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2話目


さらに五年後。



「さてっと・・・いくか!」

「ガゥ!」


俺は10歳になった。

1週間前にじーちゃんとばーちゃんに別れを告げた。2人は文字通り笑顔で消えていった。


 じーちゃんからの遺言は旅に出て世界の広さを知りなさい。


 ばーちゃんからの遺言は旅に出て世界の楽しさを知りなさい。



 二人とも俺とは血が繋がってはいないけど大切な家族だと言ってくれた。もちろん俺もそう思っているしじーちゃんもばーちゃんも大好きだ。


 二人がいなくなってから数日は落ち込んだりもしたけど、身辺の整理を済ませ、二人の遺言どおり世界を旅しようと思う。


 冒険が俺を待っている!


「ガウゥ!!」


 あぁ1人じゃなかった!こいつは俺の友達。フェンリルの子供だ。子供といっても体は大型犬の3倍くらいで真っ黒い毛並みだからクロって名前にした。安直な名前だけど本人は(本犬?)気に入ってるみたいだから言わない。体の大きさは小さくなったりもできる。一度ばーちゃんに怒られてしょげてる時に小さくなることをマスターした。


 俺が6歳位の時に母フェンリルが森で倒れていた。母フェンリルは虫の息状態で俺に子供を託し死んでいった。じーちゃんは魔獣の子供を育てるのは難しい、生かしておいてもしょうがないって言っていたけど、俺が面倒を見ることを条件に育てることを許可してもらった。今では兄弟みたいな存在だ。



「よし!クロ!魔の森を抜けるまで超特急で頼むな!」


「ガゥ!」


 クロの背中に跨り、木々の間をすり抜け魔物もスルーして街道を目指す。この辺のテリトリーで俺とクロのコンビに敵う魔物は居ない。むしろ俺たちがボスみたいな?たまに襲ってくるけど返り討ちにしてご飯の材料になっている。



 数刻、魔の森を駆け抜け街道までもう少しという所で戦ってる気配に気がついた。


「ガゥガゥ!」


「うん。誰かが戦ってるみたいだけどどうしよう。魔物?じゃないな人同士で戦ってる。助けるか?どっちを?」


 困った。ばーちゃんから人には優しく、親切にしなさいって言われているけど、人同士で戦ってるときはどうしたらいいんだ?


 じーちゃんならどうする?・・・うん、じーちゃんはこういうときは両方倒せって絶対言うな。



だめだろ。



「とりあえず、両方が見える位置まで移動して様子を見よう」


「ガゥ」





「くっ!!!貴様ら、卑怯な・・・!」


「へっへっへ、俺たちゃ盗賊だぜ?卑怯もへったくれもね〜よ〜。そろそろ毒もまわってきた頃だろ?そのまま死んじまいな!」


「きゃぁ!嫌!!離して!!」


「こいつは金になりそうなお譲ちゃんだ!おい!さっさとそいつを始末しちまえ!」



 うん。絶対にこいつらが悪だわ。盗賊とか言ってたし。


黒い鎧の騎士さんも強そうだけど毒で動けなくなってるみたいだな。近くで黒い鎧の騎士さんが何人か倒れているけど生きてるかな?


「毒で苦しみながら死ぬ瞬間がおもしれ〜のにもったいね〜が兄貴の命令だ。しょうがねぇ。しねぇぇぇえええええ!」


盗賊は持っていたショートソードを目の前の黒騎士に振り下ろす。


瞬間!



「クロ!!」

「ガゥ!!」


クロが猛スピードで走りその勢いを利用して盗賊の顔にダイビングキック!


