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5話目

翌日。


薬を奥方様に作って飲んで貰い、経過観察の為しばらくの間泊めてもらう事にした。経過は良好のようで、起き上がれるほど回復していた。でも広すぎる部屋がどうも落ち着かない。


「奥方様。元気になりそうでよかったなぁ~。」


「がぅわぅ」


俺はクロと一緒に庭でひなたぼっこをしていた。クロと一緒に観光でもしてきてもいいかなとは思ったんだけど、ここ自由都市ローレルはかなり広い。一度外に出たら帰ってこれる自信がないしなぁ。



ガキィン


キィン


ヒカキィン



なんだろう?剣を打ち合う音?


「そんなんだから盗賊なんぞに後れを取るんだ!気合を入れんかぁ!!」


おぉ黒騎士の人たちが鍛錬してる。いいなぁ。楽しそうだなぁ。


「うん?ウォード君じゃないか。そんな所でどうしたんだい?」


こちらに気がついたグリムさんが汗を拭きながらこちらに声をかけてくれた。


「やぁグリムさん。剣を打ち合う音が気になって見に来たんだ。みんなで鍛錬してるの?」


「ああ、そうだよ。我々は騎士団だからね。常に鍛錬を怠らないようにしているんだ。そうだ! 団長に紹介するよ! 君の事を話したら会ってみたいって言っていたからね」


そう言うと先ほど鍛錬を指導していた男の人に話しかけている。あの人が団長さんなのかな?上半身は鎧をつけていないからよく分かるけどすごい鍛えられた体つきをしている。年齢は40歳くらいかな?

あっ。こっちくる。



「やぁ君が噂のウォード君か、はじめまして。私は黒騎士団の団長を任されているグランツ・ハイルだ。よろしく」


「はじめまして、ウォードです。俺の噂?」


「ふむ、君が昨日黒騎士団でも苦戦した盗賊を一瞬で倒したと聞いてね?」


「あぁ、あの盗賊? だってあれは相手の策略で騎士さん達を毒を使って動けなくしてたから不覚を取っただけでしょ? 俺は毒をやられなかったから動けただけだよ」


まぁそれでも俺には毒は効かないけどね。ばーちゃんから地獄の毒耐性修練を受けてるてるし。何回死にかけたかわからないけど・・・


「謙遜だな、グリムから話を聞いた限りでは班長クラスのグリムでも目で追うことができない速さだったとな」



団長さんは俺の事を観察しているようだったが決心したようにうなづいた。


「よし! ウォード君! ひとつ私と腕試しをしないか?」


「腕試し?」


「そう、使うのはこの木剣だ。どちらかがまいったと言うまでが勝負。どうだ?やってみないか?」



「なにそれ!おもしろそう!!やるやる!」


じーちゃん以外と勝負なんてはじめてだ! 見た感じグランツさんはかなり強い! おれの剣技がどこまで通じるのか試すいい機会だ!


「ちょ......団長!相手は10歳の子供ですよ?! 木剣とはいえ団長相手では敵うわけないじゃないですか?!」


「グリム・・・お前もまだまだだな。ウォード君をただの10歳の子供だと思ってる時点でお前に勝ち目はないぞ。この子は相当鍛えてる。俺が勝てるかどうか怪しいくらいにな」


「えっ?!」


グリムは驚愕した。団長はこの街でも3本の指に入るほどの強い武人だ。その団長ですら勝つことが危ういと言っているのだ。



「よし! ウォード君! はじめよう!」


「はい! よろしくおねがいします!」


「ルールは簡単だ。魔法なし。身体強化もなし。純粋に剣のみで戦う勝負だ。 勝敗はどちらかがまいったといった時点で決着とするいいかな?」


「わかりました!」


「よし! グリム! 合図を出せ!」


「わかりました......ではいきます。 ......はじめ!!」


ウォードは木剣を斜に構え相手の出方を観察している。グランツがどういう戦い方をするのか分からない以上、下手に前に出ては返り討ちにされる為だ。


一方グランツは正眼に構えジリジリとウォードとの距離を詰めようとしている。


「来ないのか? ならば、こちらから行かせてもらおう!!」


グランツは一気に間合いを詰め木剣を突き出すようにウォードの顔面めがけて突いた。


ウォードもそれを見切っており、首をひねる事もなく体重移動だけでなんなくかわすとその勢いを殺さないように横薙ぎに振ろうとする。が! グランツの木剣が顔の横をすり抜ける瞬間に軌道が変わり、突きから横薙ぎに変化しウォードの顔をさらに狙ってきた。


