(63) 緋の流星 ・4 ──── 意外な訪問者
「・・・久しぶりね、ウィル。」
久しい、というにはかなりの年月が経っていた。相変わらず圧倒的な美しさと強さを秘めた明光力を持つ熾天使。
──── 一瞬の殺気
振り返ると私の元婚約者がそこにいた。
約300年ぶりだろうか。
だがここは魔界で、ユニシースの喉元にナイフを当てている状況は、久しぶりの再会には、穏やかとは言いがたい。
私はため息をひとつ吐くと言った。
「・・・君も相変わらずだな、ミッシェル。でも、悪いがユニシースは君の強い明光力に耐えられないだろうから、早く放してやってくれないかな?」
「あら、ごめんなさい。これでも抑えているのよ。」ミッシェルはキョトンとした顔をして、ゆっくりとユニシースの喉元からナイフを外した。極力ユニシースの身体に触れないでいてくれたみたいだが、ミッシェルの明光力に触れたら中位魔族であるユニシースの身体を焼くのは容易い。僅かだが皮膚を焼く臭いが漂っている。
ユニシースはガタガタと震え、目を瞑って座り込んでしまった。
堕天してからのユニシースの魔力は決して弱くはない。しかし、ミッシェルの持つ明光力はそれを上回る強さだ。
「 ─── して、天界の最高位の熾天使である君が、なぜこの魔界でフラフラしている?」色々浮かぶ懸念を極力出さないようにして彼女に尋ねた。
「ねぇ、貴方は、ウィルは吸血鬼なの?」私の問には答えず、一方的に話しだす。
ミシェルは天界最高位の天使だ。この魔界にいるのは余程なことのがないかぎり、ミシェルが大事大事の周りの天使達も天界から出すわけがない。
この屋敷周辺に他の天使族がいる可能性が高いのだが、警戒網に引っ掛かっている気配は感じないから近くにはいないのか。
しかし、一瞬の隙に突破されてるこの状況に頭が痛くなってきた。
警備の見直しを魔王や将軍に相談しなくてはならない。
「・・・?・・なんだ、いきなり。」問の、答えにならない物言いに思ったより低い声になり、警戒心が声にも露になってしまった。
悪態をつきたいところだが、今は我慢する。
「あら、驚いてくれないの!?久しぶりの再会なのに、なぜ私が危険を犯してまでこの魔界にいるのか?─── まあ、貴方はいつも冷静な人だったけれど。」と拗ねたように言う。
変わらないミシェルに私も少し笑みを浮かべてしまう。
「・・・十分驚いているさ。迂闊にも後ろを獲られたことなど、ね。」
「・・考えことをしすぎよ、ウィル。そしてだいぶ、その・・老けたわね。」
・・・相変わらず彼女は遠慮と言うものを知らないらしい。
「 ─── "血の狂いを"貴方は知っていて?」
"血狂い
吸血鬼達が恐れる不治の、死の病。原因は解らず、侵されれば治らないと言われる。狂ったように血を求め、伝染し苦しんで死ぬ。
だか、それは根絶され、この500年はみられていないはずだ。
「それがどうも異世界からもたらされたらしいわ。」
異世界?また突拍子もない話に、眉を潜める。
「世界球の動きがとても活発になって、乱れているの。"世界"も恐れているわ。そして、この魔王の珠を中心にに取り囲むように世界球達が集まっている。」今までに無い動きであるという。
王都ではそのような話は聴かなかったが、それは夢魔族が大変喜びそうな話だった。
しかし、魔界から吸血鬼が滅びれば、魔界の、そしてこの世界のパワーバランスが崩れる。
それこそ、"世界"が嫌う均衡が崩れることになる。
しかし、魔族の敵奴には、格好の魔界内部の混乱に漬け込むことができ、魔族を滅ぼす絶好の機会となろう。
「異世界からもたらされたとは、どういうことか。」
「異世界からの、"落人"のことは知っていて?」
「人族の国にいる人族にしては魔力を持ち、魔法使いとも呼ばれるやつらか?」
勇者や魔法使い、聖女、などと名乗って「魔王を退治に来た!」って言っているやつらのことなら知っている。
色々御託を並べてこの魔界に来るが、その前に魔獣に追い払らわせているから魔王城までたどり着けた者はまだいない。
そもそもあんな剣で、我らを殺すどころか傷もつけることなど出来ない程度の剣では、無理というものだ。
それに、この魔界を包む瘴気は魔族ではないとなかなか耐えられるものではない。それ故にこの魔界への多種族からの侵略を阻むことができているのだ。
「魔界内部で落人を引き込んでいるようよ。鉱山で見かけたわ。」




