(73) 魔王様の花婿探し(2) ─── by カミーユ・クリストフ・アイヴァン
更新がすごーく間が開いてしまい申し訳ありません。
オルテンシア様は、この世界ではまだ幼い。
魔族が成体になるのは、100歳頃になる。しかし、オルテンシア様は今世代唯一の属性魔王であり、過去の例からも、魔王としての成熟期はまだまだと思われる。
まだ50歳ほどの齢で、成体の時期を迎えるのまで、まだ先のこと・・・まだ時間がある、と思っていた。
しかし思ってみれば、出会ってから50年近くになるのだ。
この魔族の国ペルラをめぐる国内や周りの国の事情を考えると、オルテンシア様の夫を迎えることはこの国にも安定を与えることだろう。
先の戦いで、均衡を崩した天使族と竜族に世界が下した審判は竜王子・・・特にオルテンシア様の病を治療する代わりに、軽減されたか ら、後50年ほどで天使族の罰は終わる。
竜族には罪の軽減はないが、虎視眈々と我が魔界の支配を目論んで、何とかオルテンシア様と繋がりを持とうとしている。
何かと度々、魔界にやって来て、オルテンシア様にちょっかいを出す竜王子と、オルテンシア様しか乗せない貴重なラピス種といわれる蒼竜には、私は相当嫌われている。
特にオルテンシア様の翼竜には私の魔眼は効かないのだが、今は視線も合わせてくれない。子供の時はなついてくれていたのに、私の姿を見るとドシドシと物凄い足音を発てて去っていってしまう。
私は何かあの竜に嫌われるようなことをしてしまったのか?
特に・・・何もしていないと思うのだが・・・?
また、五大爵の権力もオルテンシア様が魔王となり、魔王を輩出したナバレ家は魔界筆頭家として公爵位となり、実質この魔族の国を動かしていると言える。
五大爵はオルテンシア様に忠誠を近い、今までにないくらいここ最近の魔界は落ち着いており、政情も安定して来ている。
先の戦いで地に堕ちた我がアイヴァン家は五大爵主家の地位は何とか保っていたが、魔界混乱の責と欲深い父と母には権力に及ばないよう魔力を封じられ、事実上隠居させ、魔術塔の長は、父の弟である他家に婿入りしたレムス・ネリアネスとなった。
そして、実質アイヴァン家は私が当主となったが、本来なら前の戦いの原因となった我が一族など、特に私は魔王オルテンシア様の側にいることも叶わない立場なのだ。
いわば、魔力制御が魔界一優れているため、魔力制御が安定しないオルテンシア様に仕えていられるのだ、と思われている。
今までの罪を思えば、我がアイヴァン家がこのまま存続出来るとは思ってはいない。
なので何れ、私の代でアイヴァン家は廃嫡にし、五大爵の称号は返上しようと思っている。
今まで何度となく願い出てはいた。罪に溺れた夢魔族が五大爵などの位を戴き続ける訳にも行かない。
私はただ幼かったオルテンシア様の側で支えていけたら、良かった。
罪深い私がオルテンシア様の側にいることを赦され、辞すことも出来ない自分の傲慢さを捨てきれていない私の我が儘。
前世は人だったというオルテンシア様は、魔族にない優しい心、感情の持ち主だ。魔族がそれを理解するのは簡単ではない。魔族には甘いと侮られることもあり、軽んじられる。
ただ、この傲慢で狡猾な魔族の世界で生きていると、オルテンシア様は清涼で、凪いだ空に浮かぶ月の夜のように静謐で、辺りを包み込む包容力さえある。
それは「許す」という魔族には理解しがたい感情のためなのか、だからこそ、こんな堕ちた私でもオルテンシア様の側に侍ることが許されているのだと理解している。
あの日、オルテンシア様と初めて魔王の珠の伝達式に向かう時、差し出した私の手と、その小さな手を繋ぎ向かった世界球の間に程近い、朝議が行われる会議室に向かってあの時一緒に歩いた廊下を、今ゆっくりと歩を進める。
今では城内に溢れるように暁色の珠が湧き出ては宙を漂い、埋めつくしている。
今朝の朝議には、遅れてくるように言われていた。
