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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第2章 魔界の黎明
58/74

(58) 緋の流星・1

暫くぶりです。

 


 カミーユとリシェーナを救いだした数日後、魔王城に出仕した私は着いた早々に魔王マグナスに呼び出された。

「・・・ああ、ウィストリア来たか。」

「・・・お呼びと聞きました。」


 呼ばれたのは小謁見室。個別の面談に使われる部屋だ。そこには王の他、宰相と兄、サヴィン将軍がいた。


 この部屋にいる5人は、我らが魔界に堕天した頃からの馴染みだ。その頃まだマグナスは魔王ではなかったが、魔王軍の将軍として辣腕を振るっていた。あの時、セリムディアスを捕らえたのも、このマグナスだった。


 マグナスは一段高いところに据えられた王座に座っているが、後の3人はいつものように側に立っていた。しかし皆、いつもよりやや険しい顔つきをしていた。


 マグナスはサヴィン家出身の吸血鬼族(バンパイア)だったが、前の魔王が天使族との戦いで命を落とした時に、次に世界が選んだのは、マグナスだった。


 群青色の髪、魔王の証である暁の瞳を持つ美丈夫で、天界の天使族(アンジュ)と変わらないような繊細な容姿をしている。彼こそが堕天してこの魔界にきたのではないかと言われるほどで、これがひとたび戦いとなると豹変した狂戦士となり、敵を倒し尽くすまで血を撒き散らす、別名"殲滅の魔将軍"と言われていた。


 武家であるサヴィン家はよく軍の司令官、将軍または軍人として特異な才能を見せるが、このマグナスはサヴィン家の当主としての能力を充分示して魔王となった。


 なので今のサヴィンの当主は弟レイウォルト・サヴィンに譲られ今に至っている。


「東方のお前の領地サルベニアの隣にカルハリートがあるな。」まず魔王が訊ねてきた。


「はい、そこはアイヴァンの親類のゼフル子爵が治めておりますが?」

「そこがちときな臭い。」

「 ─── と、申しますのは?」ゼフル子爵の領地とは隣り合っているので多少の交流はあるが、親しいとは言い難い。もちろんあちらは夢魔族(インキュバス)だからだが。


「あやつはアイヴァンの妻の弟だったか。あそこも奴隷調教売買の拠点のひとつだが、どうも武器売買も盛んになりつつあるようだ。傭兵達が集まり、治安も悪化している。そこにだ。天使族(アンジュ)との接触を伺わせる報告があった。」

天使族(アンジュ)・・・」

 今もなお、天使族(アンジュ)との争いは絶えない。


「近々、ライハルトに視察にいく。その途中サルべニアに寄らせて欲しい。そして、カルハリートも調べたい。」ライハルトは魔王の直轄地のひとつで、ミスリル鉱石を産出するザルマード鉱山がある。直轄地は今はサヴィン家のアッシュートンが治めていたはず。その事はここにいる皆が承知していることだ。


 私の疑問もすでに承知している事柄のように皆頷き返される。


「最近、ミスリル産出量が増えてないのに、国内のミスリルの流通量が減っている。盗掘や横流しが横行しているとは報告がいっこうにないわりに、ここ数年カルハリートの羽振りがいい。カルハリートは加工業が盛んだ。だが、昨年に比べて生産量が増えていると報告はない。だが、領民の年貢は法の上限ギリギリで領民はかなり苦しい生活を強いられ、そなたの領地に領民が流れてきているだろう。」マグナスが王座から言う。


「確かに。しかし昔からカルハリートからの領民は獣人が多く、奴隷労働者で以前から流入人数に特に大きな変化はありません。ただ年貢が高額で特に小作人は厳しい生活を強いられています。あそこは加工業が盛んですから、工場に大人が駆り出され、村に残るのは年寄りや子供で小作が進みません。食べるのも困るようで、皆痩せ細ってます。あそこは獣人に食糧援助もしていないようです。以前、流入が絶えないので抗議しましたが、変わりませんでした。」

「アッシュートンからの報告は?」宰相のライアンが言う。

「アッシュートンは我が一族であるが、獣人の掘削人が増えたり、ミスリルに虚偽の報告はないと断言している。」

「生産量と流通量が違うのに?」


「加工の過程である程度目減りはするが誤差が大きい。しかも純度の低い粗悪品も出回っている。純度半分以下、もっと酷いものは3割以下だ。」

「なんと。」

「品質の管理はどうなっている?」

「クレモントからは特に報告はない。」


「アッシュートンも絡んでいるやも知れぬが、今のところわかっていない。ただ、天使族(アンジュ)との接触したものが、アッシュートンらしいのだ。」


「・・・我が暗部、"黒水仙(ノワール・ナルサス)"からの報告にそのような報告はございませんが?」王や兄にむかって答える。

「・・・この情報を流してきたのは、他でもないアイヴァンだ。」

 また、アイヴァンが何か仕掛けてくるのか?


「天使族との接触が本当なら、ミスリル鉱山のあるライハルトからミスリル鉱石が渡っているかもしれない。武器が渡っている可能性がある。」


「あそこには強い結界と監視と警戒をしきましょう。しかし、王自ら行かれるのは危険です。」レイウォルト・サヴィンがはじめて口を開く。


「・・・結界を張るのは私の役目だ。」

 魔王は魔界の侵入者への結界を張ることができる。その多くは王都や魔王城に限局されており、それを保持するには巨大な魔力を消費する。魔界で最大量の魔力を持つ魔王でなければ保持するのが難しい。


「確かに、結界を張るのは王しかできません。しかし、安易に王都を離れるのは危険です。」ライアンは王が王都を離れることを懸念している。


「その間はアレキサンダーとライアンに王都に残ってもらう。王都の守護を頼む。レイウォルトとウィストリアには視察に同行してもらう。・・・それとアイヴァンの息子の様子はどうだ?」



「・・・カミーユですか?」








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