見えたらそこが冒険者ギルドだ」


「おっ結構近いんだね。ありがとう!」


「おう!また来てくれよな!」


 愛想のいいおじさんだったなぁ。すごく美味しかったし今度エリアルも連れてきてあげよう!


 露天のおじさんが教えてくれた道順でしばらく歩いていると、この辺では珍しいほどの大きい建物が建っており、看板には剣と盾と杖が描かれ冒険者ギルドと書いてあった。


 ここが冒険者ギルドかぁ。朝早いけど人の出入りが結構頻繁にあるんだなぁ。



 扉を開け中に入ると手前に長いカウンターと奥には酒場のような施設があり、この時間でもお酒を飲んでいる人たちがガヤガヤとしていた。


手前のカウンターでいいのかな?聞いてみよう。


「あの〜すいません」


「はい、冒険者ギルドへようこそ。ご依頼でしょうか?」


おぉ頭に長い耳が生えてる!兎獣人の人かな?


「いや、冒険者登録をしたいんだけどどうしたらいいの?」


「えっ!?冒険者登録!?失礼ですがおいくつですか?」


「俺?10歳」


「10歳ならば登録は可能ですが、冒険者は危険な仕事ですのでやめておいた方が・・・」


「あぁ大丈夫だよ!俺、鍛えてるからね!」


兎獣人のお姉さんは困った顔をしているがそれもそうだろう。ウォードの見た目はまだまだ子供なのだ。心配するのは当然である。


「おいおい!坊ちゃんよぉ~。ここは遊ぶ場所じゃねぇんだよ!!さっさとお家へ帰りな!ミミルさんが困ってるだろぉが!!」


 先ほどまで酒場で飲んでいた冒険者の1人がこちらにやって来て絡んで来た。

ウォードはこの受付のお姉さんはミミルさんっていうのかと的外れな事を考えていた。


「別に遊びで冒険者になろうとは思ってないよ?面白そぉとは思ったけどね?」


「あんだと生意気なガキだな!痛い目見る前にさっさと帰りな!」


「ちょ、ダイルさん!相手は子供なんですから!!」


 ミミルが止めようとした瞬間、ミミルの後ろからもの凄い殺気を感じ同時に声が聞こえて来た。その殺気はウォードとクロが身構えてしまうほどに強かった。


「騒々しいわね。何を騒いでいるの?」


「ま、マスター!」


マスター?この人がギルドマスターなのかな?やばい程の殺気だったからつい臨戦態勢取っちゃったよ。


 クロの頭を撫でながら落ち着けと声をかける。だんだんと普段通りになってきたけど、尻尾はまだぴーんってなってる。


「ミミル、説明しなさい」


「は、はい!こちらの子が冒険者登録をしたいといらっしゃったのですが年齢を確認したところまだ10歳との事だったので冒険者は危険もあるからと断ろうとしたんですが大丈夫と。そこで私が困っているのを見てタイルさんが・・・」


「あぁもういいわ。大体わかったから。タイル、ミミルも聞いときなさい。この子はあなた達が思っているような子供じゃないわよ。相手の力量もわからないようじゃまだまだね」


「えっ?このガキが!?」


「うそっ!?」


「まったく。だから万年Cランクなのよ。この子供は貴方じゃ敵わないって言っているの。ミミル、この子を登録してあげなさい。それと今回の責任を取って今後は貴方が担当するのよ」


「で、でも!私は担当を持つのは・・・」


「これは命令よ。いいわね?」


「・・・わかりました」


「それからそこの子?」


「はぁ~さっきからみんなしてガキガキって俺にはウォードって名前がちゃんとあるんだけどね!」


「ふふふ。私の殺気に身構える子はまだまだ子供よ」


 むっとしつつも身構えたのは事実なので言い返すこともできない。


さっきはちょっとビックリしただけだもんね。殺気なだけに・・・ごめんなさい。


「グランツから君の事は聞いているわ。ここは生き死にがある現場よ。半端な気持ちでやっていたらどうなるかわかっているわね?」



そう言うとギルドマスターは笑いながら二階への階段を上がっていった。


 黒騎士団の団長の知り合いなのかな?どうりで・・・


この数日で強い人に2人も会っている事に戸惑いもあるが嬉しさのようなものの方が優っていると感じ、俺もじーちゃんの孫なんだなと実感していた。


「そ、それでは改めまして登録をします。私はミミルといいます。よろしくお願いしますね」


「はい!ウォードです。よろしくお願いします。」


「はじめに、ギルドカードを作るにあたって注意事項をいくつかご案内します。ギルドカードは発行に銀貨1枚が必要で紛失されますと銀貨3枚の再発行手数料がかかります。よろしいですか?」


