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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第2章 魔界の黎明
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(57) 潮渦 ・2 ──── by ウィストリア・カーネリアン

ふぅ、ギリギリ今日中に間に合いました。よろしくお願いします。




 


 地下はあっという間にナバレ暗部に制圧され、そこにいた者は全て捕まった。逃げようにも屋敷の周りには魔王国軍、しかも魔王直轄の主翼軍と大将軍までが出動し取り囲んだために、そのものものしい大捕物に大騒ぎとなり、その最中には逃げようにも逃げられなかった。


 カミーユとリシェーナは助け出され、ナバレ家で手当てを受けいる。


 その場で捕らえられた者は、元魔王国右翼軍アルティオスを筆頭とした夢魔族(インキュバス)達、奴隷となっていた獣人、半魔獣などで、カミーユの両親は屋敷には居なかった。カミーユ達が囚われていた屋敷はアルティオス名義であったためを上手くアイヴァン伯爵は逃げおおせたらしい。


「・・・アイヴァンめ、今回も上手く逃げおおせたな。」ナバレ暗部筆頭ウィストリア・カーネリアンは歯噛みする思いでいたが、これでカミーユはこちらに囲うことができると少し安堵していた。


 話によると、上手く魔力を循環させ放出できるようになったらしが、急な魔力酔いもあって気を失ったらしい。色々限界だったはずだ。緊張続きだった心身は解放され、今はひたすら眠っているらしい。


 本命のアイヴァンは捕らえることは出来なかったが、アイヴァンの違法組織のごく一部だが、摘発することができた。しかし多くは地下の更に奥深く潜り込まれてしまい、手が出せなかった。


 それでも、魔王陛下と兄はよくやったといたく喜んでいたので、まあよいとするか。


「リシェーナの夢魔族覚醒の鍵をリシェーナの意志に任せているとはな、過保護なお前らしい。」兄アレクサンダーに言われる。


「・・・うちの一族で、妻とリシェーナしか夢魔族(サキュバス)がいない。アイヴァンとは逆に我が一族は吸血鬼(バンパイア)ばかりだ。ナバレでも、夢魔族に対して吸血鬼はまだ差別する傾向があるからですよ。親から子へ系統を必ずしも継ぐこともない、なのに魔族間でも種族の違いが大きい。その違いをそれぞれが補いあうことがないので、まだ幼い子達が成長時にとても苦労するのです。」


「我らが天使族(アンジュ)だった時はそんな事さえ気にならなかったのにな。」と兄が頷きながら自重するように笑う。


 確かに堕天した者しかわからぬことかもしれない。


「天使は親子の情に薄いですからね。」だから、兄弟の絆を尊ぶとも言える。


 天使はその位の者が失われる、死なないとと次代の者は生まれない。親から子へ位を継ぐのではない。胎果と呼ばれる天界の、世界樹の実に宿り、胎果から時が熟したときに生まれ出る。同じ枝から生まれたものを兄弟と呼ぶ。天使同士睦みあい、愛し合うことはするが、女天使は子を孕むことはない。


 普通はひと枝に胎果は一つしか実らないから、同じ枝の者は特別な繋がりを持つのだ。


 『子が宿る』ということが種族でこうも違うとは思いもしなかった。


 だから、ナバレは一族を大切にする。

 同枝の胎果であったもと天使族の我らと、明らかに血を分けた、堕天してからの子供達。魔族は胎生で血脈を延々と繋ぐことができる。


 そんな血の繋がりに我ら兄弟は特別な思いを持つのだ。生まれもった種族は関係ない。血の系統が我らをひとつにし、守護する。


 それをアイヴァンは踏みにじった。カミーユは明らかなアイヴァンの血脈であるが、あの一族は種族の壁をどうしても越えることはできないらしい。


「アルティオスは捕らえたが、アイヴァンの地下組織での役割は、奴隷調教のみで、この国ではそれを罰することができない。唯一リシェーナの誘拐で立件出きるかどうかだ。」


「・・・・。」私はカミーユの精神的ダメージを思って、今後あの子はこの魔界で生きていけるのか、と気になった。せめて今はなにも感じず安らかな眠りであることを願わずにはいられない。





「──── 入ってもいいか。」


 私は先ほど目を覚ましたとリシェーナの侍女から報告を聞き、リシェーナの部屋を訪れた。


「ごめんなさい、お父様。」

 私が部屋に入っていくとはっとなって、リシェーナの声は幾分震え顔は俯いていたが、しっかりとしていた。本当に無事でよかったと思う。娘の無事を喜ぶ親心が溢れる。


「・・・まず、無事でよかった。」俯いて、反省しているリシェーナの頭を私はそっと撫でた。


 リシェーナははっとして泣きそうな顔をして私を見つめ返す。「・・・しかし、カミーユを更なる危機に堕としたのは、お前だ。」


 リシェーナはわなわなと震える。少しきつい言い方だったが、事実だ。リシェーナの勝手な行動で危機に晒された。



「お前にはナバレの暗部は ── 無理だ。」




「 ────!!お父様っ!」リシェーナの小さな叫びは悲鳴にも似ていた。


「仲間を、護衛対象を危機に陥れる者は暗部には不要・・・・リシェーナ、お前は優しい子だ。暗部の仕事は非情で残酷、感情で動くのは自身を、仲間を危機に晒す。まだまだ力不足とわかっていながらの自分勝手な行動でどれ程我らをも危機に晒したとおもっている?」

「 ─── ごめんなさい、お父様。でもっ!!」


「言い訳は許されない。」


 ナバレは、一族でこの国の暗部を担ってきた。リシェーナにも、その教育もそろそろ始めようと思っていたところだった。本人が暗部を担うことを願う気持ちも知っている。


 しかし、もともと持つ気質、資質というものも考えなくてはならない。



 私はリシェーナから離れ、見下ろして言った。「 ─── 今は休むことだ。」


 リシェーナは私にすがるような目を私に向け、私のことを呼ぶ。


 私は背を向けながら、少しの失望と安堵を感じていた。


 リシェーナには暗部を担って欲しい惣領としての気持ちと、泥々した世界から愛娘を遠ざけたい親心。



 リシェーナは夢魔(サキュバス)で、カミーユは吸血鬼(バンパイア)。リシェーナはカミーユのことを恋慕っているようだが、アイヴァン一族であるカミーユを更なる危機に堕としたのは、他でもないリシェーナだ。リシェーナは夢魔族(サキュバス)であるから、貞操などいずれ箍が外れれば、本人は本能のまま性を糧にする魔族になるのだ。だが、カミーユはリシェーナの今の気持ちを大事にしてくれたのだ。それをリシェーナはあの地下の部屋で理解したはずだと願いたい。カミーユは必死に、自分の魔眼でリシェーナが意図しない魔力解放は、避けたかったはずだ。


 あの両親とアルティオスの責め苦になんとか耐え、まあギリギリのところだったが我らが踏み込めた。カミーユにとっては後悔することでも、私には許容範囲なのだから気に病まないように言わなくてならない。



「とにかくとも、アイヴァンとアルティオスの今後の動きに注意だ。」



 ナバレ暗部にアイヴァンを注意深く監視するよう通達を出す。





 この日からこの魔界を大きく揺るがす事態が起こるのは、今思えば必然だったのか。





 私に巣くう不安が形となって現れるのは、もうすぐそこに迫っていた。





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