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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第2章 魔界の黎明
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(59) 緋の流星・2

今日、2話目です。

なかなか、アップ出来ずにいますが、お付き合いくださって有難うございます。



 

「アイヴァンの息子の様子はどうか?」


 唐突な魔王の問に思わず、どういうことかと眉をひそめる。


 カミーユを視察に連れていくというのか。


「まあそう怒るな、ウィストリア。しかし"魔眼のカミーユ""狂喜の瞳"と呼ばれる者をこのまま放置するわけにはいかない、そうだろう?」王が苦笑しながら言う。


「・・すいません。身体の創傷はもう回復していますが、精神的にはまだ回復しておりません。しかし、あの状況で魔獣化しなかったのが不思議なくらいです。」


「魔眼持ちにそう簡単に魔物化されたら敵わんが、精神は強いということか?」

 あの時カミーユは、もう少しで暴走し魔物化するとこだった。本当に寸前に助け出したのだ。並みの魔族ではとっくに堕ちていたはずだ。


「・・強いというより、今は"殻に閉じ籠る"という表現があってるように思います。・・・あの子は繊細でいながら心根(しん)は強い。でもまだまだ若く未熟です。」今はまだ床から起きるのは無理だろう。しかし魔界には、治癒力を持つ者がいない。精神的なものは自分で克服してもらわなければならない。


 この後でも、魔眼を暴走させ魔物に堕ちてしまえば、以前の意識など残らないものに成り果ててしまうだろう。そしてまだ危機的状況は脱していないといえる。


「たとえ魔物化は免れたとしても、相当量の魔薬が与えられ、魔香類も中毒域に達しています。それでも意識は保っていた。これは驚異的なことです。」


「・・・しかし、なんて親なんだ。一族を守ることは、ただ・・たぶんあのアイヴァンでは無理だな。」あのアイヴァンのことを普段より苦々しく思っていたライアンも、苦虫を潰したように唸っている。政務を担うライアンにとってもアイヴァン一族はとにかく扱いづらいのだ。


 それぞれ一族の結束は硬い。五大爵であればなおさらだ。


「しかし魔眼とは厄介なものだな。」

「この魔界をも支配できる力はありましょう。」

「魔眼が、この魔界を支配できる力があるというのか!?」魔王は驚きの声をあげる。しかし次には冷静に

「 ─── 魔界に魔王以上の力の存在はあってははならないな。」と告げた。


「だからこそ、あの力を利用し魔界の支配者となろうと、アイヴァンはカミーユを自らの手元に置き、支配し調教しようとしている。だがあいつらは解っていない。あの力が悪用されれば、"世界"か望む均衡から外れる。そうしたら"世界"は容赦なくカミーユとこの魔界(・・・・)を排除するでしょう。」


 遥か昔、均衡を崩した種た。今は跡形もいなくなった"神族" ─── 神の子と呼ばれて奢り、他種族を支配しようとし"世界"に排除された。我らと同様に強い力を持っていた種族だ。


 "世界"と呼ばれる"意思"の存在は確かにこの世にある。この世に生きるかぎりはこの世の(ことわり)に従うしかない。


「カミーユを排除しなければならないのか。」天界から堕ちて堕天しても魔族として生きることはできる。しかし魔族は魔物になるか、完全なる"死"を迎えるしかない。


 生のうちの故意的な"死"を与える多くは、重犯罪者に課せられた、煉獄と呼ばれる地獄責めの道しかない。


 普通なら魔眼という驚異を持つカミーユを排除しなければならない状況だが ──── なんて不憫な子なのだろう。


 カミーユは故意に魔眼を使うことは決してなかったはずだ。

「しかし今回平均的な魔族より弱かった魔力は発現により、覚醒状態にあります。・・もしかしたら魔眼のコントロールができるようになるかもしれません。」故意的に"死"を与えることに私は反対だ。

「安易に"死"を与えることに私は反対です!」

「ウィストリア。残念ながら、魔界に及ぼす脅威は王として看過できない事柄だ。」

「しかし・・・!!」


「・・・いや、今後もカミーユは魔眼のコントロールは難しいかもしれない。」と兄が言う。人知れず魔眼の扱い、活かし方を考えてきたと話した。・・・いかにもこの兄が考えそうなことだった。なのに私は魔眼持ちのカミーユの保護ばかりを考えていた。


「あの魔眼に抵抗できる者はこの魔界には居ない。たとえ、魔王でもです。亡きものにするか、いっそのことこちらに取り込むしかない。」と兄は言う。「いずれ、魔眼を押さえる者の存在が出てくるかもしれない。魔眼は精神状態に大きく左右される。それを支える存在なくては魔眼はコントロールできない・・・しかし"世界"は今回カミーユを生かした。この世を乱しかねないカミーユを生かしたということに、何か"世界"の意図があるのではないかと私は思う。王よ、カミーユの排除を決めるのは時期尚早だと思う。」

「・・・そうですね。私も思います。」レイウォルト・サヴィンも同意し「私もだ。」とライアンも頷いていた。


 魔王はその様子を見てまだ思案顔だったが、やがれやれやれと首を振ると「・・・わかった。不老不死者(ノスフェラトゥ)にそう言われては安易に排除するわけにはいかない。魔界にとってはまだまだ脅威ではあるが、カミーユ・アイヴァンはこのままこの王城にて保護することにしよう。私たちが遠征中、アレキサンダーとライアンは王都に残ってカミーユを見守って欲しい。魔眼が暴走しないよう監視を。またいつアイヴァンが返せと言ってくるかもしれない。彼奴らには渡すな、よいな?」と言った。


「御意。」アレキサンダー・ナバレを筆頭に、ここに集まった魔界を支える重臣達は、厳かに王の前に頭をたれる。魔族が頭を垂れるのは偉大な魔王にのみ。公平で柔軟な考えを持ち、自ら行動するこのマグナス王に、私も自然に頭を垂れる。マグナス王は満足げに頷き、退室を許可した。




 散会し、王城にカミーユを移送する手筈を兄アレキサンダーに任せることになった。



 私は領地に戻る支度をしなければならない。




 王城に与えられた執務室に戻る廊下で、ふと見上げると、珍しく今夜は月夜で、空に星が数多く瞬いているのが見えた。


「今夜はよく星が見える。」暫く言葉を交わさずに共に歩いていた兄アレキサンダーが言う。


「・・・ええ、そうですね。」魔界でこれほど星が見えるのは、実は滅多にない。


 そこへ、ツゥーと赤い星がひとつ、左から右に流れて消えた。



 ─── 緋色の流星だった。


 先を歩いていた兄は私を振り返り言った。「裏切りに気を付けろ、ウィストリア。決して無理をするな。天界の者が絡んでいるかもしれない。」


「 ─── ええ、心得ました。」そう私は答えた。


 その時、兄の瞳がいつにもなく不安に揺れ、顔が曇っていたことに私が気付くことはなかった。



 兄もあえて告げなかったのだと思う。



 そして私を捕らえる闇は、もうそこまで近づいていたのだ。





 あの時流れた、緋の流星は私の運命を告げていた。








これから、ウィストリアや王マグナス暗殺の地へ。死の真相はわかるのか?です。

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