「お金がかかるんだね。大丈夫だよ。」


「ではこちらのカードに血を一滴たらしてください」


ウォードは言われるがままに自分の人差し指に針を刺し血を一滴たらした。


「はい、次にカードを持ちながらこちらの水晶に触れてください」


これは城門のところで使った水晶よりも大きいな?違うものなのかな?


水晶に触れるとカードが光だし文字が刻まれた。


「これがウォード君のギルドカードになります。書いてあるのは本人の名前、ランク、ステータス、魔法スキル、加護が自動で反映されます。そちらの従魔のステータスも反映されますのでご確認ください。それと見せたくない事はカードに触れながら考えるだけで隠せますのでご活用ください。さらにギルドカードはお金を保管できる機能も付いています。こちらも触れながら考えるだけで簡単に出し入れができるようになってます。」



「ふ~ん。すごいねー」


俺はばーちゃんが作ってくれた俺専用の魔法鞄マジックバックがあるからイマイチ凄さってのがわかんないなぁ。でもお金だけでも入れといたほうが便利かな?


「ギルドカードの記載に間違いはありませんか?」

 

どれどれ?ギルドカードを確認してみよう。



ウォード・エンフィールド


ギルドランク:G


種族:人間

体力:A

筋力:B

敏捷: A

物耐:A

魔耐:A

魔力:S


《魔法》

・火魔法

・水魔法

・風魔法

・土魔法

・光魔法

・闇魔法

・身体強化

・魔法強化

・耐性強化


《加護》

戦神の加護

魔神の加護


《従魔》

クロ

種族:フェンリル(幼体)

体力:A

筋力:A

敏捷:S

物耐:B

魔耐:B

魔力:C



 おぉ。ステータスが全部書いてある。名前とかは間違いないけど、ステータスの間違いってわからないよね?まぁいいか。これが凄いのか凄くないのかもわからないしな。


「どこか問題でもありますか?」


「うん。大丈夫だとおもうよ?」


「そうですか。では依頼クエストの説明に入らさせていただきますね。ウォード様の現在のギルドランクはGランクになります。これは冒険者ギルドに登録されるとGランクからのスタートになります。あそこの依頼クエストボードに張られているGランクの依頼クエストであれば受ける事が可能ですが、ご自身のランク以上の依頼クエストをお受けになる場合にはギルドマスターの承認が必要になりますのでご了承ください。通常はボードに張られている依頼クエストをこちらのカウンターで承認を受けてからクエストへ出発となります。依頼が完了した場合もこちらのカウンターにて完了報告をしていただき、依頼料のお支払いとなります。クエストにて魔物を討伐した場合はその魔物の討伐部位をもってきていただければ確認終了となります。そのほかにも依頼内容とは別の魔物の素材や討伐部位を持ってきていただければお隣の換金カウンターにてお支払いすることも可能です。お支払いは現金かカードへの振込みを選ぶことが可能ですが、ギルドカードへの振込みを推奨しております。不正を防ぐためですね。以上で依頼クエストについての説明を終わりますが何かご質問ありますか?」



