表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
揚足裁判  作者: 花南
第一章
4/17

西園寺編


「くくく……ついにこの日がやってきたか……」

 まるで最初の佐藤生徒会長のような台詞を言ったのは西園寺勝(さいおんじまさる)その人だった。屋上のさらに上、突き出した入り口の屋根部分…つまりよく漫画でサボっている不良が昼寝をしているあの場所に登って仁王立ちしている西園寺は長い不精した髪を掻きあげた。

「待っていたぞ、この日をな!僕が真の支配者となるのだ!!」

 西園寺はなんとしても会長になろうと思っていた。どんな方法だろうが容赦する気はない。なぜ生徒会長になりたいのか、そんなのは決まっている。幼稚園生の時、将来の夢は支配者と書いたことを己に忠実に迷わず実行しようとしているだけだ。

 屋上に来たのも愚民を見下ろすため。支配者というものは一階にはいないものだ。階段が多くて息切れしても毎日ここにやってくる。そのためか、ここのところ脈拍がそんなに上がらないまま屋上まで来れるようになったことは自分でも自画自賛していた。

「ああ、なんて風が気持ちいいんだろう。それに太陽はあんなに勝利の祝福しているかのように燦々(さんさん)と……」

 うっとりと呟いている間にもどんどんと空は曇ってきて、終いにはスコールが降りはじめ、屋上の屋根に登っていた西園寺は急いで校舎の中に入ったがすでに濡れ鼠だった。

「まぁ、落選者の悔し涙といったところか……」

 もう既に負け犬の遠吠えが始まっていることに西園寺は気づいていない。水玉模様になった眼鏡を拭きながら階段を下りた。

「しかし、最近生徒会長の素質をもった者には謎の招待状が届くらしいが、なぜ僕のところには来ない! 何故、何故!」

 階段で地団太を踏んだため三段くらい足を滑らせ落ちて膝を抱えつつそのまま踊り場をごろごろと転がった。

「うおおおお! さては僕を妬んで招待状を横取りしている奴がいるのだ。そうに違いない。階段を踏み外したのもそいつのせいで郵便ポストが赤いのもそいつのせいだ!」

 ちなみに今朝は小鳥の囀りで目覚める予定がカーテンを開けると鴉の群生がギャーゴギャーゴと嘲笑しながら飛び去ったのもそいつのせいということになっている。どうやら巷でちょっと話題の怪文書を西園寺は招待状だと思っているらしい。それを横取りしている奴がいる、そう思い込んだ西園寺の横を通りすぎる少年がいた。鈴木北斗だ! その手にはなんと例の手紙が握られているではないか。

「かとぉぉう! どこだ、今回ばかりは性質が悪いぞ!」

 どうやらこの段階では鈴木はまだ加藤が犯人だと思っているらしい。しかし西園寺が注目したのはその手に握られた手紙のほうだった。

「こいつか! こいつが僕の招待状を根こそぎ! 許さんぞ……許さん!」

 自分こそが生徒会長になるべきなのだ。あんな野郎に席を譲れるものか! そう思った矢先、グラウンドが晴れ渡った。そこには人がわらわらと集合して人文字で『会長になれ!』と書いている。

「そうだ、僕こそが会長なのだー!」

 思わずTPOを考えずに叫ぶ西園寺を奇異の眼差しでちら見しながら他の生徒が通り過ぎていく。しかしそんなことは今の西園寺にはどうでもいいことだった。思い立ったら即実行。それが彼のポリシーである。ただ考えないともいうが。

 届け出の箱の前には鈴木と、浅黒い肌の黒髪の女がいた。あの女はたしか飯島冬姫とかいう学年首席のちやほやされている女である。西園寺にとっては雑魚としてしか認識していないがそれでも前々から気に入らなかったのだ。

「まずはあのアマと野郎をたたっ切る!」

 そう深く誓った西園寺であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