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残夏の園(改訂版)  作者: ずんだもち
二章 軋轢
16/26

診療所の過去

ーー草薙遺留視点ーー

松村さんが病室から抜け出した

夜雀族を連れて帰ってきた。


彼は夜雀族をそっとベットに寝かしつけると、

優しく彼女の頭を撫でた。


私はそんな彼の行動に苛立ちを覚えた。


何故そこまで他人に優しく出来る?

何故無償の努力を繰り返す?


まるで昔の自分を見ているようで、

私は我慢がならなかった。


夜雀族の顔を見るだけで思い出す。


あの忌々しい出来事ーーー。


ーーーーー


その日の空は淀んだ雲に覆われ、

里全体の空気がずっしりと沈んでいた。


「ねえ、おとーさん!

コウモリの人が来たよー!」


診療所に寝泊まりする私は

この世界で唯一の医者をやっている。


医者と言っても、ここ最近は

診療所を利用する者は皆無だ。


今こうして趣味の読書に

没頭出来るのも里の連中が

健康に気を付け、自己管理を

きちんと行っているからに他ならない。


私は娘の元気な声を聞き、

読んでいた本に木の枝を差し込んで

そっと閉じた。


私は現在、

嫁の紫帆(しほ)と娘の麻友(まゆ)

三人で暮らしている。


私と紫帆との間には子が

なかなか出来ず、

紫帆はかなり落ち込んでいたが、

両親と死に別れた麻友を引き取ってから

紫帆は元気を取り戻したようだった。


私達三人は幸せだった。


「コウモリの人が来たのかい?

それじゃあ此方に

上がって貰って下さい。

私はお茶を入れてきます。」


「はーい!」


麻友の声は周囲の雰囲気も明るくする。

麻友の声を聞いた私の助手は

表情を緩めて一礼し、部屋を後にした。


「お待たせしました。

ご用件は・・・っ?!」


部屋に戻ると

激しく咳き込む初老の夜雀族と、

付き添いの青年夜雀族、

そして麻友が心配そうに

二人を見上げていた。


「麻友ッ!!

今すぐ部屋から出なさいッ!!」


「ふぇっ?!」


「早くッ!!」


私は麻友を部屋から

無理矢理追い出すと、

部屋の窓や扉の隙間に

布等を詰めて隙間を無くし、

私自身も近くにあった雑巾で

口と鼻を覆った。


「どう・・・されました・・・か?」


付き添いの夜雀族は

しんどそうに荒い息をしながら

私に尋ねた。


咳き込んでいる夜雀族は

もう喋る事すら辛そうだ。


「その病状は空気感染する

可能性があります。」


「くうき・・・かんせ?」


「喋らないで!」


「・・・。」


無理に聞き返そうとした青年を

私は静止する。


「吐いた息から病状が

感染するという事です。

現状、あなたも辛そうだ。


そちらのご老人は・・・

もう間に合わない。」


「そ、そんな・・・!

どうに・・・か、ならないんで、」


「なりません!」


「・・・!」


「今は人の心配よりご自分の心配を

して下さい!

早く治療しないとあなたも

彼のように

なってしまうんですよッ!!」


青年は目を見開いた。

それでも私に何か言おうとしたが

隣で既に虫の息になっている

同族の年配者を見て

萎縮してしまった。


「歩けますか?

肩を貸しましょう。

こちらです。

ゆっくり、無理をしないで

歩いて下さい。」


部屋から出る際、

心配そうに見上げる麻友の頭を撫で、

私は彼を二階の病室まで案内した。


まさかあんな事になろうとは、

当時の私は夢にも思わなかった。

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