 長い・・・なっげぇ~・・・覚えられないよ。ばーちゃんの授業でも覚えられないことがいっぱいあったのにこんなに一気に無理だよ。


「えっと・・・まず・・・」


「はい。どうぞご遠慮なさらずに聞いてください」


「じゃぁ、その敬語をやめてもらってもいい?」


「えっ?!」


「いやぁ敬語って俺が苦手だから、ミミルさんもそうしてくれるとありがたいかなぁって・・・」


「ふふふ、じゃあお言葉に甘えてそうしようかな?」


「うん!それがいいよ!それとクエストの事とかはわからなくなったら聞くから教えてくれるとありがたいかなぁ~」


「わかったわ、それならいつでも聞いてね。それじゃ銀貨1枚をお願いね」


「そっかえっと銀貨は持ってないからこれでもいい?」


ウォードはポケットから白銀貨をカウンターに乗せた。銀貨は持ってないがお釣りを貰えばいいと思ったからだ。


「ウォードくん?!これ白銀貨じゃない!こんな大金じゃお釣りも出せないわよ!ってすぐに仕舞って!!そんな大金を出すものじゃないわ!!」


「えー?だってこれしかお金持ってないし。困ったな~、そうだ!魔物の素材を買い取ってくれるって言ってたよね?それで払う事はできないかな?」


 そういえばマジックバックの中にいらない魔物がわんさかいるから換金してもらえたらありがたいなぁ。


「えぇもちろん!それとさっきのお金はギルドカードに入れといた方がいいわ!すぐに処理するわね。それで素材?討伐部位かな?ここに出して貰ってもいいかしら?」


「えっと・・・ここじゃいっぱいになっちゃうかな?」


「えっ?じゃあ隣の換金カウンターで出して貰える?」


「わかった。出すよ~?」


 ウォードはマジックバックから魔物の素材や討伐部位ではなく、魔物そのものを出していった。


 まずは~ゴブリンからかな。こいつって弱いくせにやたらと多いから回収するのが面倒なんだよね。えっと~1体、2体、3体、4体~・・・32体、33体。


「・・・ウォード君?なにやってるの?」


「えっ?出せって言うから出してるんだけど?」


「それマジックバックだったの?!」


「そうだけど?」


「ちょ...まって!!だめ!ちょっとこっちに来なさい!!」


 ミミルはウォードの腕を引っ張り換金カウンターから横に入った大きめの解体倉庫へ移動していった。


「ちょっとミミルさん?どうしたの?」


「はぁ~・・・ウォード君。あんな所でマジックバックなんて使っちゃだめよ!マジックバックはそれでなくても高級なんだから、それとさっきみたいに大金も出しちゃダメよ?誰から狙われるかわかったもんじゃないのよ?そりゃ高ランクの冒険者には必須アイテムだけど、あなたのような冒険者なりたての初心者がそんな物をあからさまに使っていたら狙われるのは必然よ!!」


「えぇ~?でもこれって俺専用だから取っても使えないよ?マジックバックってそういうもんじゃないの?」


「それでもよ!!」


 う~んわからん。

 取っても使えないものを犯罪までして取ろうとするかな?まぁもし?そんな人が来たら返り討ちにするけどね。


「う~ん・・・まぁいいか。ミミルさんがそう言うならそうしようかな」


「はぁ・・・わかってもらえたらいいのよ。それじゃあそのマジックバックに魔物がどれ位入ってるのか教えてもらえる?」


「えっと~・・・さっきゴブリンを30体くらい出したから・・・あとゴブリンが60体くらいと、オークが70体くらいと、ビッグボアが40体くらい?とりあえずこのくらいかな?」


まだまだ入ってるし地龍とか出したらまた怒られそうだからやめとこう。


「・・・そのマジックバックってどんだけの容量があるのよ・・・」


「あぁこれ?これはばーちゃんが作ってくれた特別性だから容量がいっぱいになった事はないかな?」


 ミミルは愕然としていた。今言った魔物の数が入るマジックバックでも金貨数百枚はくだらない値段だ。だがそれ以上入るとなるといくらになるのか想像もできない。


「ウォード君!いい?!そのことは一切他言無用とします!誰にも容量の事を言ってはダメよ!」


 鬼気迫るミミルの表情にうなずくしかなかった。そんな大変なものなのかな?ばーちゃんはそんな事ぜんぜん言ってなかったけど・・・


「とりあえず、今言った数を全部ここに出してもらえる?換金にも時間がかかるだろうし、その間にGランクの依頼でも受けてくれば終わってると思うわ」


「は~い」



 ミミルの指導どおりにGランクの依頼<薬草採取×10>を受け西の平原へ行くことにした。薬草ならマジックバックに入ってるのだが、西の平原へは行ったことがないため、これも経験と思い自分の足で向かった。



