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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第2章 魔界の黎明
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(64) 緋の流星 ・5 ──── 闇に蠢くもの

すいません。散々、あいたにもかかわらず、短いです。



 


「・・・何故、落人が鉱山にいるのだ?」


「鉱石を掘る人足として働かせているだけではないようよ。でも、落人は大抵魔法が使えるみたい。この世界の人族は魔法は使えないから、落人の括りは一応《魔導師》と呼ぶのだそうよ。」



 ミシェルの話だと《勇者》《魔法使い》《聖女》《剣士》などとそれぞれに役割が与えられていて皆、魔法・・あちらの言葉では皆《魔導師》と言うらしい。



「落人を鉱石堀の人足に使う?」


 むしろ、資金源を得るためにミスリル鉱山にいるのかもしれない。


「その落人達と"血の狂い(サン・ブルグ)とどう繋がる?」


 血の狂い(サン・ブルグ)は血を好む我ら吸血鬼族(バンパイア)に特有の(やまい)であり、不死に近い我らの唯一の弱点と言えた。


 症状は身体中の血が沸騰するように熱くなり、動悸と異常な興奮状態で血を求めて狂い、やがてどんなに求めようと充足せず、命が枯渇する。原因は不明だ。対処方法も今のところない。


 私は、私たちが糧とする"血"のせいだと思うのだが、血肉を食す魔族は吸血鬼族(われわれだけ)ではない。


 未だにその原因はわからず、近年は暫くその病は見られず、一時は流行し、だいぶ吸血鬼族(バンパイア)の個体数を減らした原因となったが最早、終息したと思っていた。



 永年そのその研究に携わるものがいるも、我らに治癒能力者がいないのだから、結局は研究は行き詰まり、病の流行がないために「終息した」と思っていたなんて、なんと迂闊なのだろう。


「今回、血の狂い(サン・ブルグ)を発症しているのは吸血鬼族(バンパイア)だけみたいだけど。・・・貴方、吸血鬼族(バンパイア)なのね。」


「・・・そうだ。堕天して、魔族になるのだが、種族がどうなるかはわからない。元々、持つ魔力の違いによるものだと推察する。」


 吸血鬼族(バンパイア)は魔王の次に魔力が強く戦闘向きな者が多い。しかし魔族は種族の繋がりよりも、種族が違えど血脈を同じとする一族の繋がりの方が勝る。」


「・・・《同枝の(ゆう)》アレキサンダー様は貴方の兄で、魔界でも血を同じくするということね。」


「そうだ。」同枝の(ゆう)とは、天界に宿る世界樹の同じ枝に宿った胎果のことをいう。


「同枝の(ゆう)には私では太刀打ちできなかった、という訳ね。」ミシェルは少しだが悔しそうに顔を歪めている。


「・・・・・。」その顔をなんとも言えない気持ちで私は見つめ返していた。


「・・・羨ましいわ。そこまで血脈を尊ぶ習慣が魔族にはあるのね。単果の天使族(われわれ )にはわからない感覚だから。」


 単果は親も兄弟もいない。胎果の実は育ち、気が熟すると胎果は枝からもがれ、一族皆で育てるが、親子の情は希薄である。


 世界樹の主根近くに出来る胎果が最高位を生まれながらに与えられる。生まれたときから階級(ヒエラルキー)が決められ、前任の天使が没して初めて次の胎果が出来るという具合だから、急に天使族が増えるわけではない。


 ミシェルや兄は主根近くに出来た胎果から生まれ出ており、熾天使(セラフィム)として生まれながらに美しく、能力と力ある地位が約束されている。


 同枝の友は天使族には特別な繋がりを持つ。例え、愛するものがいてもその人と別れることになっても。


 私は魔族に堕天したことを後悔したことはない。


「・・・・私はクリスと結ばれたわ。」



「それはおめでとう。・・・クリスなら君を心から想い支えてくれてくれているだろうな。」クリスは彼女の補佐役の智天使(ケルビィム)の一人だ。


「・・・ええ、もちろんよ!」



 私はこの時、心の片隅に違和感を感じてはいた。



 ミシェルの突然の訪問。それはかなり唐突で、普通に考えれば疑問に思うはずだった。



 しかし懐かしさや、昔と変わらない親しさで忘れていた。



 魔族と天使は基本、相容れない仲なのだと、後で痛いほど思い知ることになった。




 ミシェルが仄暗い思いを抱き、私に近づいていたなんて思いもしなかった。





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