「ぶっへぉあ・・・」


盗賊はそのまま鼻血を拭きながら

吹っ飛び大岩にぶち当たった。



「ほっ。よかった。間に合った」


「えっ?・・・君は・・・?」


「その前に・・・ヒール、アンチポイズン」

手のひらから暖かい光を放ち、黒騎士の体から傷と毒を癒す。


「おぉ!助かった・・・!ありがとう!」


うん。だいじょうぶそうだね。


「動くんじゃねぇ!!このお嬢様が見えねぇのか!てめぇいきなり何者だ!!」


「おれ?俺の名前はウォードです!はじめまして!」


「名前をきいてるんじゃねぇ!いきなり現れやがって何様だって言ってるんだよ!」


「なんだよ、何者だって言うから答えたのに。なんか大変そ〜だなぁ〜って思って助けに入りました。10歳の普通の男の子です。」


「普通の男の子が盗賊の顔面を蹴ったりはしねぇんだよ!おっと!動くとこのお嬢様がどうなっても知らねぇぞ!」


「お嬢様!!」


黒騎士さんはお嬢様の護衛なのかな?さくっと助けて他の倒れてる騎士さんたちも回復させてあげないと。


「ねぇ騎士さん。こういう場合ってあの盗賊を殺したら罪になるのかな?」


「えっ、あぁ通常盗賊を殺しても罪にはならない。ちゃんと褒賞金も出る。だがお嬢様を人質に取られてしまっては動きようがない。くそっ!」


「そか。罪にならないならよかっ・・・た!!」


「なにをごちゃごちゃ言っ・・・」ドサッ


一瞬だった。盗賊は頭からナイフを突き立て絶命していた。



「もう大丈夫だよ!」

「えっ?!」


 俺は盗賊を倒したあとお嬢様が倒れないように支えた。図らずもお姫様抱っこの形で。女の子って良い匂いするんだね。恥ずかしいから言わないけど。


「お譲様!!お怪我はございませんか!!」


「私は大丈夫です。ですが・・・護衛の騎士の方々が・・・私の為に」


「みんなまだ息があるから大丈夫だよっと」


 俺は騎士を一箇所に集め一気に回復させた。

「エリアヒール!エリアアンチポイズン!」


自分を中心に直径3メートルくらいの光るサークルが生まれ、その中にいる全員を癒す事が出来る範囲魔法だ。



「これでもう大丈夫だよ。流れ出た血は戻らないけど安静にしてればすぐに良くなると思うよ」


「重ね重ね・・・本当に助けてくれてありがとう。君が居なかったら我々だけではなく、お嬢様も危なかった所だ。しかし、君は?」


「あの・・・もう一度お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


黒騎士とお譲様が俺に聞いてくる。かなり警戒されてる。困った。そりゃいきなり現れた奴に警戒してもおかしくないよな〜。


「えっと〜はじめまして!旅をしているウォードと言います!あっちでゴロゴロして遊んでるのはクロって言います!魔獣だけど友達です!」


「旅をしている!?さっきも言っていたが君は10歳なのだろう?1人でかい?それと魔獣と友達って?!君はテイマーなのか?」


「グリムさん!そんなに質問しては失礼ですよ。申し訳ありません。私はエリアル・エッジワースと申します。この度は助けていただきありがとうございました。」


「あぁ、申し訳ない!私はマシュー・グリム。お譲様の護衛をしている。今回は助けてくれてありがとう!」


「いえいえ、たまたま通りかかっただけだし気にしないでください。それよりも俺も聞いてもいいですか?」


「ん?なんだい?」


「グリムさんって結構強そうだけどなんで倒されてたの?」


「あぁ・・・不覚としか言いようがない。街道を進んでいると甘い匂いがしたと思ったら体の自由が利かなくなり、まともに動けなくなってしまったんだ」


「あ〜なるほどね。甘い匂いで体が動かないって言ったらインセクトモスの毒燐粉だね。それでみんなやられちゃったのか」


「ウォード様が助けに入ってくれなければどうなっていたか・・・本当にありがとうございました」


「ウォード様って俺に様はいらないよ///」


「そんなわけには行きません!そうだ!お礼もしたいですし、ぜひ屋敷においでください!お父様にもきちんと説明しなければいけませんし。そうしましょう!」


「お礼なんていらないよ・・・偶然通りかかっただけなんだし・・・」


屋敷とかお父様とか面倒そうだし

さっさと逃げようかな。



「お礼にご馳走もご用意させますから!!」

「ご馳走!?すぐ行きましょう!!」



 エリアルとグリムは、ご馳走と聞いて目を輝かせる男の子を見て、盗賊を倒した本人とは到底思えないと思いつつも屋敷へ招待できる事を喜んだ。




 馬車に倒れていた騎士達を運び入れ街道を進み街へと急いでいた。


「グリムさん。このまま進めば街があるんだよね?」


「あぁそうだよ。このまましばらく進むと自由都市ローレルだ。すごく大きくて活気がある街だよ」


「俺、街とか初めてだからすっごい楽しみだ!なっクロ!」


「ガゥ!」


「そういえばウォード様はどうして旅をしていらっしゃるんですか?」


「ん?あぁじーちゃんとばーちゃんの遺言でね。男は10歳になったら旅をしろって言われてさ。俺もいろいろ見てまわりたいから旅をしてるんだ!」


今日から旅をしているとは言えないな。



「冒険者とは違うんですか?」


「じーちゃんとばーちゃんは元冒険者だったみたいだけど俺はまだ登録してないんだ」


「冒険者ギルドがない所から来たのかい?ずいぶん田舎から出てきたんだな」


「もうグリムさん!失礼ですよ!街へ行けばギルドもありますからすぐに登録できますよ」


「ウォード君くらい強ければ問題ないだろう。街に着いたら冒険者ギルドに登録するといい」


 やったぁ冒険者だよ冒険者!