「まだお昼前だから、お昼過ぎには終わりそうだな!」


「がぅ!」


西の平原には薬草が生えており、クロと手分けして薬草を採取する。クロは鼻を使い薬草の場所を見つけ、それをウォードが丁寧に採取する。クロの鼻ならば広い平原でもすぐに薬草を見つける事ができるようだ。


2時間後


「よ~し!こんなもんでいいんじゃないかな?お腹も空いてきたし帰ろうか。」


ウォードが採取した薬草は全部で150本。常人が2時間で採取できるのは30本が限界だろう。


「がぅがぅ」


昼過ぎになり街へ帰ろうとクロに伝えたがこちらを観察するような気配を感じた。



「ねぇ本当にやるの?!」


「しっ!うるせぇぞ!バレちまうだろうが!」


「やめておいた方がいいって!こんな事がギルマスにバレたら!」


「うるせぇ!奴はミミルさんの前で俺様をコケにしやがったんだ!なーに、ちょっと痛めつけて教育してやるだけだ!そう!これは新人の教育なんだ!」


これでもダイルはCランク冒険者だ。普通の新人冒険者に遅れをとるような強さではない。普通の新人冒険者ならば・・・



「ガゥガゥ!」


「うん、わかってるよ。気配がダダ漏れ出しね」


ウォードは気がついていた。こんなだだっ広い平原で気配を隠す事なく姿だけ隠していればよからぬ連中だとすぐにわかる。


まったく。なにがしたいんだか・・・


「おーい。そこに居るのはわかってるから出てきなよ」


向こうから動かないのでこちらから声をかけてみる。


「ちっ!気づいてやがったか!俺様を覚えているな!Cランク冒険者のダイルだ!先輩冒険者として貴様に教育をしてやろうと来てやったんだ!ありがたく思え!!」


「あぁ万年Cランクのおじさんね」


「てめぇ!ふざけてやがるのか!俺様が直々に教育してやろうって言ってんだ!」



「あぁ・・・えっと?間に合ってるのでいいです?」


「ガゥ」


「てんめぇ!!頭来た!おい!魔法で奴の足を止めろ!」


「ちょっとダイル!本気で言ってるの!?」


「うるせぇ!いいからやれ!!」


「もうどうなったって知らないからね!」


女の人は魔道士なのかな?


演唱を始めると自身の周囲に魔方陣が形成され持っている杖に魔力が集中しだした。



・・・

・・・

・・・



演唱おっそ!!なにあれ?これで全力なのかな!?あぁ~あ魔力制御も不安定だから余計に魔力を使ってるし、集中しようとして目までつぶってるよ。この隙に攻撃されたらどうするんだろ?あっ、そっか。だからおじさんは女の人から離れないのかな?う~ん。こんな事やってちゃダメだな。こんな姿をばーちゃんに見られたら笑われながら怒られちゃうよ。


「あのぉ~・・・」


「お!ビビりやがったか?はっはっは!今更謝ってももう遅いんぞ!」


「いやぁそうじゃなくて、早くしてもらえない?俺もクロもお腹空いたから、早く帰ってお昼ごはん食べたいんだよね」


「ぬくくくっ!!どこまでも舐めやがって!!!かまわねぇ!やっちまえ!」


「いくわよ!ウィンドバインド!!」


風の拘束魔法ウィンドバインド。風の力を利用して相手を動けなくする魔法だ。


「おっ、やっときた。......なにこれ?これがウィンドバインド??えっ?えっ?あんなに演唱に時間かかったのにこれ?本気で言ってるの?」


「はぁっはっは!!これで動けないだろ!!今度は俺様の番だ!一撃必殺の鉄拳を食らいやがれ!!」


ウォードはため息が出ていた。真剣にやってこれだけの威力しか出ない魔法にも、全力で走って向かってくるであろう男にも。鍛錬を怠っている証拠である。


「はぁ、もういいかな」


ウォードは体を拘束している魔法を腕の力だけで破るとダイルの放った拳を指で止めた。


「なっ?!?!」


「なっ?!?!じゃないよまったく。こっちがびっくりだよ。なにこれ?ふざけてるの?本気を出してこれなの?そこの女の人も全力であの拘束魔法なの?」


「ぁ・・・ありえねぇ!!俺の一撃必殺の拳が指一本で止められるなんて!こいつバケモn...ぐふぅ。」


ひどいな、そっちから手を出して来たのにバケモノ扱いとか。このくらいグリムさんでもできるよ。・・・たぶん?


