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揚足裁判  作者: 花南
第二章
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西園寺編

 西園寺とファーストコンタクトをとろうとした海馬は見事に約束の時間をすっぽかされた。

 どこにいるのだろうとあちこち探しまくって、やっとの思いで見つけたのは体育館でカメラを構えている彼だった。

「西園寺くーん、探したわよ」

 しっ、と口元に指を立てる西園寺の仕草にすぐ口を閉じて、そっと体育館の扉に貼り付いている西園寺勝に近寄った。西園寺は何やらぱしゃぱしゃと何かを撮っている。

「誰だ? きさんは」

「あら今日約束していた海馬よ。アナタの弁護人。ところで西園寺君はなにして……」

「見てわからんのか? 鈴木を撮っているのだ」

 扉の窓から向こうを覗くとなるほど、そこには千早と鈴木が密会している場面だった。海馬は心臓が熱くなるのを感じた。興奮するのを我慢しつつ、声を殺して西園寺に言う。

「さすがだわ! 早速敵の調査ね。これはいいネタになるわよ?」

「ククク、まさにベストショットだ」

 狂ったようにシャッターをきり続ける西園寺。

「それにしても、彼らの会話気になるわね。ここからじゃ聞き取れないけれどもう少し近づく方法はないかしらん……」

「馬鹿者! この写真だけですでに用は足りている。近いほうがより確実だが、危険なリスクも伴っている。ここは敢えて踏み込むまい。戻るぞ、海馬」

 さりげなく年下に呼び捨てにされたことに、なんとなく嫌なものを感じつつも、はいはいとその場は撤退すると、西園寺は現像室へと向かった。

 暗い現像室の中、海馬と西園寺はようやく打ち合わせを始めたのだった。

「つまり、鈴木を吊るし上げることが目的なのね?」

「そうだ。奴には『あんあん』泣いてもらう」

「……『わんわん』泣かしてやるの間違いじゃない?」

「そこらへん『あんあん』でも『わんわん』でも『ひーひー』でも構わん。泣いて謝ってもらうぞ。ククク……」

 陰湿に笑う西園寺に海馬は今回の勝負はいける! とにやりと笑った。一番自分の手腕を揮えるのはこの男だと海馬は思っていたが、その通りのようだ。しかし、海馬が勝てると思った瞬間、あろうことか西園寺は現像された写真をいきなり鋏で切り抜きはじめたではないか! 鈴木の顔の部分だけ切り抜き、後はゴミ箱へと打ち捨てられた。

「ななななな、何をしているのよ西園寺!? せっかくの証拠写真がそれじゃ使い物にならないじゃない」

「何を言う。これを使うんだ。こんな風に……」

 非難する海馬の目の前で今度は男性誌を取り出すとグラビアアイドルの顔の部分に鈴木の顔をぺたっと貼り付けた。

「……これは何の冗談なの? 西園寺」

「知らんのか? アイコラに決まっているだろう」

「何に使うのか聞いているのよ!」

「これで奴の評判を地獄の底まで叩き落してやるのだ。学校中の笑いものになるし精神的ダメージも大きいに違いない。我ながら素晴らしい作戦じゃないかうひゃひゃひゃひゃうひょうひょうぼぐへぇあっ!」

 最後のあたりで高笑いしつつむせた西園寺に冷ややかな視線を落としつつ海馬は言った。

「西園寺、言っていいかしら?」

「なんだ?」

「そうね……発想は百歩譲って褒めることにしましょう。ただアナタは二つぐらい大きなミスをしているわ」

「ミスだと!? この僕が?」

 食ってかかる西園寺を暑苦しそうに引き離しながら海馬は続けた。

「まず、鈴木の体のパーツが女なのは不自然よ! ここはそのままの素材を活かしたものにしなきゃダメダメ。そうね、たとえばどこぞの変態プレイと合成とか」

「男の体にしてどーする! キモいだろうが! 面白くないだろうが! お前には情けというものはないのかッ。アイコラのロマンを嘗めているのかきさん!」

「何よ、アタシが間違っているっての? まぁいいわ。もうひとつ……アナログで作っちゃだめよ。今時こんな手作業でアイコラ作るアホはいないわ。デジタル作業よ!」

「悪かったな。パソコンできても画像処理は苦手なんだ!」

「まったく使えないわね。いいわ、アタシが教えてあげる。お願いだからその駄作を捨ててちょうだい。さ、PC教室へ行くわよ」

 さっそうと踵を返す海馬の後ろから、西園寺がついていくついでに現像室のゴミ箱にグラビア雑誌を捨てていった。

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