「ほら!街の城壁が見えてきましたわ!」


 街道のずっと向こう。あと数キロはあるだろう距離でも確認できるほどの大きさの城壁が見えてきた。


「でっか!!!」


近くで見ると余計にでかい。城門だけで高さ5メートルはあるだろう。開いてないけど。


「クスクス。ウォードさんそっちの城門はよほどの事がないと開きませんよ。あっちの列が中に入る一般門です。さぁ並びましょ」


 30分ほど並びやっと俺たちの番になった。結構入るのが面倒なんだな。欠伸をしながらそんな事考えていると


「普段はこんなに並ばなくてもすぐに入れるのだが、最近は物騒な話も聞くからね。警戒が厳重なんだよ」


あぁ盗賊に襲われたりするしなぁ。


「次の馬車!前へ!」


「さぁ私たちの番ですよ行きましょ」


「エリアル様、グリムさんおかえりなさい!一応身分証を確認させて頂いてもよろしいですか?」


「はい。これが私たちの身分証です」


「はい、たしかに・・・そちらの子は?」


 やべぇ。身分証?

 そんなの持ってないよ。


「すいません。俺身分証とか持ってないんだけど・・・」


「ウォード様。大丈夫ですよ。こちらの方はエッジワース家が身分を保障致します」


「かしこまりました。では確認の為こちらの水晶球に手をかざして頂いてもよろしいですか?」


手に持っていた野球ボール位の水晶球を俺の前に差し出してきた。


「大丈夫だよ。これは犯罪歴がないかどうかを確認する為だけの物だ」


ビビッてるとグリムさんがポンっと肩を叩いてくれた。


恐る恐る手をかざすと、水晶球はなにも反応しなかった?


ん?あれ?


「この水晶球は犯罪者だけに反応するんだ、反応しなければ問題ないようだね」


なるほど。反応なしが正解なのね。


「あぁそれと、馬車の後ろに盗賊の死体がある。盗賊の確認がとれたら連絡をもらえるかな?」


門番の横にある詰め所にて慌しく衛兵が出てきて確認をする。



「こいつらは・・・!最近この辺りを縄張りにしているヘルク兄弟!こいつらを倒すとは・・・グリムさんお手柄ですね!!」


「いやいや。こいつらを倒したのは俺じゃなく、このウォード君だよ。確認が取れたら褒賞金の受け取りはウォード君に頼むよ。」


「へっ?またまた。子供にヘルク兄弟が倒せるわけないじゃないですか。冗談きついですよ」


 衛兵もウォードが倒す姿を見た訳じゃない。見た目は10歳の子供だ。信じられないのも無理はない。


「まぁ信じる信じないはいいからよろしく頼むよ」


「わかりました。それと・・・そこのウルフですけど、タグが付いてないようですがどなたの従魔でしょう?」


 現在、クロは周りを驚かせないように大型犬くらいの大きさまで小さくなっているため見た目は従魔ウルフのように見えるようだ。



「あぁこいつは俺の従魔ですけど、タグってなに?」


「従魔にはタグを付けるのが常識でしょう。タグが付いていなければ魔物と勘違いされて攻撃されても文句は言えないぞ?」


 なるほど。街ではタグをつけるのが常識なのか。


「それってここでつける事もできる?」


「あぁ銀貨一枚必要だができるぞ」


 またしてもやべぇ。

 俺、金持ってないわ。


「えっと・・・お金持ってないんだけどそういう場合はどうしたらいいの?」


「ウォード君!?お金を持ってなくてどうやって旅をして来たんだい?!」


グリムさんが心配そうに聞いてくるが今までお金がなくても問題はなかった。


 大抵の物はばーちゃんが作っちゃうし、どうしても必要な場合はじーちゃんがどこからか持ってきた。あとから聞いたら、近くの街で物々交換をしているらしい。


「お金がなくても森でご飯は調達できたし、問題ないもんだよ?」


「そういえば街にくるのも初めてって言ってたよな。お金も初めてなのか」


「だ、だいじょうぶです!!クロちゃんにも助けてもらったんですからお金は私が出します!」



 エリアルが衛兵に銀貨一枚払うと小屋からタグを持ってきた。


 タグといっても銀のネックレスにドッグタグをつけたような簡単な物だった。魔道具のようで大きさも自在に変えられる優れものだ。体の大きさを変えられるクロにも安心の作りになっている。


「お譲様ありがとう。お金はあとで稼いで必ず返すよ」


「いいんですよ。こちらにお誘いしたのも私なんですから、お礼の一部だと思ってください」


 笑顔でそう答えるお嬢様。


借りっぱなしは悪いと思ったけどお礼の一部って言われるとどうしたもんかと考えてしまう。


 クロにタグをつけてやると嫌がるかと思ったけど、尻尾が思いっきり振れてるから何気に喜んでるみたいだ。


「さてお嬢様、ウォード君そろそろ街に入ろう。旦那様も帰りを待ちかねているだろう」


 グリムが二人を急かすように促すと、馬車はゆっくりと街の中に入っていった。


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