(55) 絶望と希望と・6─── 覚醒
少し長めです。
身体が熱い。真の底から熱い。
身体の底からうねる様に、魔力が魔眼の力が増幅され放出したいと暴れる。
「うっ、ううううっうー!!ぐっ、げほっげほっ!!」
私が従うと言うと直ぐに、魔薬を多量に与えられた。吐き出さないように口を押さえ込まれて吐き出せない。だが一部は吐き出すことが出来た。
全部飲めば、意識を保ってられない。
私は荒い息吐いて、何とかそのうねりを放出しないように、なるべくゆっくりと呼吸した。
しかし、呼吸は荒く全身は痺れる様に力が入り、弾くついた。
両手は天井から吊るされ、首や手首に薔薇の枝が巻かれ、鋭い棘が肌に食い込む。ギリギリと軋み、少しでも動くと棘が食い込み、肌を裂き血が少しずつ流れる。
痛みはない。というよりは痛みを感じるはずの脳は魔薬で知覚が濁る。時々、雷撃を与えられると、身体が跳ね、首を絞めて目が苦しさに開くと意識せずに魔眼の力が放たれる。
魔眼が部屋にいる全ての者に晒され、皆悲鳴や呻き声をあげてお互いを貪り続けていた。
私もさんざん身体も、心も凌辱された。
身体中が悲鳴をあげる。感じたくないのに、心は悲鳴をあげるが体だけが心から分離し、裏切り快楽を貪ろうとする。
これでは、父や母たちと私も同じではないか。
リシェーナも部屋の片隅にいる。私が言ったことを守っていたが、私の拷問にかけられて叫ぶと「やめて、やめて。」と声を震わせて泣いているのが聞こえた。
奴隷達の手が私の身体を這いずり回る。
──── そうか、いくら絶望して、嘆いても、堕ちてしまってはこいつらと同じ穴の貉。
何処か心のなかで父や母や夢魔達を蔑む自分がいた。こいつらと自分は違うのだと、心の奥底では優越感に浸り、蔑み冷ややかな目を向けていた。
ただ、私は親に愛してもらいたかった。
だが、その夢魔たちより勝ると言う吸血鬼の傲慢な優越感が夢魔には癪にさわるのだと知らずにいた。
ここには本当の孤独と絶望、そして欲しかない。
薔薇の棘が食い込むが、その痛みで意識を保つことが出来ているのかもしれない。なんとか魔眼を使い、父や奴隷たちにリシェーナに意識を向けないように制御した。
「・・・・・。」私は自分に""が起こり始めていることに気付きはじめていた。
責められ続けた私の身体に意識を集中させた。
どうも淫靡な匂いを放って蟲達を引き寄せているらしい。
「"毒の花" ─── 魔界には数々の毒花があるが、お前ほど美しくて淫靡で甘美な匂いを放つ毒花はない。えっ?涙ぐましいな。カーネリアンの娘が蟲どもに喰われぬようにしているようだがなぁ ───── だが、そろそろ私も飽きてきた。」アルティオスは私の首から流れる血を舐めた。血を好むのは吸血鬼だが、この夢魔族は血を好むらしい。
首筋を舐められ心も身体も軋み、ぞわりと何かが底から這い上がってくる。
「くっ・・・・っっ。」とビクッと身体が跳ねる。
「・・・漸く、感じるようになったか?」
荒く呼吸する私を嘲るように、アルティオスは笑い、いっそう私の身体を撫で回し犯した。
もう、限界に近づいてきていた。もう身体の震えが止まらない。
「 ──── いっそのこと、心を殺して仕舞われたら?人形のように。」
その言葉にぼんやりとする頭を奮い立たせて開眼すると、そこにあろうことか部屋の隅で震えていたリシェーナが立っていたのを確認し、瞠目した。
眼は血走り、妖気を纏うようにして立っている。いつもとは違う妖艶な大人の色気を放つリシェーナがいた。
「 ――――― !!これはこれはリシェーナ嬢、夢魔としての誇りは忘れてはいなかったか。吸血鬼ばかりに囲まれて育ったゆえ心配しておったが。」
「リシェーナ!?」
「ええ、その通りですわアルティオス様。夢魔は性を糧とする種族。私は吸血鬼である父にその事を抑えられて生きてきました。でも私ももう子供ではありません。夢魔としての生を得てるからには、それらしくいきてゆかねばね、カミーユ?」