手刀1発でダイルを失神させ、一緒に居た女の人をひと睨みするとガクブルと尻餅をついた。


 「このおじさんが起きるまでに事情を知りたいんだけど、教えてくれる?」


 「は、はひっ!」


噛んだ。そんなに怖がらなくてもいいんだけどね。


「え、えーと、ダイルが今朝の事を気にして,,,」


「今朝の事って?ギルマスに怒られた事?」


「は、はい。そうです。それでミミルさんの前で恥をかかされたと思って、新人冒険者に鉄槌を食らわすんだって言ってこんな事に...」


「はぁ~、ギルマスが言っていた事がよくわかるわ。それで?返り討ちにあったけどこれからどうしたらいいと思う?」


「わ、私は関係ないのでこのまま帰らせてもらいたいかなぁ,,,なんて」


「そんな訳にはいかないでしょ」


「私はやめようって言ったんです!でもダイルが!!」


「それでも新人冒険者に魔法を使うってどうなの?俺じゃ無かったら魔法によっては大怪我してたよ?」


「で...でも・・・」


「うぅ...ん?なんだ?俺はどうしたんだ?」


「はぁ、やっと起きたよ。」


「ひっ!バケモn...ぶへぇ」


「言わせないよ?」


また気絶してしまった。


さらに数刻後。


「本当!すいませんでした!!」

「すいませんでした!!」


土下座。リアル土下座ってちょっと引くよね。


「まさかウォードさんが見た目とは裏腹にこんなにお強いなんて思ってもみなかったんで。」


軽くひどい事言ってね?


「はぁ...もう面倒くさくなってきた。お腹もすいたし。あとの事はギルドに帰ってから話すってことでいい?」


「そ・・・それだけはご勘弁を!!」


「問答無用」


「ゆるしてぇ~~~」




2人をロープで縛り上げ、泣き叫ぶ2人を引きずりながら街に入り、ギルドまでの道のりが市中引き回しの刑のようだった。


ギルドの中に入るとミミルが驚いてすぐに駆け寄ってきたが、事情を説明するとため息を出しながらギルドマスターへ報告をした。



「それは災難だったわね?」


ギルドマスターからウォードへの一言目がそれだった。


「ギルドマスター!!これはギルドメンバーの不祥事ですよ?!そんな一言で済ませないでください!!ウォード君はまだ10歳なんですよ?そんな子を狙った暴力などあってはならないんです!もしウォード君がこれで怪我でもしていたら由々しき事態です!」


「そうねぇ、でも逆に返り討ちじゃない」


「え~ん、ミミルさん・・・こわかったよ~」


「下手な演技はその辺にしなさいな」


「あぁ~・・・お昼ごはん食べそびれたなぁ~おなかすいたなぁ~クロもお腹すいたよなぁ~。」


「がぅ~~~。」


「はいはい、わかったわ。酒場で私のツケで好きなもの食べていいから行って来なさい」


「まじで?!やった!!おいクロ!なんでも好きなだけ食っていいってさ!いこうぜ!」


「あっ!待ちなさい!好きなだけなんて言ってないわよ・・・まったく...」


ギロッ


ミミルがギルドマスターを視線で制する。

自分の担当冒険者を危険にさらした事に対する反抗心だ。


「貴方もいい加減に睨むのをおよしなさいな。ダイル達の処分は1ヵ月の無料奉仕に決まったでしょ?あの子もそれで納得したんだからいいじゃない」


「あの子じゃありません!ウォードくんです!」


例え処分が決まったからと言って今後同じような事がないとは言い切れないため、ミミルはギルドマスターに釘をさしておきたいのだ。


「ふふふ。やっと貴方の心のつっかえが取れてきたみたいね」


「えっ...それはウォードくんがまだ新人だからで・・・」


「新人とかは関係ないわよあの子はまだまだ世間を知らない。しっかりと面倒を見てあげなさい」


「はい、、、」




その頃ウォードとクロはというと。



「おじさん!!これのおかわり!」


「がう!」


「クロもか?今のおかわり2つにして!!」



酒場にて大食い選手権かの如くギルドマスターのツケで食い散らかしていた。


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