小休止
生徒会裁判を明日に控えて、裁判部のメンバーは大忙しだった。右や左の大騒動の中、弁護士四天王は呑気にくつろいでいた。
「今回の選挙は私、勝たせてもらうわ」
「あら随分と勝気じゃない?」
「どこかの誰かさんの依頼人と違って飯島さんは優秀だからね。それにまぁ……正義は勝つと言っておきましょうか」
「フンッ……嫌な女ね」
鼻息も荒く海馬が憤るも、陸はまったくの余裕である。そんなに手札があるのだろうか。空乃は空乃で先程の情報を握られているし、森下は何を考えているのかまったく分からない。
「鈴木君はぁ、とってもいい人ですぅ。きっといい人コンテストだったら一位ですよ?」
「森下のほうは依頼人どうなのよ?」
「え……? ああ、かわいいよね」
それだけ言うとまたパソコンに向かって、何かを眺めている。やはり何を考えているのかまったくわからなかった。
「そういえば海馬、あんた普段ならかなり調子ぶっこいてんのに、今日は大人しいじゃない。あんたの依頼人のほうはどうなのよ?」
「うっ……」
露骨に嫌な顔はしなかったが、陸に訊かれて海馬は言葉に詰まった。
「まぁ……お楽しみっていうことで」
「そう。なんだか顔色が悪い気がしたから」
「徹夜でアイコ……ううん、なんでもないの」
(アタシとあいつの思い出なんてアイコラとかアイコラとかアイコラとか……盗撮とか、アイコラとか、ああもう早く終わってしまえ裁判)
海馬はもうヤケクソな気持ちだった。
「でもー、今回は誰が勝つかわからないですねぇ。ちょっと楽しみですぅ、勝ったら何してもらおうか……」
ピクッ
空乃の言葉に海馬は反応した。すっかり忘れていた。この四人は、いつも勝訴した人が負けた三人に何かひとつ命令することができるのだ!
西園寺は落選確実だ。マズい、このままではマズい。今までの経験上、空乃の注文は無茶が多いので避けたかった。森下も何を言ってくるかわかったものじゃあない。
「みゅーはぁ、最近ペットが欲しいんですぅ。動物園からワニ盗んできてもらおうかなぁ」
「ワニなんて飼ってどうするわけ?」
「ぺちぺちしたりーぐりぐりしたりー、あっ! 鰐皮の毛皮ってどうでしょうかぁ? 似合うと思いますかぁ?」
「ワニは毛が生えてないから毛皮とは言わないんじゃないかな」
「じゃあ森下君はぁ……動物園から何持ってきてもらいたいですかぁ?」
「鴇かな。最後の一匹って高く売れそうだし」
「あんたまた金の計算ばっかしてんの!? 空乃も欲しくもないのに人に無茶なことばっか言わないの!」
そんな他三人の会話を聞きながら海馬は確信した。一番マシなのは陸だ! 陸になんとしても勝ってもらわねば。




