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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第3章 暁のオルテンシア
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(71) 暁のオルテンシア ─── 暁どきは私の時間

第3章 開始です。


オルテンシアやカミーユに様々なことが起こります(予定)その時ふたりはどう決めて、どう道を進むのか?


よろしくお願いします❗

 

 夜の街 ─── 魔界ペルラ王国




 今夜は、いつも暗い夜空を月が明るく照らし、地表により濃い影を作った。


 そこへ影絵のように、地表をあり得ない早さで移動する(もの)が映し出されていた。


 それはもう既にお馴染みの光景で、この国では異様であるはずのその影に、もう驚くものはいない。


 その影の正体は、この魔界で唯一の竜と竜使いだ。幼い頃に、竜族に竜の卵を贈られて孵化し、リンディと名付けられた時から共に育ち、竜の友として空を舞う。



 もうすぐ暁時(あかつきどき) ─── 魔界の長い夜が明ける時間になろうとしていた。


 竜の背には竜使い、この魔界で唯一、暁の瞳を持つ、この国の若き魔王のことを皆、親しみを持って、「暁のオルテンシア」と呼んだ。





 王城の一画に降り立った竜は、バサバサと露を払うかのように、数回翼を羽ばたかせ背に折り畳むと、首を下げ、主人が降りてくるのを待った。


「どうするリンディ?巣に戻る?」

 オルテンシアは竜の首伝いに、地に飛び降りるが、竜が首を下げて降りやすいようにしてくれても、ゆうに大人の背丈の3倍の高さがあった。


『いや、久しぶりに(ここ)の部屋で休ませてもらうよ。お腹もいっぱいだから眠くなった。』


 竜と自由に話すことが出来るのは、竜の同族と、この竜の真名を知るオルテンシアだけだ。


「ごめんね、毎日連れていけなくて・・・」魔王であるオルテンシアはなかなか竜と共にいる時間は限られてしまう。


『そりゃ、シアが一緒だと嬉しいけど、仕方がないよ。シアはまだまだ子供だし。』クワッと口を開けたのは、竜が嬉しいと思っている証だ。

 しかし、竜に慣れない者にとっては、その行為はとても恐ろしいものでしかなく、オルテンシア以外でなかなかリンディの世話が出来るものがいなかった。淋しがり屋の幼竜の為に側で寝起きしたこともある。


「まあ!リンディだってまだ子供じゃない。」リンディはまだまだ幼竜だけど、自分の巣を持ち、普段は自分の巣に戻って休み、狩も自分でする。


『そりゃ、まだ成体じゃないけど、もう遠くまで飛び続けることが出来る。天界にだって地の果てにだって行けるよ! ─── あっ!?』と弾ませていた竜声を一瞬にして驚きの声をあげ、オルテンシアの後方の建物の影に静かに佇む人影を睨み付けた。


「お帰りなさいませ、オルテンシア様。」その者は、建物の影から静かに月光の元に進み出て来た。


「カミーユ・・・」


『・・・僕、もう行くっ!鱗はカルファンに拭いて貰うから、シアはいいよ!』

「ええっ!ちょっ、リンディ!?」


 美しいラピスラズリ色の鱗を持つ翼竜はオルテンシアからプイッと首を振ると、ズンズンといつも以上の騒音をたてて去っていった。



「ハアァ~~、リンディったら拗ねちゃって。」オルテンシアは自分の翼竜の態度に思わずため息を吐いた。


「私が来たからでしょう。リンディにはどうも嫌われています。」とそれでも自分の近くに来た自分の侍従でもあり、側近の政務執政官をオルテンシアは見上げ、そっとため息を吐いた。


 初めてあった頃のまま、このカミーユは人にあらざる(魔族だけど)魔界一の超絶美貌を誇っていた。無表情という仮面を被って己の弱さを隠していたのだが、所謂孤高の存在であり、その美貌で過去にこの魔界に混乱を引き起こした当人だったため惹き付けはしても、常に恐れられ煙たがれていた。


 オルテンシアが魔王を継ぐにあたり、どういうわけか娘の父であるナバレ公に請われ、魔王の侍従となった。


 しかし今は、目を覆う仮面を被り、その呪われていると言われる魔眼をいつも隠してオルテンシアの側にいるようになった。


 顔を被わなくてもいいように、魔眼を遮断する眼鏡を作り、薦めてみたが、どうも本人は顔を隠せるこちらの方が気に入っているらしい。


 その時の気分に合わせて仮面を変えているようだ。その超絶美貌と、このところ構わず発してしまう魔眼で王城中を混乱に突き落としてしまうために氷のような無表情をしていた執政官の心の内を察することが出来るようになったのは幸いである。


 今はオルテンシアとふたりきりなので、カミーユは仮面をこの広場で外し、主人を待っていた。


 明け方にも関わらず、いつも完璧な侍従に感嘆はするも、少々ゲンナリとする。


 ・・・どう見ても歩く魔眼テロよねぇ、とオルテンシアはいつも思う。



 どうしてか、自分にはこの美貌超人の魔眼テロが効かない。なので、カミーユはオルテンシアの前では、仮面を外し、素顔を晒している。


 普段は無表情で感情を露にしない。

 でも、私は知っている。その仮面の下のとても繊細な豊かな感情や心の弱さ、渇望、そして揺らぎさえも、とても希なことであったが見せることもあった。



 オルテンシアが魔王を継いでから、50年近くになろうとしていた。


 前世に生きた年齢をだいぶ越えたが、この世界での自分はまだまだ成体に程遠く、身体も見た目もまだ小さくて子供のようだった。

 心の成長とある一定の年齢になれば、成体になるらしい。


 今度の人生は思ったよりも濃密で、速いようなそれでいてもなかなか成長しない未熟な自分に戸惑うばかりだった。




 前世では身体が弱く、最後の10年はベッドにいる生活で、今世でもベッドに籠りきりの生活だった。


 前魔王が亡くなった日、自分が生まれながらの魔王だと突然言われたことをきっかけに前世を思い出してから、あっという間に魔王を継ぎ、殆どなかった魔力を得てから、少しずつ満たされ身体の弱さを克服してきたつもりだ。


 だけど、膨大な魔力量に対して、身体が追い付かず、また制御が上手く出来ないため、しょっちゅう魔力酔いを起こして熱を出したり、倒れてしまい寝込むこともしばしばで、身体の弱い、魔力をコントロール出来ない魔王を魔族達は憂いたり、見下したり、失望もされているのも知っている。


 悔しいし、悲しいし、自分が不甲斐ないけど、お兄様、両親、周りのひと達そして常に側に居てくれたカミーユに支えられてなんとか魔王をやっている。


 まさか、生まれ変わったと気付いた時に、魔王だよと言われた衝撃は今も忘れない。



 隣にいるこの超絶美貌の侍従も何故私の隣にいるのかもわからないけど、たまたま私が魔王なだけだけど・・・


「さあ、お休みの時間ですよ?」


 陽が昇ろうとするこの僅かな時間をカミーユと何度も見てきた。




 ──── 暁時(あかつきどき)は私の時間


 ふわっ、と欠伸をひとつ噛みころす。


「ぁふ・・そうね、少し休みましょうか。」



 美貌の侍従は満足そうに微笑み返している。


 最近、色々なことがあって、カミーユの眉間のシワがだいぶ深くなっていたっけ。・・・久しぶりに穏やかな笑みを見れてよかった。




 空が明るい陽の光に包まれる僅かな時間、魔界中が寝静まる静寂の時





 こんな当たり前の平穏な日々に、影が少しずつ忍び寄ろうとしていたなんて、私はこの時気付いてもいなかった。


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