案の定ナバレ公爵が居ない隙に、多くの魔族はろくに朝議をせず、オルテンシア様に取り入ろうと躍起になっていた。
生まれながらの属性『魔王』はそれでなくとも魔族には魅力的に写り、しかも『女魔王』だ。娘を妃にせずに自分を売り込み、世界球が選んだ魔王にはなれないが王配になって権力を持つことが叶うのだ。
各国よりオルテンシア様の王配にと婚約の申し込みが、天使族や竜族、獣人族などからも殺到している現状からか、国内魔族での王配擁立に躍起になっている奴らは、大事な議題はそっちのけで違う意味での熱い議論を交わしている。
普段は魔王の発案や提言に文句ばかりつけて邪魔をしている奴等がまともに今後の国のことなど考えている訳がない。
オルテンシア様の希望である奴隷制廃止にはまだ道半場だし、他種族との交流もなかなか進んでいない。
魔獣化対策、天使の堕天対策、反乱分子対策、経済・産業の育成、防衛、問題は山積みである。
私が会議室に入ると、高位の魔族は私の気配を素早く察知し魔眼防御のシールドを張っていた。しかし、議論に夢中になり、私より魔力が弱い魔族の大部分は私の魔眼に当てられ、硬化していた。
「「「「ひいいっ!!!?」」」」と皆一斉にひきつった叫び声をあげている。
・・・全くいつも失礼な奴等だ。
オルテンシア様は私のことを『歩く魔眼テロ』という。テロとは聞きなれない言葉だが、『歩く災害』と同じことだと言う。
それを聞いていたオーブリーは、今までの魔眼に対する私の葛藤やら苦痛を知っていたから、あえて避けてきた魔眼を揶揄する言葉に盛大に顔をひきつらせていた。
確かに、かつての私はそうだった。しかし今では魔眼を受け入れている。
今では私は魔眼のコントロールを身に付けて、自由自在に操れるようになっていた。しかし、膨大な魔力を消費するので、オルテンシア様が近くに居ないとコントロールは出来ないし、普段はオルテンシア様の魔力を込めた仮面や眼鏡を使わないと魔眼を押さえるのは難しい。
私に向かって魔眼テロ、歩く災害というのはオルテンシア様くらいしかいないけど、逆に面白がっている自分がいる。
「カミーユ、わざと魔眼を解放しているでしょう?」と遅れてくるように言っておきながら、共犯者特有のしれ顔でオルテンシア様が言った。
「・・・朝議の無駄を省くためです。」その方が物事が早いからと言うとオルテンシア様の隣にいた宰相補佐のパリスを見る。
「シア様だって悪いよ。カミーユ様に遅れて来るように言ってあったのでしょう?」パリスはきちんと防御シールドを張っていた。この場でシールドを張れていたのはたぶんパリスとオルテンシア様の護衛であるシセロ・サヴィン将軍位のものだろう。
「・・・・・。」オルテンシア様は無言で首を降るが、「バレバレですよ。」とパリスは笑みを浮かべ、オルテンシア様は苦笑を返していた。
「・・・・遅れて来るように言ったけど、仮面を外して、魔眼を解放していたのはカミーユの判断よ。」ねえ?とわたしに向かって言う。
「我が王、主人にこともあろうか女が政治をするななどと、暴言を吐きましたので。またしつこくオルテンシア様の婚約者をなどと言い続け朝議の妨げになっていたので、先に話を進めるためですよ。・・・この後、予定が詰まっているのです。」と言って私はオルテンシア様の魔力が込められた仮面を着ける。
「・・・まあ、いつも助かるわ。」
他の魔族達はまだ固まっているので、オルテンシア様は力を抜いてだらんと王座の背に寄りかかり、体勢を崩した。
「各国歴訪の旅に行っていらっしゃるナバレ公爵閣下がどのような返事をお持ちになるかは未知数ですが、オルテンシア様の婚約は最早、国内ばかりではなく、周辺諸国の注目を集めていることは事実です。」
「まだまだやることが山積しているのに、これにかまけている時間など無いわ。でも、いっそ婚約者を決めてしまった方が五月蝿く無くなって良いのかしら?」とため息を吐く。
「・・・・とりあえず婚約者候補を挙げてくれる?」とオルテンシア様が言うと私とパリスは頭を下げた。