それは私の魔眼で、箍が外れてしまったリシェーナだった。
「貴方の性を私に頂戴。皆がいうように、とても甘美な匂いがするわ。貴方の魔眼が私の固く閉じられた理性の鍵を開けたのよ。」
「・・・リシェーナ・・・・」
「いつまで抵抗するつもりなの?ああ、でももう限界ね。ここは絶望という快楽を糧にする夢魔と貴方の魔眼が引き起こした奴隷ばかりですもの、後はもう貴方も私も堕ちるだけ。」
そう言って見たこともない妖艶な笑みを浮かべて私に触れた。
「や、やめ、ろリシェーナっ!」ますます震えが抑えきれない。
「私が触れて感じてくれた?」そう言ってリシェーナの指先が私の唇に触れ、そして口付けしてきた。
「 ──── !!」やめろと叫びたかったが、逆に口を開けてしまったら、舌が侵入し、避けようにも後頭部を押さえ込まれてしまい、リシェーナのなすがままになった。
──── もう、限界だった。
リシェーナの口付けは甘美であり、私の箍を外すには十分だった。
お互いに相手の唇を貪りあう。いつの間にか両手に縛られていた薔薇の枝は外れ、手が自由になっていた。
私のなかの魔力が沸々と沸き出すのが感じる。かつてない感覚だった。
欲と魔力は相反して存在したのだ。魔眼ゆえに私は自分を抑えてきた。抑えてきたいたゆえに魔力を上手く放出できていなかった。
魔法磁場が乱れた。
私は魔法磁場の制御は元々得意だった。ただ、親たち他の魔族は磁場制御など地味な魔法に興味を示さず、魔力が弱いと私を罵った。
かつてない身体中に魔力が循環しているのを感じた。
身体が熱かったが、暴れていた魔力が循環できるようになった為に苦痛は治まっていた。
極限になってやっと魔力の覚醒を迎えたようだった。
ふ、とみるとリシェーナは私の腕の中で欲に耽って震えていた。周りの夢魔も奴隷達も動きを止めて皆が私を見ていた。
魔力が覚醒してもこの状況は最悪といってもおかしくなかった。
「 ──── うわっ!!」ビリっとした強い
雷撃が私を襲った。アルティオスだ。腕のなかにいるリシェーナは雷撃で気を失っていた。
「魔力が覚醒したからといい気になるなよ、カミーユ。ここは何人をも阻む地中の要塞。お前に自由はない。これまで以上に役にたって貰わねばならない。そんな娘を離してこっちにこいっ!」アルティオスに、更に魔力封印の首輪が填められようとしていた。
ドカーンッ!!と突如大きな爆発音が聞こえ、建物全体が大きな地響きに揺れ、パラパラと天井の一部が降ってきた。
強い魔力を感じる。
更に、ドカッという音がしたかと思うと、目の前にオーブリーがいた。壁に大きな穴が開いていた。
「遅くなって悪かった、カミーユ。・・・・無事にとはいかないようだが、生きてはいるな。」私の有り様を見て、オーブリーの瞳が揺れている。安堵なのか怒りなのかはわからない。
「どうだ、オーブリー、いたか?」といってカーネリアン卿もあとから入ってくる。私の顔をみて安堵の表情を浮かべるが、私の腕のなかのリシェーナを認めて目がつり上がった。「リシェーナッ!!」
裸の私がほぼ裸の気を失ったリシェーナを抱いていたら目もつり上がるだろう。でも、父であるカーネリアン卿は次に安堵の表情を浮かべた。「ありがとう、カミーユ。リシェーナを守ってくれたんだな。」
「 ──── えっ?」私は欲に負け、もう少しでリシェーナを抱きそうだった。感謝されるいわれはない。禁を破るところだったのだ。
私の戸惑いにカーネリアン卿は頷いてくれた。
「大丈夫、わかるよ。カミーユが守ってくれだ。貞操の魔法は解かれていない。だが、夢魔覚醒の鍵は解かれている。これはリシェーナが自覚して外したものだ。カミーユの魔眼の力を受けてしまったからといえるが、いずれ外されるものだから、気に病むことはない。」
だが、後ろめたさと安堵と私の心のなかで責めぎあった。
もう、いろいろ限界だ。
そこでわたしの張りつめていた気力はプツリと切れた。