「やばっ!・・・」


ウォードは木剣の腹を使いグランツの攻撃を受けると、体格とパワーの差でそのまま吹き飛ばされてしまった。


「ウォード君!!」


グリムが心配そうな声をあげるが吹き飛ばされたウォードはそのまま立ち並ぶ木箱に突っ込んでしまった。


ドガシャーーン


「ほぅ、私の二の太刀を初見で破るとはなかなかすごい子だな」


「団長! やりすぎですよ! 相手は子供なんですから!!」


「馬鹿を言うな、ウォード君を子供と思って油断していたらこっちがやられてしまうわ」


「ちぇっ・・・油断してたらこっちから攻撃したのにな」


ウォードはグランツが隙を見せたらそのまま攻撃してやろうと木箱から様子を伺っていたのだ。


「ふっふっふ。まだやるかね?」


「もちろん! まだまいったって言ってないしね!」


「はっはっは! ではいくぞ!」


「今度はこっちの番だよ!」


ウォードは低い姿勢のままにグランツへ迫った。その勢いで足を狙って横薙ぎに振るうがグランツの剣に阻まれ足に当たることはなかった。


「なんの! これしきの攻撃ではやられんぞ!」


「まだまだこれからさっ!」


ウォードの剣を止めたが勢いは止まらず、低い姿勢のままさらに速度を上げグランツの死角に入る。


「うぉぉぉおおお!!」


ウォードはグランツの死角から飛び出し全体重を木剣に込めて振り下ろす。


「ぐぬ、ぬぅうん!」


グランツも下から振り上げるように木剣でウォードの攻撃を受け止める。


・・・が。


二つの木剣が重なり合うと同時に木剣が音を立てて砕けてしまった。


ガカガァーン


「引き分け・・・かな?」


「そのようだな・・・」


二人が会話を交わすと周りで見ていた黒騎士団面々が歓声をあげた。


「すっげ~戦いだった!!」

「俺早すぎて見えなかったよ!」

「木剣じゃなかったらどっちが勝っていたんだ?!」

「そりゃ団長に決まっているだろう!」

「いやいやウォード君のスピードも捨てたもんじゃないぞ!」


わいわい

がやがや



「ウォード君! 怪我はないかい?! 団長もやりすぎですよ!」


「あはは! 大丈夫だよ団長さんも手加減してくれてたんだから、怪我しても自分で治せるしね」


「いやぁウォード君の強さは本物だな。なんでもありの勝負ならおそらく負けていたのは私のほうだろうな」


「いやいや、じーちゃんも言ってました。経験に勝るものはないって。団長さんの強さはこんなもんじゃないと思うしね。」


ウォードとグランツは握手をしながら健闘を称えあった。


いやぁ~楽しかったなぁ~!やっぱり世の中は広いや!こんなに強い人がいるなんて思ってもいなかったよ。


「ウォードさま~?」


「あれ?お嬢様?どうしたの?」


「あっ! ウォード様! こちらにいらっしゃったのですね」


「うん。団長さんに手ほどきを受けてたんだ。どうしたの? なにか用事?」


「そうですわ! お母様がベッドから起き上がれるようになったのでご一緒に昼食はいかがでしょうかとおっしゃっておりまして」


「へぇ。もう起きられるようになったんだね。それはよかった! じゃぁお昼ごはんをご馳走になろうかな!」


「はい! ご案内しますわ!」




「ウォード君、10歳であの強さか。今後が楽しみでもあるが・・・危うい強さでもあるな」


「団長・・・?」


グランツはウォードを見ながらそう呟いた。今後の成長でどう変化するのか楽しみでもあり心配でもあるのだ。


「お母様! ウォード様をお連れしました」


「こんにちわ! 元気になったみたでよかったねですね」


「ちゃんとした挨拶もしませんで申し訳ありませんでした。私はカイゼル・エッジワースが妻、ミレーヌ・エッジワースと申します。さぁ、こちらにお座りくださいませ」


屋敷の一室。


簡単に挨拶をしながらテーブルに腰掛けた。奥方様の顔色を見る限り、経過は良好のようだ。旦那様に支えられながらもきちんと立って挨拶してくれた。


昼食はサンドイッチやコーンスープと軽食だったがおいしかった。俺のためにがっつりと食べられるようサンドイッチの中身は何種類用意されシャキシャキの野菜や肉系を挟んだものまであった。全部挟んだようなものまであったのですごく満足だ。


食後には紅茶を煎れてもらい、テラスでのんびりと会話をしながら楽しんだ。


「この度はなんとお礼を申したらよいか、本当にありがとうございました。しかも貴重な材料を薬に使って頂いたとの事。このお礼はどのようにしたらよいか想像もできません」


「いやいや、元気になったんならそれでいいですよ。材料はもともと持っていた物だし気にしないでください」


クロと一緒に魔の森で鍛錬してる時に集めてた物だから、鞄の中にまだまだ大量に持ってるんだよね。前にじーちゃんと一緒に地竜の巣を壊滅したときの素材が。俺にとって貴重でもなんでもないんだよなぁ。


