(9)魔族 ─── それぞれの思惑 by アレキサンダー・ナバレ
オルテンシアが誕生した報せに、
確かに世界は我らの願いに『答えた』
オルテンシアは、"魔王"として生まれた。この子の魔力の器は無限だ。ただ魔力は殆どといってよいほどない。
魔王の珠は、魔王が死して譲られる訳ではない。世界球の周りに浮かぶ、魔王の珠が魔王となるものを選ぶ。
魔力が殆ど無い方がいいのは、元ある魔力と交わらず、反発や拒絶する力が働くからであり、魔王の珠そのものの魔力を得ることになるからだ。
五大爵は珠に選ばれた魔王に絶対の忠誠を誓うことで、今の地位についている。
しかし、長い時を経れば掟などは忘れ去り、その地位に甘んじ腐った者も増えたようだ。
先の魔王アルティオスの簒奪による我が国の混乱、魔王が病むことにより他種族に隙を与え、攻め入られる失態が続いた。
我が家の暗殺部隊をも欺かれ、あの時我が弟ウィストリアとサヴィンが失われた。
しかし、しっかりとした息子達のお陰で、サヴィンは解体されずに済んだものの、あの双子は裏切り者を決して赦しはしないだろう。
裏切り者に気付いているようだし、やつらは自ら朽ち果てるから、放っておいてもいいのだが、あの息子達は自分達で始末をつけたいのだろう。
まあそれもよいのだが、我がナバレに仇なすやつらには、死をじっくりと味わっていただこう。
今はまだ、気付かれていないと思っているようだが………な。
世界が定めし均衡は、はっきりいえば特に掟などない。ただ、魔族、天使、竜はお互い不可侵で均衡を破っていると世界が認められなければ良い。
しかし、どう判断するかは世界が決めること。
魔王の座を簒奪したことでアルティオスが、また天使と竜が均衡を破り魔界を攻めいったことに対して"世界"が罰が下だしたことは確かだ。
生まれながらに王と定められた者は、今ではオルテンシアしかいない。
だからこそ、秘めている力は未知数で、暁の瞳を持った私の娘は、いつの間にか魔王の目を持っていたようだ ─── だが、優しさや甘えを捨てきれない危うさは残っているが。
まぁ、それもまだいい。魔王の珠が全てを見せるはずだ。
朽ち果てたこの魔界で、娘が魔王としてどう生きていくのか。
サヴィンの息子もカミーユもなかなか良い目をしているようだ。
そろそろ、虫の羽音も五月蝿くなってきた。オルテンシアが魔王になったあかつきには、少しスッキリさせるのもいいかもしれぬな。
お父様が一番腹黒い。そしてナバレ一族愛が激しいお父様です。(特に妻と娘に)