「ウォード君には本当に助かった。エリアルを助けてもらい。さらに妻も助けてもらったのだ。本当にありがとう」


貴族であるカイゼル公爵が一般市民に頭を下げることはないが、命の恩人であるウォードに対して頭を下げることを厭わない。


「もう頭をあげてください、俺は偶々お嬢様を助けて、偶々奥方様を助けられただけです。こうしておいしいご飯も食べられたしお嬢様の元気な笑顔も見れて満足してますから。気にしないでください」


「欲がないのだな・・・だが今回のお礼としてこちらを用意させてもらった」


カイゼルが机の上に1枚のコインとカイゼル公爵家の紋章が入っているナイフを置いた。


「白銀貨とカイゼル家の剣証だ。」


「白銀貨?剣証?・・・えっと白銀貨ってなんです?あと剣証ってなに?」


「まぁ知らないのも無理はない、一般にはあまり流通しておらんからな。白銀貨は金貨100枚分の価値で、剣証はカイゼル家が後ろ盾になっているという事を示すものだ。貴族のしかも公爵家の後ろ盾など不要かとも思ったが、今後ウォード君の助けになるやもしれんと思ってな。なにかあったらこれを見せれば大抵の問題は解決できるだろう」


「金貨100枚分!?えっと?金貨が銀貨100枚だから?銀貨1万枚?!そんなにもらえないよ!」


「いや、むしろ少なくて申し訳ないくらいだ。公爵家と言っても湯水の如く金が使えるわけではないのでな、その代わりと言ってはなんだが我が公爵家の証を用意させてもらったのだ。ぜひ受け取ってれ」


「でも・・・」


「ウォードくん、お金は今後旅をしていれば必要な場面も出てくるでしょう。その時に後悔しない為にも持っておくべきです。剣証もそのひとつ。使わないに越した事はありませんがいざと言うときにお使いください」


ミレーヌが諭すようにやさしく答えてくれた。たしかにお金も剣証も持っていて損にはならない物だ。


「......わかりました。ありがたく頂戴します」


「受け取ってくれるか! そうか! よかった。これで断られたらどうやって礼をしたらよいか頭を悩ませるところだったわ!はっはっは」


「もう、あなた!はしたないですよ!」


「いやいや!すまんすまん。はっはっは」


「これで断られたらエリアルをお嫁にでも差し出すしかありませんしね。エリアルもまんざらでは無さそうですし」


「おぉ!それはいいな!どうだウォード君!エリアルと結婚してもらえんか!」


なっ!・・・おいおいこの夫婦はいきなり何を言い出してるんだよ!俺はまだ10歳だよ?結婚なんてまだまだ先の話でしょうが!


「ちょっと!!お父様!お母様!!いきなり何を言い出すんですか!ウォード様も困ってらっしゃるではありませんか!!」


「はっはっは!冗談だ。冗談!はっはっは」


「ふふふ......私は冗談じゃないですけどね・・・ボソッ」


なんか奥方様の目が怖いんですけど・・・ギラッって光ったような気がするんですけど・・・


「ま、、、まぁ冗談はさておき、ウォード君は今後どうするんだ?旅を続けるのか、この街に留まってやっていくのか」


「う~んまだ決めてはいないんだけど、しばらくはこの街でやって行こうと思ってるんだよね。冒険者にもなりたいし、この街にはまだまだ強そうな人がいるみたいだしね」


「そうか!ならばいつまでもこの家に住んでいてよいからな!ウォード君はこの家の恩人なのだ、放り出すことなど出来んよ!はっはっは。」


「そんな悪いですよ、お金も貰ったんだしどこか安めの宿でも探してみますよ」


こんなにお世話になってるんだ、これ以上迷惑をかけられないよね。


「そんなさびしい事をおっしゃらずに、ここを我が家だと思って使ってください。なんなら私の事はミレーヌおばさんと呼んでくださいませ」


「ならば私はカイゼルおじさんだな!」


「でしたら私の事は呼び捨てでエリアルと呼んでくださいませ!」


なにを言ってるんだこの家族は・・・


「そんなこと言えるわk・・・」


「ミレーヌお・ば・さ・ん!!」


「はい、ミレーヌおばさん!」


「よろしい」


まじこえぇー。あの目やべぇー。逆らったらなにされるかわからないよ。ばーちゃんと同じ目してたわーまじでやべぇー


「はっはっは!・・・ミレーヌには逆らわないほうが身のためだぞ・・・ボソッ」


「うん、気をつけるよ。カイゼルおじさん」


「あっ!ずるいですわ!わたしの事も呼んでくださいませ!」


「わかったよエリアル。これでいい?」


「はいっ!ふふふ」


こうして、自由都市ローレルでの

日常が始まった。

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